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絶対防衛アイドル戦線ピンク・チケット!!  作者: K@e:Dё
(1-0.5)+(1-0.5)=1章 / 誕生! 新たなるプリマドンナ!
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第36話 / 極楽坂 / どきゅん! 政治の季節のはじまり!(前編)

36話は長いので前後に分割していますが、(前)は復習編&全編解説なので最後の方以外はサラッと読み流して下さっても構いません。

 僕ら官僚、――国家公務員は聖アイドル帝国の安寧と安泰の成就を企画する。無論、理念であり理想であり実情とは異なるが、どちらにしても企画の場では秩序が求められる。秩序とは指揮系統ラインである。指揮系統とは序列である。国家公務員の序列第一位は各省庁の次官だ。各省庁の最高責任者である尚書(しょうしょ)(※大臣)は与党の構成員から任命される政治家であり、行政の専門家ではないからには、その職務は大別して二つ、大方針の提示と予算の獲得となる。要するに『俺は私はこのような政策を推し進めたい』と配下の官僚に号令、その企画と実施を任せ、それが失敗すれば責任を取り、国会に己の政策の有用性を説いて少しでも多くのカネとモノを分捕るのである。僕らの業界であればプロデューサーとマネージャーの関係に似ている。尤も管理職とその部下の関係はどの業界でも大同小異か。


 ともすると『予算を確保してやるからお前らの好きにしろ』と官僚に白紙委任してしまう尚書も居ないではない。是か非か。時と場合だ。官僚が信頼に足るのであれば(暴走して訳の分からない法案を作らないのであれば)、又、官僚を管理するだけの力量が尚書にあるのであればそれでもいいのかもしれない。大体、尚書は国会だの委員会に出席するだのの通常業務の片手間的に尚書業務もこなしているから、尚書が政策策定の現場に携わるのは現実的ではない。尚書をたすける尚書政務官にしてもこれは同様だ。


 現実的に政策策定の総指揮を執るのは各省庁の次官である。次官は尚書の大方針を咀嚼する役目だと思えば間違いない。この次官を補佐する役割として各省名を冠した審議官が居る。アイドル省であればアイドル省審議官だ。この下に政策統括官、外局の長官、尚書官房の官房長が横並ぶ。政策統括官は以下に述べる内部部局を横断するような業務――アイドル省はアイドルに纏わる全てを監督している。対ルナリアン戦闘以外にもアイドルの採用や育成や陣地構築やその為の資材確保と保管等も業務に含まれる。だから部局を横断する仕事も必然的に発生する――を統べる。人間皇帝府だと考えれば宜しい。外局とは(皇帝府で言えば〝イチジク機関〟がそれに該当する)その省が受け持つ業務の中で独立性の高い業務を担当する部署を指す。大臣官房は省内の人事、予算配分、国会対応を任される部署であり、であるからには大臣官房長が省内に築く地位と権限は並列の二役職を遥かに凌ぐ。


 で、次官が咀嚼した方針を実際に立案して実施する省の内部部局として一番最初に局がある。局の中に部が置かれて、部の中に課が置かれて、課の中には係がある。部の中でも専門性が高い業務は〝室〟を特別に設けてそれに割り振る。この辺りの序列はそれぞれの部局名に〝長〟を付けて並べ直せばいい。つまりは局長、部長、課長と室長、係長の順に偉いと言ったら語弊があるが偉い。僕が補職されている部次長は部長の下で課長の上だ。こうして見ると僕もそれなりに出世していると思わないか。えっへん。はあ。


 ところで、何時かも触れたが、マネージャーが部次長に補職される例はそう多くない。


 そもそも国家公務員は二種類に分類される。総合職と一般職だ。総合職は初手から未来の幹部候補として採用される。総合の名が物語るように省内の幾つかの部署を転々として省の仕組みや省が所管する業務全般につうぎょう、課長以上の管理職にポンポンと(と言っても早くとも三〇代後半)昇進して人を使う側に回り、一般職は(言い方は悪いが)その使われる側となる。


 マネージャーはアイドル省に総合職として採用されてからマネージャー業務を志望したものが基本的には登用される。マネージャーはこのように〝業務名〟であり〝役職名〟ではない。一等、二等、三等などの区分は、本来はマネージャー職務を執行するのに必要な資格の等級である。(実質的に階級として機能してしまっている)


 例外的に一般職や地方公務員(地球の支社で現地採用されて各エレベーターの権限移譲政府やアイドル省支社で働くお役人)や野戦憲兵から登用される事も非常に希だがあるが、だとしても、定年までマネージャーを勤め上げても二等マネージャーになれるかどうかだ。だから大体の一般職と地方公務員の諸君は普通に事務官として働くか、それでなければ督応援官やメイキャッパーやスタイリストの専門教育を受ける道を選び、その道を究める方が二等マネージャーになるよりも実入りが多い。(余談ながら応援管理官と整理官は督応援官の中から選りすぐられた者だけに与えられる業務である。最初から応援管理官を志望する事は出来ない)


 マネージャーは総合職だからただでさえ出世が早い。前線で功績を立てると更に出世が早くなる。だから他の総合職や省庁との兼ね合いで、言ってしまえば『マネージャー(マネージャー業務経験者)だけズルい!』と不平を鳴らす者を少なくする意図で、指揮系統ラインから外れた役職、指揮系統を客観視した上で必要な助言を各部署の責任者に与える課長級参事官、同局長級審議官に補職されるのが普通だ。(お役所には〝ぶんしょうかん〟と云う概念がある。参事官や審議官がそれに当たる。例えば前に挙げた政策統括官は二人とか三人とか居る場合がある。〝政策統括〟の仕事を二人とか三人で分担している訳だ。お役所の仕事は量も幅も広い。となると求められる知識も広い。だからこのような概念が導入された)


 勿論、マネージャーは慢性的に不足しているから、いざとなれば何時でも前線に呼び戻せるような配置を与えておくと云う意味もある。そもそも『マネージャーはマネージャーだけやっていろ』的な不文律もあり、『広く見ればマネージャー業務だから』とアイドル運用局辺りの幹部や支社の社長を務める事はあるが、大抵のマネージャーは何だかんだアイドルと一緒に前線なり首都なりに配置されている。


 ――と、このややしい秩序を強引に一家の食卓に喩えると次のようになる。


 尚書が『今日は汁物が食べたい!』と宣ったとする。と、次官が省審議官と討論した上で『ではカレーにするか』と決め、カレー作りに決められる予算を官房長から請求し、その予算を局長に投げ渡すと共に『カレーを作れ』と命じる。命じられた局長はどのようなカレーであればウケるかを考案する。考案した結果、スープ・カレーがいいらしいので、自分の手下である何人かの部長に、『お前の所では具材を用意しろ』、『お前の所では用意された具材を切るのだ』、『お前の所では具材を煮込んで煮込め!』と業務を配分する。この際、。『切るのはあの部の方がいいのではないか?』と助言するのが局長級審議官の役目であり、『芋と肉は煮る前に焼いた方がいいらしいが誰が担当するべきか?』と悩んだならば、政策統括官がそれを調整する。


 部長は部長で局長から配分された業務を、『それならトマトはお前の課で仕入れろ』、『ジャガイモはお前の課だ』、『ルーはお前の課』と再配分し、さて、再配分された課長は係長らと共に実際の買い出しや調理を行う。完成したカレーはどうなるか。課長が味見をして、部長が味見をしてと上へ上へ繰り上げられて、何処かで作り直しを命じられなければ(調味料を足されたりしつつ)尚書の口に入る。尚書がそのカレーを気に入れば『これを世界中に広めよう!』と国会に持ち込む次第だ。


 因みに――これも何時か触れた内容と一部重複するが――国家公務員と地方公務員とでは何が違うのか。何もかもが違う。地方公務員として各エレベーターで現地採用された者は合格した試験次第で上級、中級、下級に分類されて、上級地方公務員は権限移譲政府の官庁、その各種出先機関、層役所(首都の市役所や区役所に相当するもの)、警察機構、アイドル省支社等の幹部候補生として扱われるが、中堅幹部から上に出世して中枢に食い込むのは難しい。どの役所でも高級幹部職の過半数が国家公務員の出向先に指定されているからだ。


 地方公務員は公務員全体の八割強を占めるが、正直、その待遇は悪い。何処へ行っても国家公務員に顎で使われる。アイドル省で言えば、同じ督応援官でも地方公務員の督応援官と国家公務員(一般職)のそれでは給与から何から何までが違い、両者が一つの現場に駆り出されるとしば々(しば)後者が前者を便利使いして功績だけを横取りする。(応援管理官と整理官に昇進するのは一般職出身の督応援官が圧倒的に多い)


 どれもこれも〝エレベーター独立戦争〟のトラウマが拭い去れない中央政府から各エレベーターに対する締め付けの結果である。


 職を抑えていれば組織を抑えたも同じだ。例えば権限移譲政府は独自にアイドルを保有している。厳密には支社はアイドル省と権限移譲政府との共同で運用されており、支社に所属するアイドルは権限移譲政府の所属でもあり、又、その監督も受けると云う形式を取っている。だが例の〝アイドル保有数制限〟は撤廃されておらず、限られたアイドルの世話はアイドル省から送り込まれるマネージャーが受け持ち、支社の幹部も半ばがアイドル省のお役人、挙句の果てに有事には首都から送り込まれたプロデューサー御一行様が(この前の小春日和さんのように)現場の指揮を取るとなれば、保有するアイドルの養育と維持費を負担するばかりが権限移譲政府の役割になってしまう。なってしまっている。


 首都からの出向組の頭が柔らかければまだいい。しかし、地上勤務を仰せ付かった役人は、最初からそうなる事を覚悟しているマネージャーは別として、『都落ちした!』と悲嘆に暮れたりする。悲嘆に暮れているエリートの頭が柔らかい訳がない。(悲嘆が高じて同じ国家公務員なのに首都の連中を攻撃する出向組も現れたりする)


 そもそもからしてアイドル保有数のバランスも極端に取れていない。首都は現役アイドルの九割近くを抱えている。となると権限移譲政府はエレベーター周辺の陣地を独自保有するアイドルだけでは守り切れない。だから首都の戦力は常に一定数が地球上に配置されており、配置されればその費用の半ば以上を賄うのは権限移譲政府であり、その費用を捻出するには地方公務員の労働条件を引き上げて、それに反比例するように給与は引き下げられる、――


 僕が〝これまでの復習!〟的な話をしているのはどうしてか。


 この〝ピンク・チケット〟支社には二つの派閥がある。社長派と副社長派だ。社長は国家公務員の出向組である。副社長は叩き上げの地方公務員である。アイドル省にも二つの派閥がある。尚書派と次官派だ。今の尚書は先代尚書が急逝した影響で急遽代理登板している少壮の議員だ。行政改革をチラつかせつつ積極的に官僚業務に干渉しているから地方公務員に絶大な人気がある反面、地球出身の極々少数を除き、国家公務員からは総じて忌み嫌われている。水面下では退任工作が進められているとも聞く位にはだ。ひるがえって次官はそれはもうバリバリの保守派である。地球を『』と呼ぶのも憚らない。社長は次官派の副社長は尚書派の係累であるのは言うまでもないだろう。


 社長と副社長の力関係は久しく社長側に若干だが傾いていた。だからこそ副社長は特に意味のない臨時会議アドホックだのを乱発して派閥の結束強化や無所属の取り込みを図ろうとしていた。それがどうも揺らぎつつあるらしい。今度の新発見の反物質エンジンとやらで次官派と尚書派が雌雄を決するからだろう。この力学を説明する為に長々とこのように話した訳だ。


 社長は、いては次官もかもしれない、僕とブシドーを対抗派閥への牽制に使おうとしている。それだけの価値は今の僕らには充分にある。断りたい。断れない。断れば〝教皇庁〟にガチのマジで社会的に抹殺される。自業自得だから抹殺されるのが筋なのかもしれない。だが僕が抹殺されれば次にブシドーを担当する奴が誰か分からない。最悪、僕の前任者が再任される恐れもある。それだけは避けたい。


 いやはやだ。嬉しいなあ。長く無所属だった僕もこれで伝統的守旧派の仲間入りだ。僕自身の思想はご覧のように改革派だが、支社では出向組だから副社長からの風当たりが強く、本社でも昔の悪さが原因で出渕先輩しか肩を持ってくれない。副社長派に走って頭を下げても社長の差し金かと怪しまれるだけだろう。


 この状況と如何に折り合いを付けるべきか。決まっている。僕自身とブシドーに有益なようにだ。

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