最終章 ガーディアンナイトへのサプライズ その1
そうして3日後。
就任式当日。
礼装姿の大使閣下とダイアー中佐と同じ馬車に、俺は通常の制服姿で随伴している。
万が一、襲撃を受けた場合には、まず俺が大使閣下の盾になって戦うためだ。
そのための最低限の武装として、随行の武官には拳銃と剣を宮殿内まで携帯することが許されている。
他にも何人か、随行の士官・下士官がいるが、それは後続のもう一台に乗車している。
車列は特に何事もなく、城内奥深くの宮殿へ付けられ、まず俺が最初に降り、周囲の安全を確認した上で、ダイアー中佐と大使閣下を降車させ、その間に後続車からも他の随員が降りてきて、周囲を固めるようにして宮殿内へ入っていく。
宮殿の式場に通されると、国内各地の首長たちとその関係者、そして友好国の全権大使の代表団が席次に従い配置されている。
我々も、案内された場所に整然と並んで就任式の開始を待つ。
そんな中に、見覚えのある顔を見つけた。
ヴィルトール卿だ。
彼は何やら部下にあれこれ指示を出して、就任式直前の準備に余念がない様子。
今の俺は大使の随行員の身分だし、大使の側を離れるわけにはいかないので、特にこちらからアクションを起こすこともなく、ヴィルトール卿はこちらに気付くこともなく、すぐにどこかへ姿を消していった。
見かけて黙っているのも少々非礼ではあるかもしれないが。
そうこうしているうちに、就任式の開始が宣言され、新任の大酋長が会場に登場する。
そして、宣誓の後、父親の死後、職務代行を担ってきたヴィルトール卿から印綬を引き渡され、就任式そのものは終了する。
その後、参列した友好国の大使に対して、順に新任の大酋長が挨拶をして回る……という流れである。
我々、アマルランド王国の代表団の会見順は、最後である。
決められた会見順にいちばん下座側から大酋長が各国の大使に挨拶し、しばらく談笑する……ということを順繰りに繰り返していく。
会見を済ませた大使は、そのまま帰って行くので、見送りの挨拶も兼ねているようだ。
席次が下の方からなので、最初の方はわりとあっさりとした感じに終わる感じだったが、徐々に話しが長く続くようになって、一国一国にかける時間が長くなっていく。
そして待つこと小一時間くらい経っただろうか。
ようやく最後に我が国の順番が回ってきた。
「大変お待たせして申し訳ない」
そう言いながら、我々の代表団の元へ近付いてきた新たな大酋長、ミクー卿。
ダイアー中佐以下、軍人の随行員は一斉に直立不動で敬礼する。
大酋長閣下はそれに対してゆっくりとした仕草で答礼。
大酋長閣下の後ろには、ヴィルトール卿の姿もある。
「大酋長就任、アマルランド王国を代表し、お祝い申し上げます。今後とも、貴国の益々の発展と、両国の友好関係がより緊密になる事をお祈り申し上げる……と、国王陛下からの伝言であります」
大使閣下が祝賀の口上を述べると、大酋長閣下は。
「今回の大酋長選の裏では我々の子供たちの安全確保に、貴国の協力があったとか。感謝申し上げますぞ」
と、答える。
すると、ダイアー中佐が。
「バーンズリー中尉、前へ」
突然指名され驚く。
そういう指名があるなんて事は聞いていない。
一瞬キョトンとダイアー中佐の方を見てしまう。
「何をしている。早く前へ出たまえ」
「は……はっ!」
慌てて前に出て、改めて敬礼する。
「バーンズリー中尉であります!」
少し後ろに控えていたヴィルトール卿が、大酋長閣下の側に進み出て。
「彼が、今回幼稚園での子供たちの警護を担ってくれました」
と、説明する。
「ほう。君が……。重ねて礼を申しますぞ」
「恐れ入ります」
「先程ヴィルトール卿からも話を聞いておるが、立派に任務をこなしてくれたそうだね。また改めて君にも大使館を通じて連絡が行くとは思うが、ヴィルトール君が幼稚園の理事長代理として、君への感謝のしるしとして、おもてなしの機会を用意したいそうだ。そうだね、ヴィルトール君」
「はい。来てくれるね、バーンズリー中尉」
ヴィルトール卿からそう念を押されて。
俺としてはそんなにたいしたことをしたという意識はないが、そんな機会に浴するのは光栄ではある。
「喜んでお邪魔させていただきます」
俺がそう答えると、ヴィルトール卿はにっこりと頷いて。
「楽しみに待っているよ」
「はっ!」
もう一度敬礼して、元の位置に戻る。
その後、大酋長閣下と大使閣下は少し長めに話し込んだ後、会見が終わり、俺達は式場を後にしたのだった。
こうして、大酋長就任式がつつがなく終わって、それから数日。
連日大使閣下やダイアー中佐の外出に随行するなどの任務をこなす日々に戻って、そんな日常に慣れてきた頃。
大使閣下の視察外出にダイアー中佐と共に丸一日随行して大使館に戻り、自分の席に落ち着いて、既に退庁時間も過ぎていたし、そろそろ宿舎棟の自分の部屋に戻ろうかと思っていたところで。
「バーンズリー中尉。中尉宛てにお手紙が届いていますよ」
残っていたミアさんから、封書が手渡される。
「ありがとうございます、ミアさん」
彼女から蝋で封印を施された封書を受け取る。
差出人は、ヴィルトール卿だった。
あ、これはもしかして……。
そう思って、封を開けて中を確認すると。
思った通り、それはヴィルトール卿からの、彼主催によるパーティーの招待状だった。
期日は一週間後、会場はヴィルトール卿の邸だ。
彼の邸でのパーティー……ということは、またあのおしゃまなお姫様と会えるということか。
そんなことを思ったら、ふと、幼稚園で過ごした時間のことを思い出した。
アンジェだけじゃない。
パトリック、アンリ……あのやんちゃ坊主ども、元気にやってるかな?
そう思ったら、なんか、そんなに日数が経ってるわけでもないのにものすごく懐かしく思い出した。
一週間後がすごく楽しみだ。