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絶対防衛アイドル戦線ピンク・チケット!!  作者: K@e:Dё
(1-0.5)+(1-0.5)=1章 / 誕生! 新たなるプリマドンナ!
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第35話 / 極楽坂 / どきどき! 新たなる始まりと一つの終わり!

 セシウム時計のアラーム音で目を覚ました。


 昨晩、僕はテレビを付けっぱなしで寝たらしい。画面中央で〝テルボス(ぶい)〟が〝たいくうけん(ぶい)り〟をヒショガカッテニヤリマシタ=ロボにお見舞いしている。〝テルボスⅤ〟が戦う敵は法網を掻い潜って利権を貪る謎の悪徳政治家集団〝ヨトウ〟、経済の秩序を乱す団体〝ケーダンレン〟等であり、〝テルボスⅤ〟のⅤとは〝経済Ⅴ字回復〟のⅤであるとされる。〝大忘却〟以前に放送されていたアニメだから具体的に何を風刺しているのかは判然としない。


 が、何であろうと労働者が――〝テルボスⅤ〟のメイン・パイロットは過労で亡くした父の代わりに家族を養おうとゴミ収集員の職に就いた一二歳の少年である。細かい所にツッコミを入れてはいけない。これはアニメだ。いいね――権力者に楯突く構図であるのは疑いない。だからこそ〝テルボスⅤ〟は一度放送禁止措置を食らった。〝テルボスⅤ〟に己の理想を仮託していた当時の国民はその措置に怒り狂い、それが〝エレベーター独立戦争〟勃発の一因ともなったそうだが、これは笑い話ではない。不敬は百も承知だ。アニメのヒーローとアイドルの何処が違う。どちらも人の手で作られた偶像だと云う点では選ぶ所がない。一層の自治会長の件以来は特にそう思うようになった。


 思うようになったとしてもだ。


 僕も子供の頃は〝テルボスⅤ〟に憧れた。大空剣を最高にイカす技だと考えていた。三五歳ともなると流石に厳しい。〝テルボスⅤ〟の強化形態である〝イザナギ景気モード〟の外見が少々派手過ぎるのが気になる。大体、二足歩行ロボット同士が殴り合うのは非効率的、いや、それを言い出したら二足歩行ロボットが先ず非効率的で現実的ではなく、あのね、大空剣ね、五〇メートルもある剣をそんな風に楽々と取り回されたらウチのブシドーが泣いてしまうでしょう。


 それでも憧れは止められない。ツッコミは入れたい。馬鹿げていると思う。それでもだ。大空剣は最高にイカす技だ。偉そうな事を言っているな。僕も一度は子供の頃の夢を忘れた。〝テルボスⅤ〟だなんて見るのも嫌だった。それが今ではこうしてボーッとだが放送していれば見てしまう。ブシドーのお陰だ。彼女の歌う姿が僕にこの憧れを思い出させた。


 物語は物語、現実は現実、――


 そのどれが優れているとか優れていないとかではない。そのどれもが尊い。だからこそどれもが区別されて考えられねばならないのではないか。『現実はアニメのようにはいかない』のは誰でも分かる。だからと言ってアニメを非現実的でツマラないとそしるのは間違っている。アニメが好きな大きなお友達を『何時までも子供のままだ』と罵倒するのもだ。なあ、子供の頃の憧れを忘れてしまった大人に何が出来る?


 区別を付けないといけないのは〝アイドル信仰〟も同じだ。アイドルは神である。その神話を信じるのは人の勝手だ。だがその神話を他領域に援用してはならない。地球人類が生存するには〝アイドル信仰〟を抜本的に改革せねばならないような気がする。アイドルが考え方の基調となっている限りは人類の活動はどうしてもアイドルを超えられないからだ。一層での戦いも〝教皇庁〟に監督されていなければ(手段を択ばずに戦って良かったならば)幾らかは楽に進展していただろう。


 アイドルを超えるか。


 アイドルに縛られている僕にそれが可能か。笑えるな。僕は一介のマネージャーだ。その僕が世界を革命すると?


『おはようございます!』


 と、朝の官営アクタ・放送ディウルナが始まる。僕はネクタイを結びながらその放送を眺めた。


『先ずは朝の感謝から。アイドル招魂社へ向けて礼。礼!』


 何年振りかで礼をした僕を仰天させたのは次の報道で、


『今日のトップ・ニュースです。〝ピンク・チケット〟周辺に構築された迎撃陣地の本陣地地下で空前の新技術が発見されました。発見者は皆さんご存じのこの方!』


『いやあ』広い額をピシャリと叩きながら取材に応じるその佇まいには〝元気溌剌〟の四文字が似合う。この人は何歳になっても年を取らない。外見の話ではない。アイドルの外見が劣化しないのは当たり前だ。この人は心が若い。心が若いから声を聞いているだけで元気になる。『私、また何かやっちゃいましたか?』


〝例外の九人〟である。九人とは、


〝トップ・オブ・アイドル〟――きょうぼくのオオルリ・ウグイス


〝文明の炎〟――アイドル皇帝ストレンジラブ


〝夜しかない世界の昼行燈〟――めいじょうしがたきアルハズラット


〝ぴょんと跳ねて首を刎ねる〟――だんとうだいうさぎのコクジョー・キシドー


〝暗黒微笑〟――あらあらうふふのマーマレード


〝円卓の主〟――議長のエリザベス


〝絶望的な希望〟――素晴らしきサクラ


〝最高速の鎮魂歌〟――サイトカインストームのエーリカ


〝思い付く限りの祝福〟――謎のクエスチョン


 を指すが、映像の彼女は〝絶望的な希望〟の二つ名に恥じない大活躍を今日もしていた。 


『発見されたのは取り込んだ星間物質を利用して推進する反物質エンジンで、これまでの核パルス・エンジンよりも燃料効率にも推進力にも秀でており、皇帝府は――』


「はい」と、僕は片手でリモコンの消音ボタンを押しながら、もう片手でリンリンと鳴る壁掛け電話の受話器を取った。


『私だ』と、名乗りとは言えない名乗りをする声はくたれた中年女性のそれだった。


「おはようございます」僕は受話器を首と肩の間に挟んだ。桃色法被を着ながら尋ねる。「御用でしょうか、社長」


『テレビは見たか』


「見ました」


『またどうしようもないものを見付けてくれたものだ。新しいエンジンの処遇や所有権を巡って上で議論が紛糾するのは間違いない。君も巻き込まれるぞ』


「はあ。ご助言痛み入ります。社長から頂く最初の電話がこれとは感極まりますね」


『皮肉を言うな。状況は変わる。君が巻き込まれるとなると私の立場も危うくなる。君の大事な担当アイドルの立場もだ。ただでさえ君の今の立場は危険だ。伴奏神父の件で〝教皇庁〟から睨まれている。〝教皇庁〟だけではない。身内からも狙われている。昔の君に手柄や出世の機会を横取りされた連中だ。一度は潰したと思った君が復活したとなれば奴らも黙っていない。その感情に諸々の政治や利害が絡んで事は複雑を極めている。分かっているだろう』


「ええ。ですから実を言えば社長からの電話を待っていました。予想していたよりも遅かった。僕を助けて下さい。代わりに幾らでも利用されます」


『私は人に言われた悪口を根に持って何時までも忘れないタイプだ。役に立てよ。直ぐに社長室に出頭しろ』


 電話がガチャリと切れた。頬を掻く。本棚に飾ってある写真立てをチラ見する。僕の腕に抱き着くモモと、急に抱き着かれたから慌てる僕と、何年も前の思い出がその写真の中には色褪せずに保存されている。「行ってくるよ」と僕は写真立てに告げた。写真立てに告げても仕方ない。写真立ては返事をしない。それでいい。僕があの子との思い出を忘れさえしなければ。

 


 

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