~時給750円の小説家~(2)
手持ちが樋口切ったので初投稿です。
─────────五日前の自分をぶん殴ってやりたい。
A4用紙の三分の一にも満たない成果物を直接提出することが一ミリでも頭にあれば、回避できたであろう惨劇がこの一室に広がっている。
提出したどうしようもないペラ一枚はかれこれ十五分も雇い主によって読まれている。
すでに視線が上下した回数は優に10回を超えており、もはや査読の域に入りつつある。
沈黙に耐えかねて背後にいる後続の様子をチラ見すると、各々順番待ちにダラつきながら、紙束二、三十枚程度の代物を小脇に抱えている。どんなに少ない枚数の奴でも二桁は下らない。
トン、と。
微かに薄い紙が机と衝突する音とともに部屋の主が紙面から顔を上げた。表情は読前後で全く変わっていない。整ったその容姿も相まって、人形のようにも感じられる。
『ふむ、一通り読ませてもらった。』
いや違うんすよ。家チカのコンビニのプリンターがイカレまして……などという言い訳もすべて見透かされてしまいそうで、ただただ立ちすくすしかできない。
次に彼女が発する言葉が恐らく最後の一言だろう。
雇用契約の終了。ラクして小金を得ようとした結果がコレだ。サイアクな空気だけが手土産で他には何も残らない。また明日から空き缶と古雑誌集めの日々が始まる。
あ~なんかもうめんどくさくなったわ~
『非常に興味深かった、続きを楽しみにしているよ、少年。』
一言もらってぱっぱかか~えろ。
ポンと樋口が入った封筒を手渡される。
あいやとうごしゃしゃした~
ドアが閉まる。
「ん?」