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幼稚園のガーディアンナイトは諜報員(スパイ)  作者: 木場貴志
第3章 諜報員(スパイ)を襲う、ちっちゃな襲撃者
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第3章 諜報員(スパイ)を襲う、ちっちゃな襲撃者 その2

「年長組の教室はここです。今は朝の朝礼がまだ続いていますね。終わったら、中に入って早速始めましょう」

「はい」

 しばらく中の様子を伺いながら、待つ。

 とはいえ、程なく担任の教師の話が終わり。

 彼女はこちらを見て、目配せをする。

「では、入りましょう」

 園長先生に促され、一緒に教室に入っていくと。

 子供たちは園長先生の後ろから入って来た俺の姿を見るなり。

「だれだ! おまえ!」

「あやしいやつ! やっつけろ!」

 ばしゃあっ!

 いきなり顔に何かかけられ、怯んだところを。

「ぐほっ!」

 思いっきり手加減無しのボディアタックを食らって、その場に転ばされてしまう。

「ゆうかいしよっうったって、そうはいかないぞ!」

「こどもだとおもってナメるなよ!」

「おもいしったか!」

 転ばされたところに次々と上から飛びかかるようにして乗っかられ、頭にはばしゃばしゃ水鉄砲で水をかけられてもうびしょびしょ。

 最初の不意の一撃はこの水鉄砲だったみたいだ。

「ちょっと、あなたたち! やめなさい!」

「だってせんせー! こいつ、しらないやつ! あやしい!」

 俺に乗っかってぽかぽか殴りながら、担任の教師にそう言い返し、やめようとしない。

「はい、そこまで! 全員そこに並んで座りなさい!」

 ぴしゃりと園長先生がそう命ずると。

「……はぁーい……」

 かなり不服そうな様子を見せながらも、全員俺の上から退いて、園長先生の指さした辺りに横一列になって座る。

「マット先生、大丈夫ですか? ……ああ、もうびしょびしょですね……」

「いや、まあ、このくらいなら大丈夫っす……」

 担任の先生が手近な備え付けのタオルを持ってきてくれたので、とりあえず濡れた頭をそれで拭いた。

 まあ、濡れた服はしばらくほっとけば乾くだろう。

「さてと。キミたち。どうしてこういうことを?」

 園長先生が目の前に並んだ男の子たちに尋ねる。

 すると、一瞬顔をお互い見合わせた後、そのうちの一人がこう答えた。

「おとといだったかな……おとうさんによばれて言われたの。これからもしかすると、わるい人がぼくたちみたいなこどもをゆうかいしようとねらってくるかもしれないから、きをつけなさいって」

 すると、他の子も口々に。

「ぼくもおとうさんにおなじこと言われた」

「ぼくも、おとうさんがおかあさんにはなしてたのきいてた」

「それで、ようちえんで、みんなで気をつけようって話してて……ぼくたち年長組だから、他の組の子もまもらなきゃって」

「だから、しらない人が来たら、たたかえるように準備してたの」

 俺は園長先生と顔を見合わせた。

「ごめん、全員にちょっと聞いていい? 他にも同じようなこと、ご両親とかから言われたとか、聞いたとか、そういうことがあった子、どのくらいいますか? 手を挙げて」

 俺がそう訊くと、ほぼほぼ全員が手を挙げた。

「あのね、きょう、ここへ来るとちゅうで、ようちえんのまわりにヘンな人いたよ」

 一人の女の子がそう声を上げた。

「どんな感じに変だった?」

 そう尋ねると。

「なんかね、とおめがねでようちえんのなか、のぞいてたの」

 その女の子がそう言うと、他の子たちも。

「あ、そう。いたいた! なんかちょっとこわい」

「僕も見た。だから、やっぱりおとうさんが言ってたこと、ホントだったんだって、思った」

 そう言って、みんなで頷き合う。

「園長先生……これ、マズいですね……」

「マット先生、どうします?」

 園長先生に対応を尋ねられ、少しだけ考えに沈む。

 まず、とにかくやらなくてはいけないことは。

「とりあえず、子供が下手に危険な行為に出て身を危険に晒すことは避けないといけません。子供たちにどう行動するか、一刻も早く教え込まないと」

 いきなりで急だが、今日のうちに最低限のことは教えておきたい。

 ただ、子供たちがどこまで付いてきてくれるかは全くの未知数。

 どうしたものか。

 準備時間が全くないが、やってみるしかないか。

 頭の中をフル回転させて、教えるべきことをリストアップする。

 そうしていると。

「先生、先生」

 園長先生に肩を叩かれた。

「あ、はい」

「何はともあれ、まずは子供たちに自己紹介を」

 ……あっ!

 すっかり忘れてた。

 子供たちにとっては初対面のおじさんだもんな。

 とりあえず、名前と顔を覚えてもらわないとな。

「みなさん、初めまして。僕の名前、マットと言います。覚えて下さいね」

「はーい!」

 子供たち、元気にお返事。

「マットせんせー、さっきはごめんなさい」

 真っ先に俺の顔を水鉄砲で撃ち抜いて、飛びかかってきた男の子が俺の所に寄ってきて、謝ってきた。

「ああ、いいんだ。きみは、とても勇敢だな」

「うん。ぼく、おとうさんみたいに、みんなを守れる強い男になりたいんだ」

「そうだったんだね」

 すると、園長先生が。

「この子……パトリックくんのお父様は、族長であると共に、首都近衛連隊の指揮官でもあるんです」

「なるほど。それでなんですね……」

 もう一度、今度はしゃがんで、目線を合わせてパトリックに語りかける。

「なあ、パトリックくん」

「はい」

「きみの心がけはとても良いけれど、まだ、ああいう危険なことはやっちゃダメだ。こんなところできみに何かあったら、お父様が悲しむぞ」

「でも……」

「うん、分かっているよ。だから、どうしたら良いかは、これからひとつひとつ、私が教える。難しいことはないが、私が教える通りのことを、きちんとできるか?」

「うん、やるよ」

 彼はやる気に満ちた視線をこちらに向けたまま、頷いた。

「よし。他のみんなも、知らない人に出会ったら、どうしたら良いか、これから教えることをしっかりやって下さい。いいですね!」

「はーい!」

 うん、のっけからトラブル含みだったけど、スムーズに入っていけそうだ。

 結果オーライ。

「じゃあ、まず、一番最初に一番大切なこと。さっきみたいに、知らない人を見つけた場合ね!」

「やっぱり、水鉄砲はダメ?」

 早速子供たちから質問が飛ぶ。

「あれは、やっぱりダメだな~。本当に危ない人だったら、いきなり撃たれるからとても危険」

「そっかぁ……」

 質問を投げてきた男の子がしゅんとしょげる。

「そういう時は、まず、そっとその場を離れましょう。教室の外で見かけたら、すぐに教室に戻る。そして、教室にいる先生に教えて下さい」

「それだけ?」

「そう。それだけ。まだ、きみたちが出て行くのは危険なだけだからね。さっきみたいなことは、絶対やっちゃダメ」

 一瞬、静かになる教室内。

「分かったかな?」

 少しだけ間があってから。

「はぁい……」

 特に、男の子の一部は不満そうな顔をしている。

「やっぱり不満かな?」

 そう尋ねてみると。

「うん……」

 何人かの子が、俺の言葉に頷いた。

「そうか。でも、やっぱりきみたちに戦わせるわけにはいかないからね。でも、そうじゃないところで、きみたち……特に、男の子にはやって欲しいことがある」

「どんなこと?」

「先生から指示があったり、これから教える合図をされた時、みんなにはその場で静かにじっとしていてもらわなきゃならない。その時、怖がる子がいると思うんだ。女の子とか、他の組の子がいれば、小さい子たち。そういう子たちを励まして、元気づけて欲しい。一緒にいて、そういう子たちを落ち着けてあげて欲しい。これは、とても大切な役目だ。泣いたりする声を聞かれたら、悪い人たちに君たちがいる場所が分かってしまう」

「うん、わかったよ」

 男の子たちが頷いた。

「みんなも、先生たちが静かに……って、合図をしたら、じっと静かにしていて欲しいんです。わかりましたか?」

「はーい!」

 教室の子供たちは、頭では一応分かってくれたようだ。

 よし。

 じゃあ、実践だ。

「じゃあ、質問。さっき、先生が来た時みたいに、知らない人を見かけたら、どうするの? 分かった人手を挙げて!」

「はーい!」

「はいはいはーい!」

 ほとんどの子供たちが元気に手を挙げている。

「じゃあ、きみ。名前を教えてくれないか?」

 さっき、不服そうな顔をした男の子たちの一人を指名する。

「僕の名前? アンリだよ」

「じゃあ、アンリくん。さっきみたいな時、どうするんだ?」

「すぐに離れて、教室の先生に教える……で、合ってる?」

「正解! そしたら、教室ではどうするの?」

「しー!して待つ……でしょ?」

「その通り。まず、今日はこの2つ、覚えて下さい。他のみんな、自分の答えは同じだったかな?」

 他の子たちにも聞いてみると。

「うん、同じだよー!」

「みんなせいかい?」

 口々にそう言う子供たち。

「答え同じだった子、みんな正解ですよ~。教えたこと、みんな、守れるかな?」

「はーい!」

 と、良い感じにまとまったところで。

 から~ん、から~ん♪

 園舎内に鐘の音が響いた。

 俺のこの教室での担当の時間はこれで終わりだ。

 ここの年著組の担任の先生が、

「はーい。それじゃ、みんな、この時間はここまでです。マット先生と園長先生にごあいさつしますよ~!」

 すると、座っていた園児たちは全員立ち上がって。

「はい、それじゃあ、ごあいさつ。先生、ありがとうございました!」

「「ありがとうございました!」」

 担任の先生の後に続いて、園児たちが元気に挨拶した。

「はい、それじゃ、またね」

「またね~!」

「ばいばーい!」

「せんせー! こんどあそんで~!」

 子供たちが手を振って見送ってくれる。

「そうだな。今度時間ある時は遊びの時間、先生も混ぜてくれ」

「はーい!」

 元気なお返事の子供たちと、もう一度手を振り合って、教室を後にした。

 教室を出て、降りる階段に入ったところで。

「急なハプニングもあったのに、なかなか堂に入った指導でしたね」

 園長先生が褒めてくれた。

「恐れ入ります」

「最初はどうなるかと思いましたがね……」

 園長先生はそう言って苦笑する。

「子供たちは子供たちなりに、考えているということが分かっただけでも、大きな収穫ですよ。ああいう意識をしていてくれれば、私としてもやりやすいですから」

 俺の言葉に、園長先生も頷いて。

「私も……改めて、子供は侮れないと教えられた気がします。大人が思っている以上に、子供は世の中で起こっていることに敏感で、彼らは彼らなりに考えていると、頭では分かっていましたが、あんなことまで考えていたとは。ですが、たまたまですけれど、その相手が先生で本当に良かった……。子供たちの話を聞いて、肝を冷やしました」

 先生には申し訳ないですけれど……と、園長先生は付け加えながら、少しホッとした顔をする。

「そうですね……。本当に危険な相手にあんな行動をする前に見つけることができたのは良かったですね」

 俺も園長先生の言葉に頷く。

「それにしても、あそこから、子供たちの意識をしっかりと修正していただけたのは助かりました」

 まあ、とりあえずはうまくいったのは良かったとは思うが。

「しかしながら、もっときちんと子供たちを守る態勢を考えないといけないと思います。同時に、子供たちもそれに合わせて行動を訓練しないといけません」

「具体的には?」

 園長先生が俺に尋ねる。

「とりあえず、いざという時は全園児を一カ所に集めた方が良いですね。分散していては、私一人ではすべてを守り切れませんし。その時に集まるべき場所と、どういう合図を園内でするか、それと、集まって身を隠す時の行動をどうするか。決めたり訓練したりするべきことは多いですね」

 俺の答えに、園長先生は。

「では、次の空き時間は、園内をくまなく案内しながら、どこに集まったら良いか、そこから決めましょうか」

 そう、提案してくれたので。

「ぜひ、お願いします」

 俺もその提案に乗ることにした。


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