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十二年越しの婚約  作者: ナカタカナ
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英雄の本音と少女の本音


「アルト・・・」


 魔王を討伐し五日が経った。

サーシャはまだ目覚めず、アルトを亡くしたギルは学園の寮で落ち込んでいた。


「お兄ちゃん・・・元気出して、アルト君のことは残念だけど、アルト君が頑張ったんだから、いつまでも

落ち込んでたらアルト君も怒るよ」


 ずっと落ち込むギルに優しく声を掛けたのはレイネだ。


「僕は、僕はアルトを苦しめていたのか?」


「それは違うよッ、アルト君もいってたでしょ。お兄ちゃんにならサーシャさんを任せられるって」


「でも、それは僕が・・・」


「お兄ちゃん」


 レイネはギルの隣に座る。そして、レイネがそのままギルの頬へキスをしようと・・・


 バンッ


「サーシャちゃんが目を覚ましたって・・・あっ」


 あと数センチでレイネの唇がギルの頬を触れる寸前、部屋の扉が乱暴に開かれリリアンが入ってきた。そ

して、ギルにキスをしようとしていたレイネの姿を見て硬直する。


「レイネちゃんッ抜け駆け禁止ってそうじゃなくて、早くサーシャさんの所に行きましょう」


 リリアンに連れられ二人はサーシャの眠る部屋へと移動した。


「サーシャッ」


 ギルがサーシャの部屋へと入ると痩せこけてしまったが顔色はよさそうなサーシャがいた。

勿論、部屋にいるのはサーシャだけではない。サリアにクレア、ベルモンドにヴァリアント公爵家の紋章が刺繍されたメイド服を着ている女性がいた。


「みんな、心配かけたみたいね」


「僕が悪いんだ。あんな危険な物をプレゼントに選んでしまったから・・・」


「ギル・・・遅かれ早かれ、誰かが必ず手に入れて被害にあっていたわ」


「サーシャよ、体はほんとうに大丈夫なのか?」


「父上も心配し過ぎです。私はもう大丈夫。それよりアルトは?あのペンダントも」


「そ、それは・・・」


 ベルモンドを含めた五人は声が出ない。


「坊ちゃまはお亡くなりになしました」


 そんな空気のなか、ビシッと言い放ったのはヴァリアント家のメイドだった。


「アルトが死んだ?ウソよね」


「嘘ではありません。死体すら残っておりません。ですので葬儀は死体が無い状態で行われました」


 アルトの葬儀はつい先日学園で行われた。


 しかし、アルトの体は粉々に砕け散ってしまったため、死体のない葬儀となってしまった。

後輩からはよく慕われていたようで多くの生徒が涙を流していた。


「嘘よッ、わかった、私をからかっているのね。婚約破棄したことを怒っているのね。でてきてよ、ねぇ、アルト、そこに隠れているんでしょう」


 虚ろな目となったサーシャは起き上がろうとするが、まだ完全には回復していなかったようで、起き上がることができなかった。


「嘘ではありません」


「やめてっ、わかってるわよ、それくらい」


 現実逃避したいサーシャは耳を塞ぎ毛布を被る。


「サーシャ」


 サリアがサーシャを抱きしめる。


「うぅ〜、アルト、ごめんなさい」


 毛布にくるまりながらサーシャはアルトへ謝罪する。それが何に対しての謝罪なのかはサーシャしか分からない。


「サルシャラ様、私はあなたが憎いです」


 完全に弱り切っているサーシャへメイドのナイフよりも鋭い言葉が刺さる。


「坊ちゃまは、誰よりもサルシャラ様をお慕いし、愛しておりました。それこそ一分おきに「サーシャはここが可愛い」や「今日のサーシャは一日中楽しそうだった」など話しておりました」


 「あの男がか・・・なら、何故」


 ベルモンドが報告とは違う説明をさてれ戸惑う。それもしかたない、ベルモンドの中でのアルトは娘より他の女生徒に手を出すクズ男という認識だったからだ。


「ほんと、聞かされている側からしたらノイローゼになりそうでしたよ」


 メイドは涙をポロポロと流す。


「婚約破棄された日だって、帰ってきた坊ちゃまは、ずっと吐いていました。胃の中の物を全て吐き出して

も、ずっと吐いていました」


 いったいアルトはどれほどサーシャを愛していたのだろうかという疑問が全員に浮かぶ。


「坊ちゃまはおっしゃっていました「悔しいなぁ、サーシャの笑顔独り占めしたかったなぁ。

ギルが羨ましいぜ」と・・・」


 その言葉がギルには深く刺さる。


「脱水症状をおこしても吐き続けていた坊ちゃまが吐くのをやめたのはサルシャラ様の危機をしったときでした。「サーシャの危機ッ、今すぐ料理を作ってくれ、なんでもいい。腹に詰め込む」といって調理されていない生の野菜を口に突っ込んで水で流し込んでいました」


「アルト・ヴァリアント、私の知る彼とは程遠い話だ」


 クレアも何か思うところがあるのだろうか、悔し気な表情を見せる。


「食事を終えた坊ちゃまは、ずっと、ずっと使うことを拒んでいたあの力の行使を始めました」


「あの力ですか?」


 リリアンが質問する。


「えぇ、氷の大精霊エレ『僕の力だよ』エレメージュ様ッ」


 突如、サーシャの傍に出現したのはアルトの相棒である氷の大精霊エレメージュだった。


『やぁ、みんな』


 突然の登場に全員が驚いている。中でも一番驚いているのはベルモンドだ。


「氷の大精霊エレメージュ、神話の存在かと思っていたが実在するとは・・・」


『そうそう、神話に登場するそのエレメージュだよ。僕からもアルトの話をしよう。何故、大好きなサー

シャちゃんに嫌われたのか、何故僕の力を使わなかったのか、あと色々・・・』


 そして、エレメージュの口から語られる話にメイドを抜いた全員が涙する。


 エレメージュとアルトが出会ったのは今から十一年前、アルトが五歳のときだった。


 アルトは両親と共に、北の国へ旅行にいっていた。


 一面雪景色のその国はホワイトランドという名前の国だった。


 アルトたちはホワイトランドのとある貴族の家に泊まることになる。


その家の名はブライト伯爵家、アルトの母の妹が嫁いだ家だった。


アルトからすると従姉の家だった。


 しばらくアルトたちはブライト家に宿泊するのだが、ある日、アルトは雪山で遭難する。

そして、命の危機に瀕していたところエレメージュがたまたま、見つけたのだ。

普通ならば素通りするエレメージュだったが、アルトに眠る才能を見つけたのだ。

アルトと精霊契約を交わし、アルトは無事、ブライト家の使用人に見つけられる。


『これが、僕とアルトの出会い。次は何故アルトが僕の力を使わなかったかね』


 アルトがエレメージュと契約して一年が経った。アルトはエレメージュの指導のもと、国内でも五本の指に入りそうな魔導士に成長していた。


 そんなある日、アルトは体内の魔力の流れが乱れる「魔力暴走」という病気にかかってしまう。

アルトは熱をだし、体内の魔力が暴れまわるせいで死にはしないものの、死にかけていた。


 とあるメイドがアルトの額に乗せたタオルを取り変えようとしたときだった。

体内の魔力が放出され、メイドへと襲い掛かる。


 アルトが目覚めると横には姉のように慕っていたメイドが氷像になり立っていた。


「マリア?」


 最初はメイドのマリアにそっくりな氷像かと思っていたアルトだったが、氷像からマリアの魔力反応が感じられるため、すぐにそれがマリアだと気づいた。


 マリアは今もなお、ヴァリアント家の一室に保管されており、解ける事のない氷の像になってしまったのだった。


『それからだね、学園長、シェーレに僕の力を封印してもらったのは。みんなおかしいと思わなかった?アルトの適性は氷だよ、それなのに、氷魔法が一番苦手だって』


「そんなことが・・・」


「そうです、それまで神童と呼ばれていた坊ちゃまそれを機に、魔法を使うのはやめました。そして、氷像

となってしまったメイドは私の姉なのです」


「アルト君にそんな過去が・・・」


 メイドはさらに涙を流す。


「坊ちゃまは、坊ちゃまは、毎日姉に話しかけていました。学園に通うことになってからも、長期休暇で帰ってこられた日は丸一日、姉に話しかけていました。勿論、そこでの会話の九割九分九厘はサルシャラ様のことでした」


 メイドの心からの叫びに全員が顔をしかめる。


『最後はサーシャちゃんの話だね。まぁ、僕は分かっているよ。サーシャちゃんがアルトに笑顔を見せなかった理由を・・・』


「私の、せいです。私が、私がアルトに笑顔を見せなかったからアルトは・・・」


『僕もね、何度も何度もアルトにいったよ。サーシャちゃんはアルトを嫌ってるんじゃなくて恥ずかしがっているだけだってね。でもアルトは「そんなわけないだろ。絶対俺のこと嫌ってるんだよ。よく考えてみろ、婚約者っていっても政略結婚だろ。サーシャだって好きな相手と結婚したいんだろう。ずるいよな、サーシャに思われるギルって、流石俺の親友」って笑ってたよ。ほんと、あのバカ』


 魔王だけではなく自分の精霊からも馬鹿といわれるアルトは本物の馬鹿なのだろう。


「アルトは、カッコよくて優しいってわかっていたの。でも、顔を合わせると恥ずかしくて。だから、アルトは他の女の子に話しかけてるんだって思ってた、でも、やっぱりアルトが他の子と話すのは嫌で、嫉妬してきつくいったりした」


『うん、そんなとこだろうって僕も思ってた。君に怒られているときアルトはなんて思ってたと思う?』


「えっ、それは、「これくらいいいじゃん、可愛い子がいたら声かけなきゃ」って」


『「怒ってるサーシャも滅茶苦茶可愛いなぁ」だよ。ほんと馬鹿だ』


「なっ」


 いっていることと思っていることの差に驚く、全員。


『まぁ、こんなもんかな。僕がいえるのは、あっ、そうそう、魔王のペンダントなんだけど、アレってどうなってるの?』


 エレメージュが聞く。


「はい、ベルモンド卿の部下が回収し、王城で封印されています」


『そうなの?封印しなくても大丈夫だよ』


「それは、何故だエレメージュよ?」


 ベルモンドが目を見開き聞く。


『魔王の魂はアルトの魂と一つになり死んだから』


「それは本当ですか?」


『うん、第一、本来なら魔王はサーシャちゃんの体から出て行く事は無かったんだよ』


 その言葉にあの場にいた全員が思い出す。


「そういえばそんなこといってたわ。どうしてなの?魂と魂と一つにする魔法なんて聞いたことないわ」


 学園では魔法科で首席に位置するサリアが不思議そうにつぶやく。


『当たり前だよ。あれはアルトのオリジナルだ』


「オリジナル魔法ッ、私だって一つ作るのに三年かかったっていうのに」


『アルトは二日で完成させたよ。あの魔法は最終手段だったんだ。魔王が完全にサーシャちゃんと同化して

しまったときに使う予定だった。まぁ、完全に同化する前に使ったけど』


 三日という言葉に、本日何度目か分からない驚きに度肝を抜かれる。


「エレメージュ様は何故ここにおられるのです?坊ちゃまが死んだ今、新しい契約者を・・・」


『あっ、それね、僕は今サーシャちゃんと契約してるんだ』


「私とですかッ」


 驚くのも無理はない。エレメージュとは神話の時代より存在する精霊であり、神として拝んでいる国だってあるのだ。そんな大精霊が自分と契約しているなんて知ったら誰だって驚く。


『まぁ、それが魔王とアルトの魂が融合できた理由なんだけどね』


「すまない、どういうことなのか教えてほしい大精霊エレメージュ様よ」


 もとから魔法が苦手だったクレアが丁寧な言葉使いでエレメージュに尋ねる。


『うん、まず魔王の魂はサーシャちゃんの体についていた。ここまでいいね?』


「はい、そこまでは知っています。その後、アルトがどのようにして魔王の魂をサーシャから引き抜いたのかがわかりません。魔王は自分から出て行くほかないといっていたので」


『そうそう、だからアルトは僕との契約を寸前で切ったんだ』


「そ、そのようなことをすればアルトはッ」


 サリアが声を荒げる。魔法の成績がトップの彼女にならその危険性が理解できたのだ。


『うん、アルトは死ぬ。本来、精霊契約は自分が死なないと解除できないんだ。精霊に嫌われて一方的に解除された場合でも同じだよ。契約解除されると死ぬし、死んだら契約は解除される。それが精霊と契約するってこと』


「アルトは最初から死ぬ気だったってことッ」


 サーシャがことの重大さに気づきエレメージュにつかみかかる。


『そうだよ、まぁ既に致命傷を受けていたけどね』


 サーシャは自分が気を失う寸前に見たアルトの姿を思い出す。右肩と腹に茨が刺さった姿を。


『契約解除したあと、僕は強引にサーシャちゃんの体に入り込んだんだ。そこで魔王の魂を見つけた。サーシャちゃんの心臓に張り付くようにして存在していた魔王の魂を強引に引き剥がしてペンダントへ移して、ペンダントを外す』


「なるほど」


 エレメージュによる丁寧な説明により魔法の苦手なクレアも理解できた。

それは他の人も同じだった。


「で、ですが、そのようなことをすればサーシャの命が持ちません」


 そこへサリアがさらに質問する。


『ほんと君って頭いいね。その通りだよ、結果でいえばサーシャちゃんは死んだんだ。魔王の魂を引きはがし、氷属性の適性がないにも関わらず、氷の精霊である僕と契約したから』


「で、でも私、生きてます」


 サーシャは自身の体を擦り、どこも異常がない事を確認する。


『サーシャちゃんがアルトのプレゼントを持っていたからだよ』


「プレゼントって・・・あのブローチッ。サリア、私のブローチは?」


「ここにあるよ、壊れてるけど。アルトにしては良いセンスよね」


 サリアはサーシャの部屋の隅に置いてあったブローチをサーシャに渡す。


「花が散っている・・・」


『そう、そのブローチは君の命を一度だけ救う魔道具。アルトが去年の君の誕生日から毎日少しずつ魔力を込めて作ったものなんだ』


 エレメージュが楽しそうに話す。

『君がそのブローチを付けていなかったらアルトは君を殺して自分も死ぬつもりだった』


 その言葉にサーシャは色々と思うところがあるのだろう。


「そうか、あの男は・・・アルト・ヴァリアントという少年は、サーシャのことを」


 ベルモンドが涙を押し殺して声を出す。


『そんで、魔王の魂入りペンダントを拾ったアルトは魔王に取り付かれる。まぁ、それを狙ってたんだけど、そこでアルトのオリジナル《(クロ)融合(スソウル)》の出番。アルトと魔王の魂を一つに融合し・・・僕がとどめを刺した』


 最後のひとこと、初めてエレメージュの心の叫びが伝わった。


 精霊とは本来、契約者に力を貸すだけの存在、しかもエレメージュは大精霊だ。

そんな彼女が悲しんだアルトという少年はまさしく、エレメージュの最高の相棒だっただろう。



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