ベルメル邸
城内で報告を終え、大忙しと困っているオズワルドたちを放置してアルトはクレアと共にベルメル邸があるベルメル領へと向かっていた。
ちなみにクレアはドレス姿から少し控えめなドレス姿に変わっていた。
騎士の姿で行こうとしていたのだが、流石にそれは気が引けるとのことでローズの魔法で作ったドレスより少し地味目なドレスへと変わっていた。
移動はクレアの家の馬車で移動している。
「それでアルトはサーシャに会ったあと、どうするのだ?」
「とりあえず、一度実家にいって顔見せる。それに、幸いなことに実家の近くには・・・」
「《古代人の墓場》がある」
「そうだ。ついでにそこを探索する。それでなんだが」
アルトは馬車の中で対面する形で座っているクレアに申し訳なさそうな顔を向ける。
「私も手伝う。騎士団の方も少し活動を停止するようだ。といっても活動を停止という形で各地にあるダンジョンの探索を行うらしい」
「助かる。クレアちゃんとダンジョン探索か・・・学園の演習でパーティ組んで調査するって授業きりだな」
クレアがダンジョン探索に加わってくれるというなら心強いと意気込むアルトだった。
クレアは山賊に敗れたがかなり強い騎士である。その騎士団を翻弄した《殺人教》とはいったい何者なのだろうかという考えがアルトの頭をさらに悩ませる。
エレメージュの精霊魔法により瞬殺してしまった殺人教ではあるが、目を合わせた一瞬で彼らの強さは理
解できた。下手するとAランク冒険者並みの強さが彼等一人一人の強さである。
そんなものたちが山賊になり活動している。おかしいだろう。明らかに何者かが彼らを先導している。
「 ルト、アルトッ」
完全に一人の世界へと入り込んでしまっていたアルトにクレアが何度も呼び掛ける。
「あ、あぁ悪い。なんの話だった?」
「ダンジョンの話だったが、ついたぞ。大丈夫か?」
「大丈夫だって、サーシャに会えるのが嬉しすぎてちょっと暴走してただけ」
「・・・ならいいんだが、無理してサーシャを悲しませると私が貴様をぶっ飛ばす」
「はいはい」
のらりくらりと返答するアルトにクレアはジト目を向けてそう言い放った。
しかもご丁寧に殺気まで飛ばしている。恐ろしい女だ。
馬車から降りたアルトが目にしたベルメル邸はあの日、魔王城化していたベルメル邸ではなく、婚約破棄された日に見たものと同じだった。
「旦那様がいらっしゃるまで、ここでしばらくお待ちください」
クレアのおかげでなんとかアルトもベルメル邸へと入ることができた。ただ、昔からこの家に仕えている使用人にはアルトの顔を見て驚いているものたちもいた。それも無理はない。
十年以上前に死んでしまった使用人たちの主の娘である少女の婚約者だった少年に顔がそっくりなのだ。これで驚くなという方が難しい。
そして、使用人に案内されたアルトとクレアは客間にてベルモンド卿を待つことになった。
「おい、そわそわするな。恥ずかしいだろ」
「い、いや、だって、ベルモンド卿と会うんだぜ。お、俺・・・」
「はぁ~、安心しろ。ベルモンド卿は怒っていない」
クレアがそういうとアルトは安心した。すると客間の扉が開く。
「待たせてしまったようだな。それで、どうしたんだいクレア君・・・お、お前はッ」
入ってきたのはベルモンドだった。ベルモンドは急なクレアの来訪のため何かあったのか心配していたのだ。顔つきに似合わず優しくクレアに尋ねながらクレアの横に座っていた男の顔を見て声を荒げる。
「い、いや、違う。あの少年は死んだのだ。ただそっくりなだけだ。少年よ、名をなんという?」
自分でも驚くほど動揺していたベルモンドは目の前に座る娘の婚約者であり命の恩人だった少年とそっくりな少年の名を尋ねる。
「アルト・ヴァリアントです。サーシャに会うために生き返りましたッ」
「馬鹿をいうなッ。あの少年の名を語るというなら儂は貴様をここで斬り捨てる」
「お、おいクレアちゃん?」
「お、お待ちくださいベルモンド卿。ここにいるのは間違いなくアルト・ヴァリアントです」
「クレア君まで・・・この少年に騙されているのだな。娘の婚約者の名を語るだけではたらず、娘の友人まで騙すなど許さん」
そういってベルモンドは客間に飾られていた剣を手に取りアルトへ振り下ろす。
「なっ」
「ちっとは話聞けよ。俺は本物のアルトだ」
ベルモンドの振り下ろした剣により真っ二つになると思われたが、剣はアルトへ届かなかった。何故なら、氷の剣がベルモンドの剣を受け止めていたからだ。
「な、なかなかやるではないか。だが、これはどうだッ」
それから何度も剣をアルトへ振り下ろすベルモンド。その攻撃を全て受け止めるアルト。
二人の戦いを隣で見ていたクレアは止めようにも武器が無く入れない。完全に困っていた。
そんなクレアを救ったのはベルメル邸のメイド長であり二十年以上仕えている使用人だった。
メイド長に説教を受けたベルモンドは完全に意気消沈しており子供のようだ。
「旦那様が失礼しました。アルト様」
「助かった。でも、あなたは俺のことアルトだってわかるんだな」
「私は少々特殊な目を持っております。あなたの魔力はアルト様の魔力と一致しております」
目を細めるメイド長は最後に「少し変な魔力も混ざっていますが」と付け加える。
その後、なんとかベルモンドと話すことのできたアルトとクレアであった。
「そんなことがッ」
アルトとクレアはベルモンドに一通り経緯を説明する。話をしているうちにベルモンドはようやくアルト
が本物だということを認めてくれた。
「色々といいたいことはあるが、まずは・・・すまなかった。アルト君がいてくれなければ娘は死んでいたかもしれない。話を聞くと魔王自体、悪い子ではないように見える。それどころか古代兵器の破壊に協力的だということも理解できた。しかし、儂にとっては魔王は憎い」
ベルモンドはアルトへ謝罪すると今度は魔王への怒りを話す。
『憎いのもしかたないだろう。妾はそれだけのことをしたのだ。憎まれて当然』
するとローズが勝手にアルトの横へ現れる。
「き、貴様がッ。い、いや、今は抑えなければ」
『ベルモンドとかいったな。妾は貴様の娘の体を乗っ取ろうとした。完全なる私情でだ。
反省はしておらぬが、悪いと思っている』
ローズの言葉をベルモンドは何もいわずに聞いている。
『妾が貴様の娘の体を乗っ取ろうとしたとき、娘の記憶を見た』
「そうか、それがどうした?」
テーブルの下で震える拳を隠しながらベルモンドはそういった。
『すまない』
「ッ、き、貴様ッそれだけで済むと思っているのかッ」
ローズのたったひとことの謝罪はベルモンドには届かない。
「べ、ベルモンド卿。ローズ戻れッ」
『断る。これはしっかりと話さなければならない』
再び斬りかかる勢いのベルモンドを見てアルトはローズを霊体にさせようとする。しかし、ローズは断り、その場にとどまる。
『許されるとは思っていない。娘と話をさせてもらえないか』
ローズが頭を下げた。ローズが頭を下げるのはほとんどないのだ。つまり、これはローズの心の底からの謝罪ということになる。
「勝手にしろ。ただし、娘に何かしてみろ。わしは貴様を切り刻むからな」
『あぁ、切り刻むのはできないがな。肝に銘じておく』
「ようやく、ようやくここまで来た」
とある一室の扉の前に立つアルトはそう呟く。アルトが今、胸に秘めている想いを考えるとあまりにも想うことが多すぎてそれだけしか呟けなかったのだろう。
静かに、アルトはノックをする。
「なに?」
扉の奥から聞こえてきた声はアルトの知る声より遥かに大人っぽくなっていたが間違いなくサーシャの声だった。
その声を聞いた瞬間、アルトは扉が吹っ飛ぶのではないか?と思うほどの勢いで扉を開ける。
「久しぶりサーシャ」
そういいながらアルトの見る方向にいたのはベッドに腰を掛け、壊れた(枯れた)花のブローチを眺める美しい令嬢。サーシャだった。




