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幼稚園のガーディアンナイトは諜報員(スパイ)  作者: 木場貴志
第6章 お姫様のパパからのお呼び出し
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第6章 お姫様のパパからのお呼び出し その1

 幼稚園に戻ってからしばらくすると、お昼寝の時間は終わりの時間だ。

 静まりかえっていた幼稚園に、再び子供たちの声が響き始める。

 だいたいそれを合図に、俺達のような特定のクラスを担当していない教職員は、園庭へ出て、子供たちの迎えに来た人たちへの対応をしたり、お見送りをしたりする配置につくのだ。

 しかし、今日はそういった子供を迎えに来た馬車の中に、一台だけ明らかに違う、荷馬車が混じっていた。

 一応警戒も兼ねて、まず俺がその馬車に近づいていくと。

「あ、あんた、ここの幼稚園のバーンズリー先生を知りませんかい?」

と、馬車を運転していたちょっとガタイの良い御者に尋ねられる。

「バーンズリーは私ですが」

 そう答えると、その御者は。

「お届け物を頼まれているんでやすが、どこ運んだらいいですかね?」

 そう言って、後ろの荷台に幾つか積まれている大きな木箱を指す。

 そうか。

 ……ってことは、ミアさんが見繕ってくれたぬいぐるみか。

 仕事が早いな、彼女。

「そしたら、そこの玄関の中の所に置いてもらえますか?」

「へい、わかりやした」

 御者は御者台を降りると、荷台から大きな木箱を引っ張り出してきて、それを俺も運ぶのを手伝う。

 玄関内、内履きエリアの隅っこに木箱を置いて、それをさらに2往復。

 3つの大きな木箱を運び込むと、受け取りの書類にサインを済ませてしまうと、荷馬車は帰って行った。

 後で2階の奥の教室に移しておかないと。

 誰か捕まえて手伝ってもらおう。

 そんなことをしている間に、子供たちはぞろぞろと出てきて迎えの馬車に乗って、それぞれ帰って行く。

 それを一人一人見送りながら、外からの隙を突いた不審者の侵入に気を配る。

 なかなか気が抜けない時間帯だ。

 そして、馬車が入れ替わり立ち替わりする中、徐々に園庭に溜まっている台数は減ってきて、最後の一台に。

 出迎えの女性とチラッと目が合う……昨日も最後まで残ってたあの人か。

 ってことは、またアンジェさんですか。

 またあの部屋かな……探しに行くか。

 そう思って、玄関の中に入ろうとしたところで、アンジェが出てくる。

「私で最後かしら?」

 俺と顔が合うなり、そう尋ねてくる。

「ですね。お迎えがお待ちですよ」

 俺がそう答えると、アンジェは「何を言ってるのよ」と俺に言う

「あなたを待っていたのよ。今日、これからうちに来るんでしょう? 帰りは一緒に乗せていくから、みんなが帰るまで待っていたのよ」

と、「どう、偉いでしょ? 感謝しなさい」とばかりに胸を張るアンジェ。

 他に俺を待っているような人物も居なさそうだし、どうやら、今夜俺を召喚した人物というのは、彼女の父親で間違いなさそうな感じだ。

 ただ……まだ、玄関の中に荷物が残ったままの状態だ。

 急いで2階の奥の教室に運び込んでおかないと。

「じゃあ、ちょっと片付けるものがまだ残っているから……」

「え、まだ仕事を片付けていなかったんですの? 仕事が遅いですわよ。仕方ないわね。早く済ませてきなさいな」

 ちょっとおかんむりな感じで溜息を吐く。

 全員送り出してから、誰か捕まえて箱運びを手伝って貰おうと考えていたが、暢気なことも言ってられない。

 アンジェを待たせるのもあのお姫様な性格考えると後々まで色々言われそうというのもあるが、彼女を待たせるということは、俺を召喚した張本人である、彼女の父親を待たせることに他ならないからな。

 仕方なく、ちょっと重くてサイズも大きめなもんだから、扱いに難があるけど、一人で箱を上の階の教室まで大急ぎで運び込む。

 それを都合3往復。

 あの時御者の人に中まで持ってきてもらった方が良かったかなと一瞬思うが、あまり部外者を内部……それも、教室周りまで入れるのはマズいか。

 さすがに息が切れてきて、そんなことを思ってしまったりとかしたが、大急ぎで作業を済ませ。

 アンジェの元へ戻っていく。

 玄関先で、彼女は迎えに来たメイド姿の母親と一緒に俺を待っていた。

 アンジェは、戻ってきた俺を見るなり。

「まったくもう。遅いわよ。いつまで待たせる気?」

 お嬢様節全開で俺を出迎える。

 そして。

「ほら、早く乗るのよ。あなたの席はそこ」

 俺の席は彼女によって既に決められていたようだ。

 言われたとおりの場所に座ると、ちょこんっと彼女が隣に。

 彼女の母親がその向かいに座り、扉を閉めると馬車が動き出した。

 馬車が動き出すと、アンジェは俺の膝の脇に手を置いて。

 しばらく様子を見ていると、彼女は何か言いたげにこっちを睨め付ける。

 ……ん?

 どういうことだろう?

 そうこうしているうちに、彼女はついに痺れを切らして。

「まったくもう、気が利かないわね。レディの横に招かれた紳士は、招いたレディをエスコートするものよ!」

 ……要するに、手を握れと。

「大変失礼を……」

 そう言って、彼女の手を取ると。

「分かれば良いのよ」

 そう言って、彼女は機嫌を直してくれたようだ。

 向かい側にいる彼女の母親は、苦笑いしながら、俺に向かって小さく「すみません」という感じに、ちょっと申し訳なさそうに軽く頭を下げる。

 当の姫様はというと、俺にエスコートされてすっかりご満悦といったご様子。

 どうやら、妙に気に入られてしまったらしい。

「それにしても、あなたいったい何者? お父様が赴任したばかりの新任の先生をわざわざ呼びつけるなんて」

 ふと、アンジェがそんなことを俺に尋ねてくる。

「さあ……。私も何も聞いていませんもので……。今夜、とある方がお会いになるので、終業後に迎えを寄越す……としか私も伺っていないので、相手がどなたなのかも分からないのです」

 そう答えると。

「そうなの……? どういうことかしら?」

「アンジェは昨夜、お父上様にマット先生の事をいろいろお話ししていましてね。それで会ってみたくなったのでは?」

 アンジェの母親がそう言うと、アンジェが首を横に振る。

「それはないわ。その程度でお父様が興味を持つとは思えないわ。きっと、何か特別な事情があると思うの」

 ふむ、このお嬢様、なかなかに鋭いな。

 まあ、事情については教えるわけにはいかないが。

「本当にあなた、何者なの……?」

 そう言って、俺を凝視するアンジェ。

「ははは……タダの新任教員ですよ」

 俺は笑って誤魔化すしかないが。

 姫君はなんとなく、それが嘘であることを見抜いていることだけは多分間違いないだろう。


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