激怒する英雄と再開の女騎士
クレアside
アルト・ヴァリアントという男はこの国では英雄扱いされている。
何故なら、古の魔王を倒したからだ。愛する婚約者の為に自分の命を犠牲にして婚約者を救う。
見聞きするだけならとても美しいものだった。
しかし、私は美しいと思えない。アルト・ヴァリアント、彼がどのような想いでいたかを知った。彼と私は学園では犬猿の仲だといわれていた。
アイツが私のことをどう思っているかはしらないが、私はアイツを毛嫌いしていた。
大した実力もないのに、権力にものをいわせ、婚約者がいるにも関わらず、私を含めた学園の女生徒を口説いて回る。典型的な貴族のダメ男だった。
しかし、実際は違った。私は彼のことを何もしらなかった。いつもヘラヘラしている軟弱ものかとおもいきや、誰よりも気高く、愛した女を想う尊き心を持っていた。
私が学園に通っていた当時、いつも一緒にいたメンバーの中にはアイツもはいっていた。
ヘラヘラして女好きなアルトと頼りなく見えるが頼りになり誠実なギル。
表と裏のような二人だと思っていた。まぁ、実際は違ったのだがな。
今思うと、私はアルトに謝りたい。それとひとことガツンッと物申したい。
まぁ、そんなことも不可能だ。何故ならアルトは死んだんだ。
アルトが死んでからもう十年以上経つ。私も学園を卒業した後、騎士団に所属し、今では女性だけの騎士団という騎士団の副団長を務めている。
そして、今日ようやく終えた長い任務から帰るところだった。
しかし、その道中で山賊に襲われた。
山賊は最近ここら一帯で暴れまわっている《殺人教》という山賊だ。
王都の騎士団も冒険者も派遣され討伐任務を行われたが、奴らは見つからない。たとえ見つけても強力な魔法の使い手に加え、かなりの手練れだらけらしい。何故、そのような者が山賊をしているのかしらないが、山賊は老若男女問わず殺す。
女は殺す前に凌辱するらしいが、そんな奴らに襲われた。
だからといって私達も戦わないわけではない、王都ではかなり有名な騎士団となっていた。
少数でありながら此処が精鋭の騎士団。騎士の誇りに掛けて山賊を一人残らず殺すつもりで戦った。
結果、惨敗だ。山賊たち一人一人が王都の騎士団、上級騎士より強かった。そんな相手と戦った私達は、無残に負けてしまった。
全員が舌を噛みきろうとした、男に指を突っ込まれそれもできなかった。
山賊どもの汚い手が私の体を撫でまわし、鎧をはぎ取り、ついに下着まで手を掛けた。
もう、駄目だ。せめて初めては好きな人が良かった。まぁ、今は好きな人なんていないが。
学園生時代に好きだったギルなのだが、学園を卒業したあと冒険者になり幼馴染の少女と結婚した。平民出身だったギルだが、強く逞しい男だった。私もギルに惚れていた。
そんな走馬灯かのように学生時代のことを思い出しているとついに、下着を剥がれた。
私は心の中で助けを求めた。そのとき、自然に助けを求めた相手に私は自分でも驚いた。
何故なら、私が助けを求めたのはアルトだったからだ。
『ハハハ、私は馬鹿だな。アルトはもう死んだんだ。しかし、あのメッセージが本当なら、きっと地獄から助けに来てくれるのだろう』
そう思って、私は男のモノが入ってくるのを覚悟した。
直後、一筋の稲妻が落ちた。轟音が山賊たちの注意を引く。私も何かと思い、そちらを向くと男が立っていた。かつて私が通っていた学園の制服を着ていた。おかしいな、学園の制服は私達の代を最後に新しくなり変わったはずだ。あぁ、懐かしいと思う。こんな状態だというのにだ。それに、あの黒髪・・・まるでアルトのようだ。いつも私を口説いて、少し嬉しかったりしたが・・・
そして男が呟いた。
「おい、てめぇら。なに、人のダチに乱暴を働いてんだ・・・殺すぞ」といった。
そして男はいった、「エレメージュちゃん」エレメージュというのはアルトの契約していた氷の大精霊だ。今はサーシャと契約していたはずだ。まさか、本当にアルトなのか?
アルトがエレメージュの精霊魔法を発動すると、山賊たちは一人残らず氷の像と化した。
そんな像に囲まれている少女たちは何が起きたのかさっぱりといった表情だった。もしや夢を見ているのではと誰もが思った。一人を除いて・・・
「ギリギリだった。みたところ、すっぽんぽんにはされてるけど大丈夫だったみたいだな」
アルトはそう苦笑して少女たちに駆け寄る。その中でも一番最初にアルトが駆け寄ったのはクレアだった。
「ようクレアちゃん。久しぶり、超美人になっててびっくりだぜ。それより、ほらこれ」
体中泥が付着しており、大事なところまでさらされているクレアを見たアルトは、十年以上前と同じく声を掛け、制服の上着を肩にかける。
「ローズ、服どうにかできないか?」
『妾に任せろ《薔薇の鎧》』
神の力により神霊となったローズが魔法を発動すると、少女たちの体は茨に包まれた。
茨の薔薇のつぼみが花開くと茨は消え、そこから出てきたのは囚われのお姫様かのごとくドレスを纏った美少女と美女。
「すげぇな。圧倒いう間に一国の姫様みたいに綺麗なドレス姿の女性がでてきた」
アルトがローズにそういった。ローズも「だろう」といって誇らしげに返事をする。
そして、ローズとエレメージュはこの場にはいない。アルトの魂と共にあるからだ。よって、アルトによってドレスに着替えさせられた女たちはアルトが独り言を呟いているヤバい奴にしか見えない。
「あっ、そうだ」
アルトは何か思い出したようだ。
「ただいまクレアちゃん。クレアちゃんの危機だと聞いて地獄からじゃないけど蘇ったぜ」
婚約者に嫌われるためにひたすら女性を口説いたアルト、その結果アルトは無意識に女性を口説く男になってしまっていた。口説くだけではない、臭い台詞も吐くし、キザな台詞を吐く。
生前にメッセージとして散々恥ずかしいことを伝えたせいか色々吹っ切れているのだ。
そんなアルトがクレアに微笑む。その微笑みはクレアに向けられたものであったが、周りにいた女性たちが顔を赤くする。一応アルトの顔は整っている。それに、先ほどまで襲われており、死ぬより辛い目に合う直前だったのだ。そんなときにに助けてもらったとなれば誰だって惚れるまではないにしろ、好意的に見てしまう。
「アルト・・・なのか?」
「あぁ、堕ちた神童アルト・ヴァリアント。友人の危機と聞いてはせ参じたぜお嬢様」
「そのキザな台詞・・・ほんとにアルトなのか、アルトッ」
クレアはアルトに抱き着いた。友人と再び会えたことによるものからなのか、それとも先ほどの恐怖からくるものなのか、はたまたもっと違うものからなのか・・・今の彼女には分からない。しかし、今、このときは彼女はアルトに抱き着いていた。
そしてアルトはというと先ほどまで辛い目にあっていた友人を優しく抱きしめる。
「ごめんな、もっと早く来たらよかった。ほんとうにごめん」
自らの腕の中で震える友人を力強く抱きしめ背中を優しく擦る。
まるで恋愛ものの劇のラストシーンのようだ。
周りにいた騎士団の女たちはというと・・・
「あれって、副団長の男?」
「えっ、でも明らかに十代よね」
「年の差・・・いけないわっ、クレア駄目よ」
「それにしてもあの子カッコよくない?」
先ほどまで絶望の淵にいたというのに随分と余裕そうだ。
クレアはしばらくアルトを抱きしめていたが、正気に戻った。
正気に戻った彼女がとった行動は・・・
「は、離れろッ」
アルトの腹に突き刺さる槍のような拳だった。
「グハッ」
幸いなことに胃の中のモノを吐き出すことはなかった。というか何もないからだ。
だからといって痛くないということはない。痛いモノは痛いのだ。
しかし、今のアルトにとってはその痛みがひどく懐かしいものだった。
「ハハハ、やっぱりクレアちゃんはそうじゃないと。いやぁ、効いたぜ」
「す、すまないッ。つい昔の癖で」
「よかった。なんもかわってなかった。よし、とりあえずクレアちゃんたちが無事に目的地に着いたらサーシャの元へいくか」
自分から抱き着いておきながらアルトを殴ったクレアは慌てていた。明らかに今のは自分が悪いと思っているからだ。だというのに、アルトは笑い「ほっ」としている。その後呟いた言葉にクレアも「ほっ」とした。
「貴様も変わっていないな」
「あぁ」
クレアの問いかけにアルトも力強く頷いた。
「帰ってきたんだ。十年ちょっと経っちまってるけど、楽しみだなぁ〜さぞ美人になってるんだろうなぁ〜。あっそうだ、サーシャって誰と結婚したギルか?」
「ほんと、騒がしい男だ。サーシャは誰とも結婚していない。ギルは幼馴染の女と結婚している。あのメンバーで結婚しているのはギルだけだ」
「サーシャ結婚してないの?」
「あぁ」
「そうか・・・って、サーシャのことは気になるが、今はクレアちゃんたちの方を優先するわ。
馬は・・・逃げたか。日も暮れてきた。今日は野営か・・・」
「すまない。本当ならサーシャに会いたいだろうに」
クレアは顔をしかめる。アルトがどれほどサーシャのことを愛しているのか理解しているからだ。アルトだって、今すぐサーシャのもとへ向かいたいはずだと。
「じ、実はな、サーシャの家を忘れちまったんだぁ〜アハハ、いやぁ〜年かな。っつうことで、クレアちゃんが案内してくれると嬉しいな。あっ、でも、今日は無理か仕方ない仕方ない」
何を思ったのかアルトが急にそんなことをいいだす。わざとらしい。
でも、クレアにとっては酷く優しい言葉に聞こえた。
「だから気にすんな。十年以上会ってないんだ。一日二日、変わらないさ。なんだったらクレアが今のサーシャの話をしてくれよ」
「・・・あぁ、わかった」
話が決まった。クレアは騎士団長と共に騎士団を纏める。
「今日はここで野営をする。先ほどのことで心配だろうがもう二度とあのような失態は犯さない。我々は誇り高き王国騎士団の一つ《ブリリアントローズ》だ」
クレアより少し年上の紫色の髪をした女性がそういった。おそらく、彼女が団長なのだろう。
見ただけで分かる。彼女は強い。
そして、夜となった。
以外なことにもアルトは彼女たちに歓迎されていた。
間一髪のところを救ってくれた男であり、自分達の副団長クレアと仲が良い。
もしかして恋人なのでは?と色々と乙女の考えが働いた結果だ。
「ほんとに良かったのか?」
「何度もいわせるなって、気にすんな。それに、こんな美女美少女に囲まれてるんだ」
「もう嫌われなくていいんだぞ?」
「あぁ、知ってる。エレメージュから聞いた。色々と迷惑かけたな。でも、美人になった友人と話をしたくなる日もあるんだぜ」
膝を抱え焚火に手を向けるクレアにアルトはそういった。
もはや完全に恋人にしか見えない。
「あ、あのぉ〜お二人はどういったご関係で?」
そして、誰もできないことを平然とやってのける勇者がいた。そこに痺れる憧れるううう。
「君は?」
アルトが訪ねた。女性は二十代後半くらいでキリっとした雰囲気の女性だ。
「私はクレア副団長の部下であるチェルシー・マルケットといいます」
「よろしく、俺とクレアの関係は友人だなッ。だろクレアちゃん」
「あぁ、そうだな」
少し不機嫌になるクレア。それを見た周りの騎士団員たちはニヤリと笑う。
「私はレレイ・ラック。レレイって呼んで。君の名前は?」
チェルシーが先陣を切り裂いたおかげでそれにに続き今度は水色のボブカットの少女がアルトとクレアに近づいた。
「よろしくレレイちゃん。俺はアルト・ヴァリアント」
手を差し出してくるレレイにアルトも名乗りながら手を差し出した。
「アルト・ヴァリアント・・・って嘘ッそんなわけないよ。アハハ、君面白いね。君もあの物語好きなの?」と大爆笑している。
「物語?」
なんのことかわからないアルトはチラッとクレアを見る。
「あちゃー」
普段の彼女からは考えられないような反応である。このような反応をするのはサリアの仕事だった。アルトからするとなんか変な感じに思うだろう。
「一途な浮気男と素直になれない悪女の物語「愛する令嬢の為に」だよ。クレアはアルト様の友達だったんでしょ・・・あれ、クレアの友人のアルト?えっ、マジ?」
アルトは知らなかった。自分のことが物語になっているなど。本や劇となっていることを・・・
エレメージュが教えるの忘れてたと額に手を当てた、姿は見えないが。
「えっと、一途な浮気男?素直になれない悪女?クレアちゃん、どういうこと?」
「はぁ〜、この際だ。貴様も話せ。みんな、今から話すことはできれば内緒にしてもらいたい」
何がなんやらのアルトに変わりクレアが聞き耳を立てていた団員を集めた結果、騎士団全員が集まった。
「よし、私が今から話すのはアルト・ヴァリアント。みんなも知っている「愛する令嬢の為に」の主人公であり、学園生時代の私の友人だ」
クレアが話を始めるとみんな一斉に静まる。
「あの、クレアちゃん?その一途な浮気男というのは・・・」
「人の話は最後まで聞けッ。というか何故貴様は生きているッ死んだはずだろ」
「ま、まぁ、死んだには死んだな。色々あってこうして生き返ったけど」
「なら静かに話を聞けッ。みんなもう分かったと思うが、この男がアルト・ヴァリアントだ。
私も先ほどまで死んだ者だと思っていた。なのにこいつときたらッ」
声を荒げるとクレアはアルトに掴みかかる。
「なにが友人の危機と聞いてはせ参じただッ。バカは死んでも治らんのかッ」
両手を握りしめ拳にしたクレアはアルトのこめかみに当ててグリグリと全力で捻じる。
「いたたた、痛いって、ちょ、まじ、いたい、やめッ、ストップ」
「ふ、副団長」
「離せセイラッ。私はこの男を」
「痛いって、潰れる潰れる。なんかはみ出るからッ」
その後、クレアは団員に止められ話を戻した。
「えっと、つまり、あのとき死んだ俺は、英雄扱いされてると?」
「簡単にいうとそうだ」
「嘘ぉ〜」
誰がこんなことを予想できるだろうか。確かに愛する女の為に命を犠牲にしてまで助けたがまさかそれが
物語になっているなんて・・・
「エレメージュちゃん、俺なんも聞いてないけど?」
『アハハ、ごめん忘れてた』
まぁ、仕方ないだろう。アルトにとってはつい三時間前まで死んでいたのだから。
「あの、アルト様ッ」
すると、レレイがアルトに手を差し出す。
「どうしたのレレイちゃん?」
「ファンですッ。握手してください」
「握手って、さっきしたけど」
「さっきはその、まさか、本物のアルト様だなんて思わなくて・・・」
アルトはレレイの手を握る。
「随分有名になったもんだ」
「全くだ。こんな男のどこがいいのか・・・はぁ〜」
クレアはため息が止まらない。幸せが逃げていくぞぉ〜
「こんなこといってますけど副団長はアルト様のこと誇り高い素晴らしい男だっていってましたよ」
「マジで?クレアちゃんがッ、会うたび会うたびぶん殴ってきたクレアちゃんが」
アルトも驚きを隠せない。毛嫌いされていると思っていた相手が実は自分のことをべた褒めしてくれていたのだ。
「余計なことをいうなッ」
そういってクレアはレレイの頭をぶん殴る。ドレス姿のお姫様だというのに、物騒なものだ。
「アルト様アルト様あの話はほんとですか?」
「アルト様は今もサーシャ様のことを好きなんですか?」
「アルト様抱いてくださいッ」
アルト様と騎士団の女性から言い寄られるアルトを見たクレアはさらに機嫌を悪くする。
「貴様は何故鼻の下を伸ばしている」
「伸ばしてねぇよッ。俺はサーシャ一筋だッ」
『僕は?』
『妾もいるぞ』
なんとそこへエレメージュとローズも実体化して混ざる。
「も、もしかしてエレメージュ様ですか?」
「そんなわけないよ。だってエレメージュ様はサーシャ様と契約したんだから」
「じゃあ、もう一人の方は?」
「はぁ〜こりゃ、説明するの大変だぞ」