蘇る伝説
窓の外から聞こえる叫び声に二人は反応する。
魔獣行進とはモンスターたちが群を成し、移動する災害だ。
大体がモンスターたちを指揮する王である個体がモンスターたちを先導するのだが。
ごく稀に王となる個体がいないにも関わらずこの災害が起こることもある。
その理由はモンスターを脅かす存在が現れたからだ。過去に何度かそういったこともあったようだ。
どちらにせよ魔獣行進が発生するということは王となる個体が現れたのか、それ以上におそろしいモンスターが現れたかの二択だ。
「聞こえたか?」
「えぇ、せっかくこれからお楽しみってところなのに」
「そんなこといってる場合じゃないだろ。このままじゃこの辺りが地獄になる」
「そうね、もうあんなのはごめんよ」
下手すると国すらも滅ぶ災害を前に二人は冷静だった。
何故なら、二人は過去に二度魔獣行進を経験していた。
二回とも学園に在学中のことだった。二人だけではなく、学園に通っていた生徒はなんらかの形で魔獣行進のサポートにはいっていた。
土の壁をつくったり、物資の運搬だったり、負傷した冒険者や騎士たちの治療をしたりなど。
アルトやサーシャたちはそのどれでもない戦闘を経験していた。
最終防衛ラインを任されていた当時のアルトたちは死ぬ思いで戦い、なんとか被害を最小限におさえることができた。
そのときはゴブリンロードがゴブリンなどを含めた下級モンスターを従えていた。
幸いにもそのときは高レベル冒険者がいたため、二日で事態は収まったのだが、今回はそういくとは限らない。
今しがた脱いだ衣服を再び来た二人は部屋をでた。
使用人たちも魔獣行進と聞こえたため戦いの準備をしていた。
「お父様」
鎧と纏い剣を持つベルモンドを見てサーシャが声を掛ける。
「うむ、サーシャも聞いただろう。魔獣行進だ。現在、この町の冒険者全員が魔獣行進に向けて防壁を準備している。到着は十時間後とのことだ」
ベルモンドが状況を説明してくれる。話を聞いているとこの町から東にある森で一万を越えるモンスターの移動を確認した冒険者がいたらしい。
冒険者は急いで街に引き返し、冒険者ギルドへ報告する。
そこから冒険者ギルドの人間がこの町の領主であベルモンドに報告しにきたというわけだ。
「既に王都へ連絡した。一万というモンスターの群れだ。騎士団を派遣してくれる」
「間に合いますか?」
「なんとか間に合わせるようだ。既に遠征に出掛けていた騎士団がこちらへ向かってくれている。王都からの援軍も十時間以内には到着する」
「しかし、数がおかしいです。一万なんて聞いたことありません」
そこにクレアが会話にはいってきた。
「あぁ、緊急事態だ。下手すればこの町は滅ぶ」
ベルモンドの眉間にしわが寄る。
「これも古代兵器のせいなのか?」
『わからぬ。しかし、異常事態なのは分かる。一万ものモンスターを率いる個体?妾はそんなもの聞いたことがない。王どころの話ではないぞ』
アルトはローズに聞いてみた。千二百年以上存在している彼女すら聞いたことがないという。
「住人の避難はどうなっているのですか?」
「行っている。十時間もあれば隣街につくことはできる。しかし・・・」
確かに十時間もあれば隣町まで避難することが可能だろう。しかし、一万ものモンスターが襲ってくる。この町の次はどこに行くか分からない。下手すれば隣町にまで被害が広がる。
「死ぬ覚悟でモンスターたちを一匹でも多く討伐する」
ベルモンドは悲痛な表情を浮かべてそういった。
「そん、な」
クレアは震えた声で呟く。
「アルト君、もしよければサーシャを連れて逃げてくれないか?」
その言葉に誰もが目を見開く。
「私は先ほどのサーシャの姿を見て思ったのだ。やはり、君しか私の娘を幸せにすることはできないと。頼む、サーシャを、私の娘を連れて逃げてくれないか?」
ポロポロと涙をこぼすベルモンド。そんな姿を見たのはサーシャの母が病気で亡くなった時以来だ。娘のサーシャすらベルモンドの涙を見たのはその一回っきりだ。
剛剣のベルモンドと呼ばれた彼の涙は他者に何もいわせないほど重たいものだ。
「お、お父様は?お父様はどうするの?」
サーシャだって分かっている。ベルモンドが何を思っているのか・・・
「私はもう年だ。かつての様に一騎当千の活躍をすることもできないだろう。しかし、モンスター如きに後れをとるほどではない」
「・・・」
「私はサーシャが生まれて幸せだったのだ。今は亡き私の妻、ファルファラと瓜二つで目に入れても痛くないと思える最愛の娘がいたのだ。ファルファラを亡くしたとき、私には全てを失ったと思ったものだ。しか
しな、私にはサーシャがいた。サーシャは私が護ると決めたのだ」
止まることのない涙を前にサーシャも涙を流す。
「だが、もう私はいなくて大丈夫だろう。サーシャにはアルト君という素晴らしい男がいる。
これからは私の代わりにアルト君がサーシャを守ってくれることだろう」
目を充血させたベルモンドはアルトの正面に立つ。
「サーシャを頼む」
たった、一言。しかし、そのたった一言にベルモンドの人生のすべてといっても過言ではないほど想いが籠っている。
「任せてください。二度と、俺はサーシャを悲しませない」
「まって、まってよ、アルト。わ、私はお父様が死ぬなんて」
「勝手に人を殺さないでもらいたい」
ベルモンドはサーシャを抱きしめて頭を撫でる。
「やだ、やだ、お父様・・・私は、アルトがいれば何もいらないっていったけど・・・お父様に死んでほしくないのッ」
父と娘、もしかすると最後の会話になるかもしれないこの状況にこの場にいた全員が胸を痛める。特に、サーシャが生まれたときから仕えていた使用人たちは今すぐにでも崩れ落ちそうだ。
「お嬢様、旦那様のことは安心してください」
そのとき、一人の老執事が二人の傍へ近づく。
「カルロス」
カルロスと呼ばれた執事は剣を手に取り、サーシャにこういった。
「旦那様は私達が命を懸けてお守りいたします」
「カルロスッ、あなたまで」
「私も長年この家に仕えてきましたが、今でもついお嬢様が生まれた日のことを昨日のことのように思い出せます」
確か神様から聞いた話では仏と呼ばれる神が異世界にはいるらしい。慈悲深い微笑みを浮かべる神とかなんとか、今まさにカルロスの浮かべている表情は仏のようだ。
「私はこの家にお仕えすることができて幸せです」
「私もです」「俺もです」「僕も」「私もですよ」
それからこの場にいた使用人全員が手をあげる。
「ほら、安心してください。旦那様は私達が命を懸けて守ります」
「馬鹿言わないで、私にとってはあなたたちも家族なのよ」
アルトは何もいえなかった。サーシャの気持ちが痛い程、共感できるからだ。
『なぁ、エレメージュちゃん。ローズ』
『いわなくても分かるよ。僕はいつでも君に力を貸すよ』
『妾も、いくらでも力を貸そう。にしても娘は随分と慕われているようだ。うらやましい』
声には出さず、脳内でエレメージュとローズに話しかけたアルト。
二人はアルトの考えなどまるわかりだ。二つ返事で了承する。
『一万だそうだが勝てるか?』
『今のアルトならできるよ。僕がいるんだから』
『なにをいうか、妾がいるんだ。たかが一万のモンスターなど蹴散らしてくれる』
二人は喧嘩を始めるが、今はそれが頼もしい。
『そっか、なら一万のモンスターを蹴散らすか。頼むぜ相棒』
『うん、僕は君の相棒だからね』
『もちろんだ。妾はアルトの相棒だからなッ』
『『アアン?誰がアルトの相棒だって?』』
そして再び喧嘩を始める。
アルトの考えは纏まった。
「なぁサーシャ。この人達はサーシャの家族なんだろ?だったら俺の家族でもあるわけだ」
「え、えぇ」
突然そんなことをいいだしたアルトにサーシャは頷く。
「なら、俺は戦うぜ。友達や家族は大切だ。それに、一万のモンスターくらい倒せないと古代兵器何て相手
にできるわけがないしな」
「アルト、それって」
「いったろ俺がサーシャを守る。サーシャの大切な物も全部だ」
まるで恋愛小説の一文を音読しているかのような台詞に女性たちはときめく。
「よし、いくか」
そしてアルトは歩み始める。
屋敷を出た彼は、住人が避難するために混雑する道をただ一人、周囲の人間とは真反対に歩く。冒険者でさえも逃げ出すこの状況で見た目は少年であるが雰囲気は歴戦の覇者を彷彿させる男。アルト・ヴァリアントはゆっくりとサーシャの大切な街を見渡しながら進む。
すると、そこでアルトはとある店を見つける。その店はかつて、サーシャとデートしたときにはじめて贈り物を買った店だった。「懐かしいな」と思いつつも、彼は一歩一歩、確実に進む。この町の外へ、戦場へ・・・迫りくる一万ものモンスターを相手にするために作られている防壁よりもさらに向こうへ・・・
今はまだモンスターたちの姿は見えないが、必ずやってくるモンスターたちから最愛の女性の大切を全て守るために・・・モンスターが到達するまであと八時間半。
魔獣行進の知らせが届き三時間が経過した。
町の周りは防壁で囲まれ、防壁の外には武装した冒険者たちと騎士団がいた。
冒険者の数は約百人。そして、遠征から帰る途中だった騎士団およそ五十人。
あと五時間もすれば王都からの援軍が到着するだろう。しかし、王都から派遣される騎士団の数はおよそ三千。一万の群れを前にすると絶望的だ。
そんな状況下にも関わらず、周りの人間よりも若い少年がせっせと何か作業していた。
勿論、その少年というのはアルトだ。
「よう坊主。見た所学生か?さっきから何してんだ?」
そんなアルトを気になったのか三十代くらいの男性冒険者が声を掛ける。
「ちょっとね、モンスターたちが踏むと魔法が発動するようにしてるんだ」
「へぇ、坊主は魔法が使えるのか。にしてもいいのか?死ぬかもしれないぞ。悪いことはいわねぇ、坊主はまだ若い。坊主の足なら今から急いで逃げても隣町に付くだろう」
男性は若い少年が命を落とすことを見過ごしてられないようだ。
「坊主ってまぁ、見た目は十六だから仕方ない。これでも俺は二十八なんだぜ」
「ガハハ、そりゃびっくりだ。悪いな、だが、随分肝が据わってるな」
男性は容姿にピッタリな豪快な笑い声を響かせる。
「別に、あんたこそいいのか?死ぬかもしれないぞ?」
アルトは男性に全く同じ意味の質問を返す。
「俺はこの町で生まれて、この町で育った。一年程前までは冒険者として各地を転々としてたんだが、ちょっと休息がてら、この町に戻ってきてたんだ。やっぱり、故郷の危機となっちゃあ、ほっとけないよな」
男性が見つめる先は防壁に囲まれた街がある。
「まぁ、今回ばかりは割とマジで滅ぶかもな」
そして男性は肩を落とす。
「一万のモンスターなんて聞いたことがないぜ。魔王が復活したのか?」
『そんなわけなかろうッ』
男性の口から出た魔王ということばにサーシャが過剰に反応する。まぁ、仕方ないだろう。
「だけどよぉ、魔王って王都の英雄に討伐されたんだろ?確か、ア、アルスだっけ?」
「まぁ、魔王が復活してたとしても魔王はこんなことしないよ」
「ほう、それはどうしてだい?」
「魔王はモンスターなんて興味ないからだ。魔王は魔族の王であり、モンスターを率いる王ではない。だから、こんなことはしない」
「随分魔王に詳しいな?」
男性が関心したように頷く。
「さて、この辺り一帯は仕掛けれたし、次行くか」
アルトは男性を気にせずに作業を続ける。
街から二百メートル離れるごとに周囲に設置型の魔法を仕掛ける。
大半が氷の魔法によるもので、あとはちょっとした気休め程度の地雷魔法。
使徒となったアルトの魔力は無限と等しいモノであり、いくら魔力を消費しても次から次に魔力で溢れかえる。
『全く、さっきの男は妾をなんだと思っているのだッ』
数にしておよそ二千を越える魔法を設置したアルトは一度街に戻ってきていた。
アルトの周りには霊体化しているローズも姿は見えないがあった。
そのローズから発せられる言葉は先ほどの男性冒険者のものであった。
「落ち着けって、俺はローズがそんなことしないって知ってるから」
『う、うむそうだな』
『ねぇ、アルト。最近さ、僕に構ってくれないよね?やっぱり僕なんかよりローズの方がいいの?』
アルトはローズを励ましたつもりだったのだが、そのせいでエレメージュの機嫌を損ねる。
「そ、そんなことないから。エレメージュちゃんも俺の大切な相棒だし、命の恩人だ」
『ふ〜ん、でも僕はちゃんづけなんだよね』
「ぐっ、分かったって。これからはエレメージュって呼ぶ」
『うんうん、素直なことはいいことだよ』
どうやらエレメージュは、いつまでたってもちゃんづけだったことを結構根に持っていたようだ。アルトはグサッと見えないは物か何かが刺さったかのような感覚に陥る。
住人が全員避難した後の街はまるで滅びを迎えたあとの街のようだ。
静けさだけがその場に漂う。ほんの数時間前までは人で溢れていた街がウソのようだ。
夕日が炎のように揺らめくこの時間帯。アルトがいた通りでは本来、夕食の食材を買う主夫や友達と遊んでいた子供たちが家に帰るため人通りが多い。
にも関わらず、人は誰一人見つからない。
これも全て魔獣行進のせいだ。
アルトが過去に遭遇した魔獣行進でアルトは後輩を失っていた。
その後輩はアルトの二つ下の少年で、名前をレオンといった。レオンは回復魔法が得意だったため、救護班として活躍していたのだが、狼型モンスターのデスハウンドに救護所を襲われ、そのまま死んでしまった。
弟の様に可愛がっていた後輩の死にアルトは胸が張り裂ける思いだった。そして、今回はサーシャの故郷だ。もう二度と、あんな思いをしたくない。
「アルトッ、こんなとこにいたの?」
そのとき、サーシャの声がした。アルトはすぐに振り返る。
そこには魔導士のローブを羽織り、学生時代から愛用していた杖を持っている。
「やっぱり戦うのか。まぁ、安心しろ。サーシャは俺が守る」
「ええ、知ってるわ。ついさっき騎士団が到着したのだけど、みんな顔が死んでいたわ」
「仕方ないだろ。一万のモンスター相手に三千百ちょっとだぞ。普通なら勝ち目ない」
騎士団たちの心境はどのようなものだったのだろうか?死に向かうのと同意義である。
全員が逃げ出したい思いで溢れてるだろう。それでもなお、ここに来てくれる騎士たちこそが本物の英雄なのではないのだろうか?
「騎士にだって家族がいるんだよな・・・」
「急にどうしたの?」
「いや、騎士の人にも帰るところがあるんだ。誰一人、死なせたくないなって思ってさ」
「・・・そうね、でも、そんなことできるの?」
サーシャは深く考え込んだ後、俺の瞳をジッと見つめた。
「サーシャが望めば、俺は出来るかもしれないな」
ちょっと冗談っぽく話す。
「なら、お願いするわ。負傷者は仕方ないけど、死者は誰一人出さないようにできる?」
「任せとけ、かなり無茶なオーダーだけど、サーシャの望みなら叶えてやるからッ」
ちょっと強きで返す。みんな知ってるか?俺のサーシャはかなりブラックな上司なんだぜ。
俺とサーシャは街の外へと向かった。
日も落ちてモンスターが到着するまであと一時間、全員が気を張り詰めていた。
ベルモンド卿中心となって騎士団と冒険者を率いるようだ。
「諸君らも知っていると思うが、あと一時間でモンスターが街にやってくる。先ほど偵察にいった冒険者たちが帰ってきた。モンスターの種類は主に五種。ゴブリン、デスハウンド、デビルバット、キラービー、ウェアウルフ。その他にワイバーンとサラマンダーの汎竜種がいたそうだ。
そして、何よりもモンスターを率いる王なのだが・・・アークゴブリンロードだそうだ」
「「「「「なっ」」」」」
アークゴブリンロード、ゴブリンロードが百年以上の年月を経て、進化する最上位種。
ゴブリンロードの何倍もの筋力、体力、知力を兼ね備えたゴブリンの神といっても過言ではない。そんな大物が今回の王なのか。
過去にアークゴブリンロードが街を襲ったときは大都市と三つの街と十数もの村を蹂躙したそうだ。そのときは王国の秘宝である聖剣を使い討伐したが聖剣を使ったモノは死んでしまった。聖剣の担い手は勇者しかいない。それ以外が持つとほぼ百パーセント死ぬ。
そんな武器を使ってようやく討伐できた存在がこの街にやってくる。
誰もが絶望の底へと叩きつけられる。既にン住人もの人間が崩れ落ちてしまっている。
「諸君らが絶望するのも無理はない。逃げ出したい気持ちを抑えてここまできてくれたというのに、相手は第一級災害指定モンスターだ。生き残る可能性は一パーセント未満だろう。
しかし、私は戦う。国の為になんてことはいわないが、娘を守るため。私達がここで一匹でも多く道連れにすることで必ず誰かが討伐してくれるだろう」
ベルモンドの演説によりほんの少しだけ士気が上がる。しかし、あまり効果はないように思える。何かもう少し、もう少しだけ士気があがるようなことがあれば・・・
「それでは作戦の最終確認をとる」
そこで俺はベルモンド卿の隣に立った。
「えぇ、皆さん。この防壁から二百メートルごとに魔法で罠を仕掛けています。
防壁から一番外側の三千メートル地点と二千八百メートル地点は地雷魔法をそこから二千メートル地点までに氷魔法の罠を仕掛けています。二千ほど用意しましたが、一万のモンスター相手にはあまり効きそうにありません。ですので、今回の作戦はどれだけ多く、近ずかれる前に削られるかという問題がカギです。
後衛の皆さんはかなり重要です。魔力が底をついても魔法を発動する勢いで戦ってください。
そこからは騎士団の皆さんを中心とした前衛の皆さんの出番です。
幸い、避難は終わっているので多少街に逃げられたとしても被害はないですが、街にいれないように死守してください」
俺が説明を終えると遠くで爆発音がした。
「くっ、予定よりも早く来たか。急げッ、魔導士は魔力回復ポーションを持って防壁の上へ。
騎士団は隊列を組みやってきたモンスターを街へ通すな」
ベルモンドが声を張り上げる。
日が沈んでしまい、視界が悪いなか、モンスターたちはやってきた。
爆発音が響く中、ゾッとするほどの足音が迫ってくる。
遠くから見ても一際大きい人型の生物が視界映る。
全長はおよそ三メートル。岩の様な剣を手にドスン、ドスンと迫りくる。
準備していた地雷もゴブリンやウェアウルフ、デスハウンドには効いているが、空を飛んでいるキラービー、デビルバット、ワイバーンにサラマンダーには効いていないようだ。
「魔導士隊構えッ・・・撃てッ」
ベルモンドが指揮を下す。直後、数十の魔法が飛びだし、空を飛ぶモンスター中心に降りそそいだ。
「よし、空を飛ぶモンスター中心に魔法を放てッ。地上の敵は罠である程度は削れるはずだ。
今のうちに全て堕とす勢いで撃ちまくれッ」
ベルモンドの指揮のもと、魔導士達が必死に魔法を放つ事で次々にモンスターたちは数をへらしていく。地上のモンスターたちもアルトが準備した魔法により何匹も巻き込む形で少しずつ数を減らしていった。
「いいぞ、このまま飛んでいるモンスターだけでも全滅させろ」
魔導士達が回復ポーションをがぶ飲みしたあと、詠唱を始める。
数を減らしたといってもモンスターはまだまだいる。なんたって一万もの軍勢だ。
ようやく五百を削れたといったところかもしれない。
「エレメージュいくぞ」
『うん、ドデカいのぶちまくぞぉ〜』
アルトがエレメージュに魔法を発動させると告げると、エレメージュは楽し気な声で返答する。そして、アルトは魔法の詠唱を始めた。
アルトの体内を巡る魔力がフル回転する。
「我望むは白一色の銀世界。
吹雪が吹き荒れ、息は凍る。
何人たりとも動かない静かな世界。
生物は血液さえも流れを止め、音も凍る。
はては時間さえ止まった停止世界。
《停止世界の氷牢地獄》」
かつてエレメージュより聞かされたおとぎ話に登場する氷の世界。
その世界は何もかもが凍ってしまい、時間すら停止している世界だそうだ。
見渡す限り一面が雪景色で、ところどころ凍ってしまった氷像がオブジェの如く並ぶ。
そんな世界を一時的に顕現させる禁断の魔法。
魔法を発動したあと、アルトの体内の魔力が一気に放出され、およそ一キロ先に氷の世界を顕現させた。ウェアウルフとゴブリンは物言わぬ氷像と化し、アークゴブリンロードの下半身もろとも凍らせてしまった。
しかし、全てを凍らせることができたというわけではない。アークゴブリンロードより後ろにいたモンスターたちはギリギリ魔法の範囲より外だったため生きている。
目の前に現れた同胞の像と氷の世界に戸惑いながらも・・・
そして、そんな銀世界に驚いたのはモンスターたちだけではなかった。
アルトの周りにいた全員が「何が起きた?」と首をかしげている。




