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十二年越しの婚約  作者: ナカタカナ
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堕ちた神童 封印を解く

 このような経緯があり、冒頭へと戻る。この三日の間にベルモンドを含めた使用人たちがサーシャを救出

しようと心掛けたが結界に阻まれ失敗に終わった。

 

「ブローチ、付けてくれたんだな」


「えぇ、それよりその姿は何よ?白馬の王子様ならぬ白馬の騎士のつもりかしら」


 茨に拘束された姫、サーシャは氷の鎧を身に纏ったアルトを睨む。


「サーシャッ」


「サリア、来てくれたのね」


「待ってて、すぐに助けるわッ」


「いいのよサリア、私はもう駄目なの。このペンダントに封じ込まれている魔王が私の体を乗っ取ろうとし

ているの。私の意識だっていつまで保てるか」


 パーティの日からずっと拘束されているサーシャを見ると痩せこけてしまっている。


「助けるからッ。絶対に助けるからッ」


 サリアの悲痛な声が魔王城の如き不気味な内装になってしまった屋敷に響く。


「私を殺して。そうすれば魔王も再び封印されるわ」


「馬鹿言わないでッ」


「そうよ。私達が必ず助ける」


「ギルがいるのだ。大丈夫だ」


「サーシャさんがいなくなったら私もお兄ちゃんも悲しいですッ」


「サーシャ、君はこの国に必要な人材だ。そ、それに、私の友だ。見捨てる訳にはいかない」


『フハハ、素晴らしい友情ごっこだったぞ人間』


 屋敷内のあちこちからしらない女の声が聞こえる。


「この声は」


「魔王ね。サーシャさんを解放してください」


 リリアンが呟き、レイネが吠える。


『それは出来ないな。何しろ、こんなにも素晴らしい肉体はそうそういない。これほどの肉体はこの娘を抜いてそこの青い髪の男・・・』


 ギルを指名したあと魔王の声が止まる。


「ギルは渡さない、サーシャも渡さない」


 サリアが魔王にそう言い放つ。だが、魔王の様子がおかしい。いや、魔王の姿はないのだが。


『お、おいそこの氷の鎧を纏った男ッ。き、貴様は一体・・・』


 魔王の声から察するに完全に様子がおかしい。


「俺か、人が呼ぶには堕ちた神童で女遊び大好きなロクでもない男だが」


『堕ちた神童だと、馬鹿なッお主は千年前の勇者より遥かに強いぞ』


「「「「えっ」」」」


 サリア、レイネ、リリアン、クレアが突然のことに驚く。


「アルトが千年前の勇者より強いだって・・・」


 ギルもまた魔王の言葉に驚く。


「馬鹿いってんじゃねえよ。それがほんとなら千年前の勇者は相当弱いんだな」


『そんなわけあるかッ。千年前の勇者は剣を振るえば海を割る男だぞ』


「へぇ、なんでもいいけどサーシャを解放してくれないか?」


『断る。あの青い髪の男を差し出せば考えるが、やっぱりなしじゃ。妾は女だ。男の肉体なんぞ誰が使うか』


「・・・そうか、だが、お前も目の付け所がいいな。俺の知る限り世界一可愛いサーシャを肉体にするなんて」


このシリアスな場面で急なことをいうアルトに全員が目を点にする。


「こ、この場面で何言ってるのよッこの馬鹿ッ」


 その言葉に誰よりも早く反応したのはサーシャだった。


『お、お主は馬鹿なのか?頭大丈夫か?』


 敵である魔王にまで頭の心配をされる。


「いいかよく聞けよッサーシャはな世界一可愛い。真面目な所も、怒ってるところも、困ったような顔をするところも、仕草も、何から何でも全部可愛いッ」


「ア、アルト・・・」


 急に雰囲気の変わったアルトの様子を見てギルたちも何かを感じたのだろう。

静かにアルトの背中を見守る。


「でもな、俺が一番可愛いと思うのはサーシャの笑顔だッ」


『こ、こんなところで告白するのか。にしてもお主、婚約破棄されたのじゃろ。この娘の記憶を見た所、お

主は相当、女遊びが激しかったようだが』


 サーシャの学園での記憶を見た魔王はアルトに問いかける。


「馬鹿言うなッ俺は童貞だッ」


「「「「「ブフッ」」」」」


「あ、あなた、ほんとに馬鹿じゃないのっ」


『・・・ほんとに頭大丈夫か?って、そうじゃない、あれだけ女を口説いていたのにか?』


「ヘタレじゃないからな。俺が愛しているのはサーシャだけだし、好きな子もサーシャだけだ。ってどっち

も同じか。なら、俺が一番幸せになってほしいって思ってるものサーシャだ」


 再び魔王に頭の心配をされたアルトだが何も無かったかのように話を続ける。


「なら、なんでッ、なんでよッ」


 そういったのはサーシャだった。涙を流し、目を赤く充血させている。


「俺だとサーシャが幸せになれないからだ」


「な、なにをいっているの?幸せになれないってなに?」


 アルトの真剣な声と表情にサーシャが驚く。それと同時に「どうして」という感情が強まる。


「俺はサーシャの笑顔が好きだ。初めてあったときに、俺の家の花を見た時に見せてくれた笑顔に心底心を掴まれたし、それから一緒に過ごした中でのさり気ないところとかにも全部、惹かれた」


 聞いているだけで恥ずかしいことを大声で叫ぶ氷の聖騎士にその場にいた全員が困惑した。


「でも、俺ではサーシャを笑顔に出来なかった。いつも笑顔になってもらいたくて頑張ってたけど、一度たりとも笑顔になってくれなかった。それどころか悲し気な顔ばっかりだった」


「そ、それは」


「そんなときだ、ギルと会ったのは、学園でギルと仲良くなったあと、サーシャと会ってもらったらサーシャはこれ以上ないくらいの笑顔を浮かべていた」


「アルト・・・ち、違うッ。そ、そんな僕は」


 思いもよらなかった発現にギルも声が出なくなる。


「いいんだ親友。俺もお前を憎んでないっていえば嘘になる。ハハハ、サーシャだけじゃなく、こんなに魅力的な子に囲まれてるしな。好きな子一人笑顔にできない俺とは大違いだ」


「ア、アルト・ヴァリアント、貴様は・・・」


 クレアもアルトの本音を聞いて驚いているのだろう。それも仕方ない、学園でのアルトは上級生、下級生かまわず口説きまわっているクズだったからだ。


「だから、俺は婚約破棄してもらおうと思っていろんな女の子を口説いてまわったさ。その結果、俺は婚約破棄に成功した。あとは、ギルとサーシャがくっつけばいいんだが、その前に魔王(おまえ)をどうにかしないとな」


『お主、ほんとに馬鹿だなッ。それほどまでにこの娘を愛しているにも関わらず、何故だ?』


「なんだ魔王同情か?同情するならさっさとサーシャを解放しろよ」


『男なら、お前は俺の女だとかいっていえばよかろう』


「うるせーな。勘違いするなよ魔王、俺はサーシャを束縛したいんじゃない。サーシャに幸せになって欲しいんだ。ギルと結ばれれば幸せになると思ったから、行動したんだ」


『もうよい、貴様死ね』


 突然、アルトの前に魔法陣が現れる。


 魔法陣からは茨が現れ、アルトを拘束しようとする。


「グレイシア」


 すぐさま、その場から回避したアルトは屋敷内をグレイシアで駆け回る。

それに続き、ギルたちも攻撃を開始する。


 「くっ、やっぱりバリアが張られてるわね」


「はぁッ、この茨も斬っても斬ってもキリがない」


「危ないッ、大丈夫リリアンちゃん?」


「ありがとうレイネちゃん。助かった。皆さん回復魔法を」


「ええい、こざかしい植物が《炎獄(インフェルノ)》」


 五人の連携ではいつまで経っても終わらないと判断したシェーレは火属性の最上位魔法である《炎獄(インフェルノ)》を発動する。それにより、茨は全て燃え尽きる。


「学園長ッ」


「目を離してはならん」


 一瞬だけ気が緩んでしまったギルに槍の一撃よりも鋭い茨が襲い掛かる。


「なにしてんだ親友」


 ギルの顔に茨が刺さる寸前に茨は勢いをなくし、その場に落ちた。何故なら、アルトが切り裂いたから

だ。


「その剣は・・・」


「魔法で作った。それより、早くしねぇと本格的にやべぇ、一部の茨からサーシャの魔力を感じる。急がないと」


「魔力枯渇したら意識を失う」


「あぁ、いそがねぇと、バリアは俺が破る。そのあとご自慢の魔剣でペンダントを壊せ」


「わかった」


 二人は茨の攻撃を回避し、サーシャの前まで移動する。


「こんなバリアで俺が止まるかよッ《雪屑爆散(スノーダスト・バースト)》」


 アルトの発動した中級魔法によりバリアは破壊されるかと思ったが、ヒビが入るだけだった。


「くそ、ならコイツだ《神撃一槍(トリシューラ)》」


 すかさず氷の三つ又槍を創造し、それを全力で投擲するアルト。


 槍はバリアに突き刺さる。それと同時に亀裂がはしる。


「まだだ」


 槍の勢いは止まることなく、バリアに突き進む。亀裂がさらに大きくなる。

バリンッと心地よい音がすると、サーシャを囲っていたバリアが崩れ去った。


 「今だッ」


アルトの合図により、ギルは背後から「はぁッ」という声と同時に魔剣を振り下ろす。

魔剣はサーシャを拘束していた茨を切り裂く。


「見えた」


 茨が切り裂かれたことにより黒いペンダントが現れる。


「はぁッ」


 再び掛け声とともに魔剣を突き出す。魔剣の剣先はペンダントの宝石部分に触れる。

このままいけばペンダントは壊れるッ。


「もうすこしだぁッ」


『甘いぞ少年』


 不意に魔王の声がすると思った途端、凄まじい魔力が解放されギルは吹き飛ばされた。


『惜しかったな少年、しかし、それではこの娘は救えないぞ』


 黒いペンダントを見ると、サーシャの体に埋もれている。


「なっ、同化している」


『そのとおり、もうこの娘からペンダントを外すことは出来ない。唯一の方法は妾が自分から娘の体を出て行くことだ。まぁ、妾は出て行く気がないが』


「も、ういいの」


 声を出すのも精いっぱいなのか掠れた声でサーシャが呟いた。小さな声だったにも関わらず、この場に良く響いた。


「わた、し、魔王に、なりたくない」


 涙を流しサーシャ。完全に諦めてしまっている。自分の体がいうことを聞くなら自害しているかもしれない。しかし、それも、体を奪われてしまい、出来ない。


「はや、く、ころし、て」


『この娘もしぶといな。おいアルトとかいったな小僧』


 魔王は突然、ギルの横に立っていたアルトへ話しかける。


『妾がこの体を乗っ取り、魔王となったあかつきにはお主を妾の騎士として仕えさせてやろう。ついでに、

ご褒美として、この身を堪能させてやるぞ。こう見えても妾はテクニシャンだ』


 魔王の提案は最低ともいえるが、効果的でもあった。


「それは魅力的な提案だな」


「お、おいッアルト」


「貴様見損なったぞ」


 ギルとクレアが信じられないという顔をする。


 『そうであろう、そ、それに妾も小僧のことが気にいった。妾の配下となれ』

 さらに魔王の追い打ちがかかる。


 『よし、小僧のことは名前で確かアルトといったな、ではアルトと呼ぼう、さあ「悪いが、断る」な、何故だ?』


 アルトは今まで誰も見たことがないくらい爽やかな笑顔を浮かべる。


「確かに、サーシャの体を楽しむという提案は素晴らしいものだ。でもな、サーシャの体でも、そこにサーシャの魂が無ければ、それはサーシャじゃない」


『あ、安心せい、娘の魂は妾の中で生き続ける。その気になれば、娘の魂を表にだすことだってできる』


「そうなのか、じゃあいいよ」


『そうかそうk「とでもいうと思ったかば〜かッ」馬鹿だとッ。貴様にいわれたくない』


 幼稚園児のようないいあいをするアルトと魔王に全員が呆気にとられる。


「サーシャの魂を表にしても、サーシャは二度と笑ってくれないだろうな。こんな最低男に」


 アルトはコツ、コツ、コツとサーシャの前へ歩み寄る。


『しかし、もう娘とペンダントは同化している。今さら何ができるというのだ』


「あとな、ひとついっておく。サーシャの体があっても魂が無ければ俺はそいつをサーシャだと思わねぇし、生まれ変わって男になってもサーシャの魂がそこにあるんだったら、俺はそいつをサーシャだって思う」


『お、お主男色か』


「なわけねぇだろ。サーシャはサーシャだ。それに、そんなサーシャを今、苦しめているお前の配下に俺がなる訳ねぇだろ」


 先ほどまで浮かべていた爽やかな笑みからは一瞬で変わり、鬼の様な顔へ変わる。


「これ以上サーシャを苦しめるな」


『なッ、なんという殺気』


 魔王もしり込みしてしまった。声からどれほどまでに魔王が怯えているのか分かる。


「エレメージュちゃん頼むわ」


『何かする気だな。死ねッ』


 魔王はアルトの魔力から何かをしようとしていることを察知し、茨の槍をアルトへ刺す。


「っつ」


 少し体を捻じって回避したが、右肩に茨の槍が突き刺さる。


『今度こそ死ねッ』


 再び、アルトの心臓目掛けて茨の槍が突き進む。


「グハッ・・・っぶねぇな。だが、これで」


 今度も器用に体を捻じり回避したアルトだったが、今度は腹に刺さってしまう。

しかし、アルトはサーシャの真正面、一メートルも距離がないところまで近づいた。


「サーシャ起きろッ」


 アルトが大声で朦朧とするサーシャを呼ぶ。


「ア、ルト」


「あぁ、俺だ。最初にいっておく、ごめん」


「うッ」


 サーシャに謝ったアルトはサーシャの頬に手を添えて唇を重ね合わせる。


「ファーストキス奪う気なかったんだけどな」


 苦笑するアルトを見てサーシャは顔を赤くする。


「ごめん、これだけはギルにもあげたくなかったんだ」


 そんなことをいってサーシャの頭を撫でるアルト。そして、アルトの姿をみてサーシャも驚く。右肩に茨が刺さり、腹にも茨が刺さっている。明らかに致命傷だ。


「アル、トッ」


「いくぜ、エレメージュちゃん」


 アルトが自分の相棒に話しかけると同時にサーシャの胸に埋まっているペンダントに触れる。


「サーシャを頼むぜ」


『・・・うん、わかった』


 エレメージュの声がしたと思ったら、突如、サーシャの体に膨大な魔力が流れ込んでくる。


「ぐっ」


 うめき声をあげ、膝をつきそうになるアルト、顔の血色も悪くなっている。


「サーシャだけは、サーシャだけは死なせねぇッ。アアアアアアアアッ」


『な、この魔力ッ。クソッ』


 魔王が悪態をついた。その後、サーシャの胸に埋まっていたペンダントが外れる。


「はぁ、はぁ、はぁ、取れた。これをッ壊せば、って」


 魔力切れによるものなのか、氷の鎧が解除されたアルトがペンダントを拾い上げる。


『この際、お主でも良いッ』


 アルトがペンダントを拾い上げると魔王の悪あがきにより、アルトの胸へとペンダントが埋まる。


「アルトッ」


 ギルがすぐにアルトへ駆け寄りペンダントを外そうと試みる。


「かかったな」


『なにっ』


「俺のオリジナル 我が魂は汝と結ばれる《(クロ)融合(スソウル)》」


 対魔王様に開発した俺のオリジナル魔法。

この魔法は一つの体に二つ以上の魂が存在する場合、その魂を一つに融合する魔法だ。


「エレメージュちゃんッ」


『魔力を借りるよサーシャちゃん、楽しかったよアルト』


「あぁ、俺もだ、じゃあなエレメージュ」


『なッ、うん、じゃあね《()(キュ)地獄(ートス)》』


 エレメージュがサーシャの魔力を使い、精霊魔法を発動する。


 精霊魔法によりアルトは氷の像へ変わってしまった。


『砕けろ』


 バリンッ

 エレメージュの言葉とともにアルトの氷像は亀裂が入り、粉々に砕け散った。

 こうして、千年以上この世にあり続けた魔王は、一人の少年と共に消滅したのだった。



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