伝説の英雄と後輩の国王
クレアたちに今までどうしていたかという話をしたアルトはくたくたになっていた。
魔王の話をしたときクレアの顔は鬼のようだった。まぁ、話を進めているとなんとか理解してくれたようだが・・・
そして、エレメージュとローズは騎士団の女たちとガールズトークというやつをしていた。
アルトはクレアと一緒に夜空を眺めながら話をしていた。
「そっか、嫌われてなかったのか・・・エレメージュのいってた通りだ」
「あぁ、サーシャは貴様のことが大好きだといっていた」
「やべっ、嬉しい。生き返った甲斐あるわ」
「それで、さっきの話ほんとうなのか?」
「あぁ、封印を解かれた古代兵器を止めるために俺は生き返った。それで、古代兵器っていうのは魔王の父が造ったもので魔王の力を使わないと止めるのは難しいんだ」
クレアには既に古代兵器の話をしていた。古代兵器を止めることがアルトの生き返った本来の目的だからだ。
「魔王は・・・危険じゃないのか?」
「あぁ、クレアちゃんも話すと分かる。サーシャを狙ったわけじゃない。たまたまサーシャになったんだ。俺も最初はサーシャを苦しめたアイツを許せなかった。でも、十年以上次元の歪みってところに二人っきりだったんだ。腹わって色々話したさ」
「そうか、貴様が大丈夫っていうなら大丈夫なのだろう」
夜空に煌めく星々を眺める二人は手をつなぐ。アルトから握ったわけじゃない。クレアから握ったのだ。クレアも無意識だったのだろう。
「この十年ちょっと、様々なことがあった」
「そりゃそうだ」
「サリアは大賢者と称されるほどの魔導士になった」
「すげえな」
「リリアンは王都の教会で修道女としている」
「うんうん」
「レイネはギルと共に王都の冒険者ギルドで冒険者をしている」
「そうなのか」
「サーシャは・・・貴様が死んでからずっとベルメル邸の自室に引きこもっている」
「あぁ、エレメージュから聞いた」
「私は、私は・・・サーシャに何もできていないッ」
ふいに、アルトの手を握っていたクレアの手に力が入る。
「私は貴様が苦しんでいるのも気づかなかった。いつもヘラヘラして大した実力もないのに権力を振りかざして婚約者であるサーシャを放って色んな女と遊んでいるクズ男だと思っていた」
クレアの声には力が籠っている。クレアの心の叫び。アルトが死んでメッセージを受け取ったあの日以来、誰にも聞かせなかった心の声。
「実際そうだしな、権力を振りかざしてっていうのはあんまり記憶にないけど」
「そうか?すまない、勝手に思い込んでいたかもしれない」
「別に良いさ、俺は嫌われるようにしてたんだ。にしてもクレアちゃんもすごいじゃん。
騎士団の副団長様だろ。無職の俺とは雲泥の差だ」
「アルト、今日は本当にありがとう」
初めて聞いた彼女の優しい声にアルトは思わず顔を見た。
そこには涙をこぼし、アルトの手を握っていない方の手で胸を抑えているクレアがいた。
「泣くなって、クレアちゃんの瞳は綺麗な緋色なのに泣いちゃったら白目が赤くなって赤に緋色の真っ赤な目になっちまうぜ」
「う、うるさい」
アルトは起き上がり、クレアの涙を拭きとる。
「な、なにを」
「大丈夫、この世界は俺が守る。誰も死なせない」
先ほどまでの軽口を叩いていたアルトは消えて、真剣なアルトへ変わっていた。
そんなアルトを見たのはサーシャの事件以来だったクレアはドキリと胸を高鳴らす。
「安心しろよ。クレアちゃんは俺の大切な友人だ。クレアちゃんの大切なもんも守ってやるよ。
まぁ、クレアちゃんの力を借りることもあるけどな。そんときは頼むぜ」
こうして夜は明けた。
美しいドレス姿のお姫様たちが眠る周りには凍りつけにされた山賊たちと獣型モンスターの群れ、複数の小鬼型モンスターがオブジェとして置かれていた。
眠るお姫様たちは周りを茨で囲まれ王子以外は寄せ付けないようだ。
そして、目が覚めたお姫様たちが目にしたのは襲ってきたモンスターを丁度氷漬けにした
少年アルト。見た目は十六歳でありながら、クレア副団長と同い年の英雄。
「あっ、おはよう。少し待ってて、こいつ片付けるから」
アルトが振り向きざまに後ろ指さしたのは危険度Aランク相当のフォレストベア。
「氷牢地獄」
しかし、そんな危険度Aランク相当のフォレストベアさえも、アルトとエレメージュの精霊魔法の前ではただのオブジェと化してしまう。
「砕けろ」
そして、全長三メートルほどの熊の氷像は粉々に砕け散ってしまった。
「これが、アルト・ヴァリアント・・・英雄」
寝起きの騎士団の誰かが呟く。
補足をいれておくと、騎士団のメンバーで交代で見張りをしていたのだが、アルトが「夜更かしは肌に悪いぜ」といって交代しようとしたのだが、頑なに休もうとしなかったため、ローズが眠りへ誘う魔法を発動したのだった。決して、彼女たちが悪いわけではない。だが、アルトがいなければフォレストベアに間違いなくやられていただろう。
危険度Aランク、熟練の騎士団の騎士十人とこれまた同じく熟練の魔導士五人でようやく倒おすことのできる強さなのである。
それを一人で倒してしまうアルトははっきり言って規格外だ。エレメージュの力のおかげということもあるだろうが、一番は転生する前に神々から授かった加護のおかげだろう。
そんな彼を見ていたクレアを含め騎士団の女たちは驚きを隠せない。これが英雄ということなのだろう。誰もがそう思っていた。その中でも一番驚きが隠せないでいたのがクレアだった。
学園時代のアルトをまだ拭いきれないのだろう。サーシャの事件でアルトの真の力を知っているとはいえ、あのときよりも何倍も強くなっているアルトにはある種の恐怖すら抱いた。
「さて、モンスターの反応もなくなったし、朝食の準備するか。ローズ、茨の解除頼む」
モンスターから彼女たちを守るために展開していたローズの魔法を解く。
朝食を軽く済ませたあと、アルトたちは王都へ向かって歩いた。
アルトたちが野営していた場所から王都までは約十キロ。三時間もあれば余裕で着くだろう。
歩きながらアルトは騎士団の少女たちに話しかけられていた。話の内容の大半がサーシャについてのものだ。サーシャは現在、ベルメル邸の自室に閉じ籠っている。ここまではクレアやエレメージュから聞いた話と一緒である。真実かどうかは知らないが、騎士団の女性たちが話してくれたなかにはサーシャが死者復活
の儀式を行おうとしているなどの噂があった。
そして、俺達は王都の城門へとたどり着いた。
城門の前では衛兵たちが通行者チェックを行っている。
騎士団も衛兵たちと話しているのだが・・・その、なんというかだな。
まず、騎士団の全員がドレスを着ているのだ。その時点でかなりおかしい。
ドレス姿の令嬢にしか見えない女性たちが徒歩でやってくる。衛兵たちはその時点で何かあったのだろうかという考えに至る。
しかもだ、ドレス姿の女性たちが王都の騎士団だという。
誰だって衛兵の立場だったら「は?」という反応をしてしまう。
「えぇと、皆さんが騎士団の女性だというのは顔を見ればわかりますけど、何故そのような恰好を?似合っていますけど」
衛兵さんも涙目である。
「実はな《殺人教》どもに出くわしてな。私達も殺されるというところでこちらの方に助けて頂いたのだ」
「そうでしたか・・・」
衛兵も《殺人教》のことは知っている。彼女たちがどのような目にあったのかを考えているのだろう。しばらくして衛兵はアルトに身分証明ができる物を持っていないか尋ねる。
「あるにはあるんだが・・・」
そう渋りながらアルトが取り出したのはヴァリアント公爵家の家紋が描かれた指輪だ。
「これはヴァリアント公爵家のッ」
ヴァリアント公爵家はアルトの件以来、かなり有名な貴族となっている。それこそ他国も認知しているほどである。
そんな公爵家の家紋が描かれた指輪を持っているアルトは衛兵たちに怪しまれたが、すぐに城門を通してくれた。
「はぁ、事情を説明してくれて助かるバネッサちゃん」
「いや、私達を助けてくれたんだ。これくらい当たり前だ。それよりバネッサちゃんというのは、やはりやめてもらえないだろうか?」
アルトがバネッサちゃんと呼んだ女性がこの騎士団の団長である。年はクレアの二つ上で王都の騎士育成学園に通っていたそうだ。
「それは無理だな。まぁいいじゃねぇか。可愛いし」
「かわ、も、もうなんでもいい」
バネッサはアルトに可愛いといわれ以上に反応した。まぁ、理由は多々あるが一番の理由としては可愛いといわれたことが無いからだ。彼女の容姿はどちらかというと凛々しいや美しいといった容姿である。そのため、アルトからいわれた可愛いというのは気恥しいのだ。
そして、王都へ入ることができたのだが、アルトは王城へと向かっていた。
何度もいうがアルトが生き返ったのは古代兵器を再封印もしくは破壊するためである。
そういった経緯をクレアに話した結果、国王にも話さないといけないということになり、帰還した報告をするからついでにアルトも報告しろということになった。
騎士団の女性が周りにいることもあり、城内歩くアルトには視線が集まっていた。
「どこかであの顔を見たことある」という貴族の声も聞こえる。
その度にヒヤッとするクレアの気持ちをしらないアルトはというと・・・
「あれって、リグル男爵か?随分(頭が)寂しくなったな」
「クロード伯爵って前会ったときと容姿が変わってないぞ」
などの随分呑気な考えを口に出していた。
ちなみにそれを横で聞いていたクレアは内心爆笑していたりするのだが、それよりもヒヤヒヤしていた。
そんなこんなで王の間の前へとたどり着いたアルトだったのだが、そこでは転生してから一番の驚が待っていた。
アルトを残した騎士団は先に王の間へと入る。国王への報告を済ませてからアルトの話をするらしい。
「よくぞ無事に戻ってきた。それで、報告を」
「はっ、ロゴニウム帝国との国境付近で観測されたモンスターの異常については何もわかりませんでした」
「そうか・・・報告には帰りの道中で《殺人教》に遭遇したとあったのだが・・・」
「はい。《殺人教》に遭遇しました」
「それで、何故ドレス姿なのだ?」
国王も彼女たちの姿に戸惑いを隠せない
「《殺人教》との戦闘にて、我々は凌辱されるところでした。そこにとある男性が現れ、我々を救ってくれたのです」
「その男性というのは?」
国王がそう呟くと扉が開き、アルトが中にはいってきた。
「・・・アルト先輩?」
中に入ってきたアルトを見て一番にそういったのはなんと国王だった。
「へっ?・・・も、もしかしてオズワルドか?」
「はいっ、そうです。アルト先輩ッ」
そう、なんと国王は学生時代アルトの後輩だった人物だった。
「い、いや、おかしい。アルト先輩は死んだ。貴様ッ、アルト先輩に化けた他国の使者か?」
「ちょ、違う。俺はアルト本人だ。えっと、色々話があるから聞いてくれ」
「コイツをつまみ出せッ」
それからなんとか国王は落ち着きを取り戻し、アルトが事情を説明し始めた。
「アルト先輩が本物ということはわかりました」
「あの、国王に敬語使われるのは・・・」
「だって、だって、アルト先輩のおかげで、僕は、僕は国王になれたみたいなもんですから」
この国王、学生時代の王位継承権は第二位であり、アルトの一つ上の学年に兄がいたのだ。
幼い頃から何をやっても現国王オズワルドは兄であったロズワルドより優れた成績を残すことができなかった。そのせいか、学生時代のオズワルドは酷く卑屈で、人とは話さない少年だった。そんなオズワルドを変えたのがアルトだった。
アルドの特訓という名のナンパにより、オズワルドは少しずつ変な方へ自信を付けて行き、結果的にそれがオズワルドの卑屈だった性格を変え、アルトの親友であったギルとの訓練により剣でも、魔法でもロズワルドを越えることができた。
そして、アルトの死後。自分が国王になり二度とアルトのように呪具により命を落としてしまう人間が出てこないように尽力したことで色々あって国王になったのだ。
かといって国王になって間もないオズワルドはまだどこか頼りなく見える。
つまり、オズワルドにとってアルトは恩人なのだ。
「・・・なるほど、古代兵器ですか。今各地で起きているモンスターの異常も、もしかするとその古代兵器が関わっているのかもしれませんね」
「あぁ、それで、古代兵器にもっと詳しい奴がいるんだ」
「それは誰ですか?」
「俺が死ぬ原因になったペンダントに封印されていた魔王だ。魔王の話もさっきしただろ。悪意はないし、むしろ積極的に強力してくれる。呼んでいいか?」
「は、はい。アルト先輩がそこまでいうのでしたら」
「だってよ、でてこいローズ」
アルトがそういうと魔法陣からローズが現れる。
「あなたが魔王ですか?」
『そうだ。妾はセリルローズ・ティア・ヘル。今は神霊としてアルトと契約している。
それで、問題の古代兵器なのだが・・・』
ローズの説明により王の間にいた貴族たちが顔を真っ青にする。
そして、改めて話を聞いたクレアも顔が青い。騎士団の女性たちも真っ青を通り越して白くなっている。
「その話が本当でした、これはわが国だけではなく、世界規模の問題です」
『その通りだ。幸い、妾と契約したおかげで魔王の力を得たアルトが他に眠る二つの古代兵器を使えば三体の古代兵器を再封印、破壊することもできる』
「・・・それで、その古代兵器というのはどこにあるのでしょうか?」
オズワルドの問いはもっともだ。
なにせ、アルトも古代兵器の場所がわからないのだ。
『妾も詳しくはしらないが、この国にも古代兵器が眠っている』
「なっ」
『確か陸皇ベヒモスだったはずだ』
「その封印が解けてしまうと・・・」
『この国は滅びるかもしれん。エンペラーやルシファーがない現在、一刻も早くベヒモスを再封印をしなければまずい』
この話はアルトも初耳だった。そして、貴族たちも絶望に満ちた表情を浮かべる。
「それで、その古代兵器の封印を解いたものは一体?」
『妾もそこまでは分からなぬ。だが、妾も予測が正しければ、学者が妾の時代の文献を読み、古代兵器を知ったか・・・もしくは、敵対するものたちによる計画的犯行か・・・封印が解けるにしてもまだ時間はある。その間に準備を行わなければ』
真剣な表情で広げられた地図を見るローズ。そして、ローズは何か所か指差す。
「その場所は・・・」
『妾もしっている。ダンジョンだ。これらの最下層の更にしたに古代兵器は封印されている。
どのダンジョンにどの古代兵器があるか分からぬがな。この国にあるダンジョンの中で候補にあがりそうなのは、この三か所だ。魔王の時代に魔王軍と交流があったからな』
説明しながらローズが差した場所というのは
エルラント王国内にあるダンジョンの中でも最大級を誇る大迷宮と呼ばれる三つのダンジョンだった。
王都から遥か東に存在する森林の地下に広がる《古代人の墓場》
エルラント王国で一番高い山の洞窟から入れる《龍神山》
そして全百層からなる国内最大級のダンジョン《バベルの塔》
この三つが、ローズのいうには古代兵器の封印されている可能性の高いダンジョンだという。
中でも、一番の可能性としてあり得るのが《古代人の墓場》だというのだ。
そのダンジョンがある場所には魔王軍との交流が盛んな都市があったらしく、古代兵器を使用したのも、その都市だったからという。
「全冒険者に探索の要請をッ。今一度、ダンジョンを探索し、少しでも異変があればすぐ報告するように冒険者ギルドに通達を」
「「「「はっ」」」」
その場にいた大臣たちもすぐに行動へ移った。
「僕は他国の王にも連絡をします。これは大変なことになりそうですね」
また仕事が増えると苦笑するオズワルドだったが書類を持つ手が震えている。