復活の英雄と転生の魔王
いきなり現れていきなり自分は神とかいうオッサンに対して二人はなんと反応すればいいのか困る。
「えっと、神さまなのか?」
「馬鹿いうなッ、妾は神なぞ信じない」
「信じるか信じないかはどうでもよいが、お主らに頼みたい事があってな」
完全に半信半疑である二人に神は頼みがあるらしい。
「えぇ、アルト君、それにセリルローズよ」
「何故妾の真名を知っているッ。妾の名を知っているのは魔族とアルトだけだ」
「ええいッ、五月蠅い黙っておれ。ヒトの話は最後まで聞かんか」
自称神様のおっさんの話に割り込むローズだったが、幼い少女を怒るときの対応をされる。
「まず、お主ら二人が死んで地上では十二年が経った。ちなみに、お主ら二人がおったこの場は地上と天界の狭間にある次元の歪みじゃ。よく無事にいられたわ」
どうやら真っ暗な空間は次元の歪みという場所だったらしい。それにしても神はそのあと、気にかかることをいった、
「無事にいられた?それはどういうことなんだ神様」
アルトも不思議に思ったのか尋ねる。
「本来ならこの場に来た瞬間魂が崩壊、消滅するのじゃがな。この儂も下手すれば消滅してしまうようなところなのじゃ。お主らは運が良かったのじゃ」
「そんな危険な場所だったのか。ここって」
思っていたよりもずっとヤバい所だった。自称神のおっさんが本当に神だったのなら、神さえも消滅させてしまうような完全な危険区域である。
「まぁ、だからお主らの発見が遅れたのじゃがな」
「「えっ?発見・・・」」
「そうじゃ、お主ら二人はすぐに転生させるつもりじゃった。アルト君の方は最高神様がな
「きゃぁッ悲恋よ悲恋。それもドロッドロのサスペンスよぉ〜」とさぞお喜びでな」
おっさんの話を聞いただけでも分かる。その最高神様とやらは大分頭おかしいと。
「それで、最高神様の下におられる高位神の男神女神ともども、「これほどの悲恋は久しぶりだぁ」「泣かせるねぇ〜」とか「あの子、私の天使にならないかしら」「まったく、うちの旦那にも見習ってほしいわ」とかいう始末なのじゃ」
訂正しよう、最高神様どこから神様全般頭おかしい。地上では様々な神を主神としている国や宗教があるのだが、それらの組織にこの事実を伝えれば間違いなく「よろしい、ならば戦争だ」となるだろう。
「それで、儂も含め天界の神々はお主ら二人のことを待っていたのじゃがな。いつまで経っても天界にはこないときた。まさか無数に存在する異世界のどこかに間違って転移したのか?ということになってな、無数ある異世界を調べてお主ら二人を探していたのじゃ。その結果、無数ある異世界にも見つからず、残った場所がここ、次元の歪みじゃった。儂ら神は「まさかそんなことあるわけない。あったとしても消滅してるだろう」となったのじゃが、一応見ておくかということで儂が見に来たのじゃ、ほんと、なんでこんなとこにいるの主ら?化け物か」
おっさんは上司の愚痴をこぼす中年のおっさんにしか見えない。
「え、えぇといいたいことはわかった」
「わ、妾も一応理解はした。その、失礼したな」
「いいわい、それで本題に入る。お主には転生してもらう」
ようやく本題にはいれたことにホッとする神様。
「そうですか。それでどこに?」
「お主らが死んで十二年後の世界じゃ。アルト君は死んだときの容姿」
ということはアルトからして当時の友人たちは三十代に入ったところだろう。アルトが誕生日を迎える前に死んだため十六歳、アルトの婚約者だったサーシャは二つ年上で十八ということになる。
「よっしゃ、またサーシャに会えるのか。そうだローズ、一緒にうまいもの食べようぜ」
「・・・すまないアルト君、セリルローズは転生できない」
「えっ?神様なんていったんだ?」
「セリルローズは転生できないといったのだ」
「なんでですか?こいつが魔王だからですかッ」
アルトが吠えた。ここまで声を荒げるのはサーシャに何かあったときくらいだろう。
「セリルローズは肉体がないのじゃ。アルト君の肉体は粉々になったあと、儂ら神がなんとかかき集めたので器は完成した。しかしなぁ、セリルローズの肉体はもうないのじゃ」
「そんな・・・で、でも、俺とローズの魂は融合しています」
アルトが魔王セリルローズを倒すときに自らの魂と融合させた。そのため、アルトの魂と同時に魔王の魂でもある。
「それが綺麗に二つに分かれておるのじゃ。おそらく魂が消滅しなかったのもそのおかげかもしれん」
「よい、もうよいのだアルト」
アルトが神と話す隣でローズが静かに呟く。
「なにいってんだよ、ローズだってうまいもの食べたいって。恋したいって」
「もういい。確かにうまいものを食べたいといったが、それ以上に妾は恋がしたかった。
しかし、恋はもうできた。千二百年以上生きた妾だったが、ここで過ごした十年ちょっとは妾にとっても心からの恋ができた。アルトそなたのおかげだ」
そういって笑顔を浮かべるローズの頬は紅潮し、涙が流れる。
「ローズ」
「アルトのおかげで妾は幸せだった。アルトはずっと娘のことを想っていたようだが、妾はずっとアルトのことを想っていた。叶わぬ恋と分かりながらな」
この空間で過ごした時間はアルトにとっては長かったがローズにとってはほんのちょっとだったはずだ。それでも、ローズはアルトといられたこの十年ちょっとの時間が幸せだったという。アルトはまるで自分を見ているようだった。自分の想い人が自分のことを見ていないと分かりながらもそれでもなお、自分は想い人を想い続ける。
「神様、どうにかできないのですか?」
「・・・ひとつだけ、方法がある」
「それはッ」
「うむ、セリルローズの魂を精霊へと変える」
魔王の魂を精霊へと変える。それは可能なのだろうか?精霊という存在はそもそも何なのかということ自体わかっていない。
「そんなことができるのですかッ」
「できるができない」
「それはなぜです?」
「失敗する可能性が高い」
やはりか、そんなうまくことがすすむわけがない。生前、何度も失敗しているアルトだからこそ分かるのだ。世の中はそんなうまく進まないと。
「なら、俺は転生しません。ローズと一緒にいます」
「アルト君、本気か?」
アルトの言葉に神は正気を疑う。
「はい、サーシャに会いたいですけど、でも、ローズを一人にするっていうのは無理です」
「アル、ト・・・なんで、なんでッ」
「俺とローズはもう俺とエレメージュちゃんみたいな関係だし、それに、ローズがこんなに想ってくれてるなんて・・・その、なんだ・・・素直に嬉しかった」
その直後、ローズはアルトに抱き着いた。声を押し殺しながら泣くローズを優しく抱きしめ返すアルト。
「しかしな、アルト君、儂らはアルト君に地上へいってもらいたいのじゃ」
「それは何故ですか神様?」
「話をするのはいいが、場所を変える。セリルローズを離すなよ」
「は、はい」
「転移」
神様が魔法らしきものを発動する。
すると、ずっと真っ暗だった空間が一瞬にして美しい世界へと移り変わる。
上を見ると一面青い、どこまでも続く青は世界の果てまで続いている。
周りは木々が生い茂り、石の建物があちらこちらで見られる。
おそらく、ここが天界というものなのだろう。神々が住まうこの地はまるで楽園。
「綺麗だな」
「あぁ、妾も様々な地を見てきたがこれほどまでに美しい景色を見るのは初めてだ」
「ようこそ天界へ」
神様の声を聞きすぐさまハッとする。
「それでは話をしよう。実はな、地上の危機なのじゃ」
神様の口からでた言葉はアルトが思っていたことよりかはマシだった。何故なら・・・
「なぁ〜んだ、地上の危機かぁ〜びっくりした。サーシャが死んだとかサーシャが泣いたとかじゃないのか、ビックリして損した」
何故ならアルトがアルトだからだ。この男にとって地上の危機よりサーシャの方が大切だ。
だがしかし、地上の危機ということはサーシャの危機でもある。それに気づいていない。
「いや、アルト地上の危機ということはサーシャの危機だぞ」
「そういえばそうだな、なにぃッ地上の危機だぁッ」
掌返しが早いのなんの・・・だがまぁ、ローズグッジョブと神は思った。
「それでなんで地上の危機に?」
神は「うむ」と頷き考えるような姿勢を見る。
「古代兵器の封印が解かれた」
古代兵器、架空のものとされていた魔王の時代の兵器である。
「古代兵器だとッ」
「何かしっているのかローズって魔王ならしっているか」
「あぁ、古代兵器を作ったのは妾の父、先代の魔王だからな。正確にいうと父を含めた魔族の優秀な技術者
たちなのだが」
「その古代兵器じゃ。五つある古代兵器なのじゃが、そのうちの三つの封印が解放された」
「どの古代兵器だ?」
「海中殲滅特化型自立兵器 海皇リヴァイアサン。同じく地上殲滅特化型自立兵器 陸皇ベヒモス。そして、魔法殲滅特化型自立兵器 法皇アジ・ダ・ハーカじゃ」
「よりにもよってその三体をッ」
ローズが頭を抱える。
「幸いなことにまだ完全に目覚めたわけではない。今のうちにその三体を再封印、もしくは機能停止にしてほしいのだ」
「そんなにヤバいのか?」
「あぁ、父は魔族の国を繁栄させるために五つの古代兵器を作った。海を支配するために作ったリヴァイアサン、陸を蹂躙するために作ったベヒモス、魔法を支配するために作ったアジ・ダ・ハーカ」
「封印が解かれた奴だよな」
「あぁ、それと魔王専用決戦兵器 魔皇ルシファー。そして、対古代兵器支配権 覇皇エンペラーだ」
ローズが古代兵器の説明をしてくれる。
ルシファー、魔王にのみ装着することのできる攻防一体型デバイスらしい。これを装着することによって魔力が何倍にも跳ね上がり、物理魔法攻撃耐性、状態異常耐性が付く。究極の矛と盾といったところか。
エンペラー、古代兵器が暴走した時に使用する古代兵器への絶対的支配権を持つ兵器。
「ヤベェな」
「ヤベェなって話ではないッ。割とマジで地上の危機じゃ」
「それで、俺にそんなことができるのか?」
「できるはずじゃった」
「できるはずだった?」
「ああ、魔王の魂と融合したアルト君ならルシファーもエンペラーも使える。じゃから、儂らは君に頼んだ。じゃが」
「予想外な事に俺とローズの魂は分かれていた」
「そうじゃ」
「おい神とやら、妾を精霊にするのじゃ」
「本気か?」
ローズが神様の前に立つ。
「あぁ、妾が精霊になり、転生したアルトと契約することでアルトは魔王の資格を得る。
つまり、古代兵器ルシファー、エンペラーの支配権を手にすることになる。エンペラーを使えば残りの三体も封印なぞしなくても破壊できる」
「それはそうじゃが・・・」
「妾は精霊になる。失敗は許さん。頼む」
なんと、ローズが頭を下げる。魔王ということもありプライドの高い彼女だ。そんな彼女が頭を下げる。ありえないことだ。
「いいのかローズ?」
「正直いうと、妾はアルトともっと一緒にいたい。だから精霊になるのだ」
「失敗するかもしれないんだぞ」
「そのときは、みんな死ぬだけだ。なぁ、神」
「あ、あぁ、その通りじゃ」
「ですが安心してください。私達が必ずセリルローズを精霊にします」
背後から聞きなれない女性の声がする。
「さ、最高神様ッ」
神様の正面、アルトとローズからして背後の人物?が最高神様らしい。
アルトとローズは振り向く。
「初めまして、私は天界の最高神をしておりますシェヘラザードといいます」
女神が立っていた。本物の女神だ。美の女神といわれても納得する美貌を持った神。
女であるローズでさえ彼女の美貌に見とれる。
「おーい、大丈夫かローズ?」
「あ、あぁ、大丈夫だ」
「さ、最高神様、必ず精霊にするとは?」
「私達が力を合わせるのです」
「私達とは・・・まさかッ」
最高神シェヘラザードの後ろから十人ほど人影が現れる。
「ギリシャの神々に北欧の神々ッ、エジプトにアイルランド、インドまで、何故地球の神々が」
「地球のブームに異世界ものというジャンルがあってね」
ティアラを付けた白い聖衣を纏う黒髪の女神が微笑む。
「それに話を聞くところ面白そうだ、我々も力を貸そう」
「なに、これを放置しておけば他の世界も大変な事態になるかもしれん」
「俺は小僧の男気に惚れた。いい男じゃねぇか。俺のモノになれよ」
「にしても意外だわぁ〜男なんてクソくらえっていってたあんたが男に興味示すなんて」
「とまぁ、そういうことだ。地球で人気の異世界。今後の参考になるかと思ってな」
なんの話をしているのかアルトとローズにはさっぱりだた。地球?各神話?ギリシャやら北欧、エジプト、アイルランドいったい何の話だ?異世界の神だというのか。
「おいゾルド、これだけいれば魔王の嬢ちゃん一人を精霊に変えるのは可能だろう」
「か、可能じゃ。し、しかし神霊になる」
「丁度いいじゃねぇか、俺達神々は干渉できねぇが神霊なら神とは違って干渉できる」
「えっと、つまり?」
「ったく少しは察しろ坊主、俺達が力を合わせれば嬢ちゃんは精霊どころか神霊になるっつてんだ。最上位精霊の更に上、精霊の神だ」
最上位精霊、エレメージュのことだ。そんな彼女より上の精霊だと。
精霊の神、まさかそんな存在になるのか・・・
「なんでもいい、妾はアルトと一緒にいたい」
ローズが神々の前に立つ。
「いいわ、いいわッ、これぞ愛ッ。坊やの悲恋もあなたの悲恋も美しい恋ッ。もっとドロドロになって、ぐへへ、ぐへへ。燃えてきたわぁぁぁぁぁ」
最高神様が滾ってらっしゃる。というか、この方が最高神で大丈夫なのだろうか。
「私の旦那にも坊やを見習ってほしいわ」
「馬鹿言うな。英雄色を好むというだろう」
「浮気はダメよ」
二柱の男神と女神が言い争っている。会話から察するに夫婦なのだろう。
「おい小僧、俺のモノになれよ。良い思いさせてやるぜ」
目をパチクリさせているアルトに戦士のような恰好をした神が近ずく。
荒々しい真っ赤な髪に頬についた大きな傷。勇敢な戦神なのだろうか。女神なのだろうかとても美しい。男口調ではあるがそれもまた似合っており、カッコいいのだが一蹴して可愛い。
「神にここまでいわせるんだ。なぁ、いいだろ」
そして突然のあごくいッ。生前のアルトは自分がする側だったのだが、はじめてされる。
女神と目を合わせるとオレンジの瞳をしておりキラキラと輝いている。
「すみません、俺には世界一可愛い元婚約者がいるんで。お誘いはありがたいですけど、ほんとすみません」
普通の男や女ならイチコロだったかもしれないが、やはりアルトには効かない。何故ならアルトだからだ。もはやサーシャ大好きっ子と書いてアルトと読んでもいい。
「フラれちまった・・・いいね、ますます欲しくなるじゃねぇか」
「そろそろ儀式を始める。セリルローズあそこに立つのじゃ」
神様に指差された場所には巨大な魔法陣がある。見ただけでもその術式の複雑さは分かる。
パッとみだけでも百以上の術式、さらに理解できない術式が数百・・・
「それでは儀式を始める」
神様がそういうと神々はローズを囲むように立った。
「天に召された汝の魂」
「地に返すは我らの同胞」
「神となりし汝の魂」
「悠久の時を刻み」
「悠久の時を迎える」
「汝、世界の観測者にして」
「汝、世界の在り方となる」
「汝に我らの加護を授けし」
「汝は我らの加護を受ける」
「ゼウスの名に」「ヘラの名に」「アテナの名に」「ヘラクレスの名に」「アレスの名に」「オーディンの名に」「ロキの名に」「ラーの名に」「セトの名に」「バステトの名に」「モリガンの名に」「シヴァの名に」「パールヴァティの名に」「ゾルドの名に」「シェヘラザードの名に」
「「「「「「「「「「「「「「「汝を神とし、精霊と化す」」」」」」」」」」」」」」」
神々が詠唱を終えるとローズの体に変化が起きる。
血の様に赤黒かった彼女の髪は黒曜石のように黒一色に変わり、頭部に生えていた角は取れ、新たに牛の角のようなものが生える。
「成功じゃ。セリルローズ」
神々の力が収まると魔法陣の中央に立っていたローズは一層美しくなっていた。
「妾は精霊に、神霊になったのか?」
「あぁ、そうじゃ。これでアルト君といっしょにいられるじゃr「アルトォ〜」はぁ〜」
ちゃんと最後まで神様の話を聞かずにアルトのもとへとローズは走る。
自分に飛びついてきたローズをアルトは優しく受け止める。
「はぁ、人の話は最後まで聞けよな。あっ、ひとじゃねぇか。神様だ」
「ほんとうにラブラブねぇ」
最高神様が微笑みを向けてくるが、アルトにはただ変なことを考えている笑いにしか見えない。きっと内心では「うふふ、三角関係よぉッ、若いわぁきゃぁぁぁ」とか思っているに違いない。流石見た目は二十代くらいだが年は「何か変なこと考えた?」ゲフン、ゲフン、神様すげぇ〜。
「アルト君、神々からプレゼントがあるらしい」
神様がアルトの前に立つ。
「俺はゼウス。地球てとこの神だが、まぁ、それはいい」
白髪のダンディなおじさまがやってくる。
「好きな女がいるんだろ。その女の為に命張ったんだろ。男じゃねぇか。
そんな小僧に俺からひとことありがた言葉をやろう」
なるほど、プレゼントというのは神からのありがた〜い言葉だったのか。
「男なら女かっさらえ。以上だ。頑張れよ小僧、いやアルト」
「はいっ」
そういってゼウスは去る。
「私からは一途なのはいいことだけど、他の子の気持ちを考えてあげてね。
あっ、私はヘラ。ゼウスの妻よ。じゃあねアルト君」
手を振ってヘラはゼウスの背を追いかける。
「俺はヘラクレス。君は英雄だ。胸を張れ」
次にやってきたのは大男だった。強靭な肉体のあちこちに刻まれた傷跡が歴戦の猛者と物語っている。
「全ての人を救うことはできないって君は賢いから分かるか。そうだな、俺からは加護を与えよう。第二の生は命を大切に」
アルトの頭を撫でたヘラクレスは去っていく。
「私はアテナ。戦女神である私からの加護をあなたに授けるわ。頑張って戦場を駆けてね」
「俺はアレスだ。俺も戦の神だ。敵は纏めてぶっ飛ばせッ。俺からの加護だ」
「わしはオーディン、わしからは君に魔法の知恵を授ける。使いこなせるかは君自身じゃ」
「俺っちはロキ、悪戯好きだぜ。女難の加護をやるよ。ついでにクックック・・・バイビー」
「我は太陽神ラーだ。汝には太陽の加護を授ける。ありがたく思え」
「私はセト、破壊を授けようかと考えたが、君なら守護の方がいいだろう」
「バステトよ。氷の適性がある君なら水も使えるわよね。じゃあ水の加護をあげる」
「モリガン、ふふふ、あなたはあの男に似ているわ。戦場の支配者になりなさい」
「パールヴァティです。愛の加護を授けるわ。その愛が何なのかは君次第だよ」
様々な男神、女神から加護と言葉を受け取ったアルトは「もしかしたら俺人間やめたんじゃ」と不安になっていた。
「儂からはこ奴をエレメージュ」
ゾルドの口から出てきたのはアルトにとって切っては切れないもの・・・
『やぁ、アルト。事情は理解してるよ。いいたいことは色々あるけど、今度にする』
ゾルドが魔法陣を展開するとそこから現れたのは生前、彼の相棒として人生のほとんどを共にした精霊エレメージュ。間違いない。彼女だ。
「エレメージュちゃんッ」
アルトは十年ちょっとぶりに彼女と話す。そして、抱き着いた。
『ははは、僕が居ないとアルトはダメなんだから。ぐすっ』
アルトは自身の頭に冷たい塊が落ちてきたことを感じる。おそらく、エレメージュの涙なのだろうとアルトは察する。
「そういえばエレメージュちゃんッ、サーシャは?契約解除したら・・・」
『それは大丈夫。神様が色々頑張ってくれた。僕の分身をサーシャに契約してもらってるんだ』
「そうなのか、サーシャが死んだわけじゃないんだな」
『うん、サーシャちゃんは元気とはいえないけど、大丈夫だよ』
二度と会えないと思っていた相棒との再会に喜ぶアルトだったがゾルドに話を止められる。
「儂からは以上じゃ」
「次は俺だ。いいよな最高神様」
「えぇ、いいですよ」
そういって次に来たのはアルトに自分のモノになれといった女神だった。
「俺はシヴァ。まず小僧、トリシューラはあんなに弱くねぇ」
何をいわれるのかと思ったアルトだったが、いわれたのは完全に予想外のことだった。
「トリシューラは俺の槍の名前だ。偶然にもお前の魔法にもトリシューラがある。だがな、トリシューラは
あんなに弱くねぇッ。ということで小僧、アルトにはトリシューラの加護をやる」
アルトの魔法が本物より弱かったからクレームが来た。ただそれだけなのだが、神の槍、あきらかにヤベェ臭いがプンプンする。
「あっ、あと俺のモノになるって話、考えとけよ。今度俺の嫁に合わせてやる」
そういってシヴァは立ち去った。嵐の様な神だな。
「うふふ、アルト君。私からはこの指輪をあげるわ」
そして、最高神シェヘラザードからアルトへ送られたのは金の指輪。
「これはね、不老不死を得る指輪なのよ。本当ならあの世界には存在してはいけないのだけど、
様々な神の加護を得た君は半ば神といってもいいのよね。神は不老不死よ。ここまでいえばわかるわね。君と人生を歩んでくれる人に渡しなさい」
その後、ニッコリと微笑んだ最高神は静かに立ち去った。
「では、転生の準備・・・なっ」
「どうかしたんですか?」
ようやくサーシャに会いに行けると思ったが、神様の様子がおかしい。何かあったのか?
「アルト君の友人の危機じゃ」
「ギルか?」
「クレアという少女だ」
「クレアちゃんがッ。神様、俺をそこへ送ってください」
「わかっておる、相手は山賊じゃ。しかもかなりの手練れのようじゃ」
「いいから早くッ。世話になった」
「世界を頼むぞ」
「あぁ、行くぞローズ、エレメージュちゃん」
そして、俺達は天界から消えた。
神様の転生魔法により俺は死んだときの容姿で転生し、精霊となったローズ、そしてエレメージュと再契約を行い、気が付くと・・・
いかにも山賊ですよといいたげな男たちに鎧を脱がされ、服を脱がされ、乱暴される一歩手前の美少女たちがいた。なにより、その中には成長して超絶美人になったクレアもいた。
涙を浮かべているクレアを見た瞬間、アルトはブチぎれた。
「おい、てめぇら。なに、人のダチに乱暴を働いてんだ・・・殺すぞ」
殺気を放ったあと、精霊魔法を発動する。
「エレメージュちゃん《氷精霊の吐息》」
『任せてッ』
そして、クレアたちを襲っていた男たちは物言わぬ氷像へと変わった。