表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サラダマーメイド  作者: 堀田みこどん
11/15

第11話:重なる二人の分岐点

 松本譲は、美術部の顧問の教師に呼び出されて、職員室に来た。


 多くの教師で雑然としている職員室の中、松本は顧問の教師を見つけ席に近づいた。

 顧問の教師も、松本に気づき、手を上げた。

 「呼び出して悪かったな。」

 

 顧問の教師は、何か手に持ち、立ち上がり、松本に近づいた。

 「ちょっと、ここじゃ騒がしいから、応接借りよう。」

 顧問の教師は、別の教師に声をかけた後、松本を応接室へと連れて行った。


 「で、先生、なんですか。」

 「実はな。もちろん美術部の話なんだけど。」

 顧問の教師はそう言うと、手に持ってた物を、松本の前に差し出した。


 「市の、コンテスト。ですか。」

 「毎年してる市の美術コンテスト。これに、今描いてる油絵、出してみない?」

 松本は、不思議そうな顔をして、顧問の教師を見た。


 「これ、申込み締め切り、終わってますよね?」

 「それがな・・・」

 顧問教師は、椅子の背もたれに寄りかかって腕を組んだ。


 「水彩とか、写真とかは、点数があるらしいが、油絵が少ないんだそうだ。」

 「油絵、少ないんですか。」

 「そこで、このコンテストしてる、先生の先輩がな、今でもいいから応募してくれんか、って言われたんだ。」


 松本は、手で口元を押さえた。

 「そこで、僕が、ってことですね。」

 「そう、ここは、先生を助けてくれると思って、出してくれないか。」


 顧問の教師は、口角を釣り上げ、手で拝むような仕草をした。

 「いつまでなんですか?」

 「コンテストが、来月の月初めの土日にあって、選定が金曜日に行うらしい。だから木曜日に持ち込めばいいと言うことだ。」

 

 「つまり、あと、1週間ちょいで、仕上げればいいんですね?」

 「そういう事だ。」

 松本は、猫背気味に、体を縮めた。


 「わかりました。僕も、今の自分の絵が、どんな評価されるか知りたかったので。」

 「いやぁ!!ありがとう!!松本!!やってくれると思ってたんだよ!!」

 顧問の教師は立ち上がり、松本の肩を上から強く叩いた。


 「先生、出来たら先生に言えばいいですね?」

 「そうそう。で、木曜日に、俺の車でもっていくから、心配しなくていいぞ。」

 「発送じゃないんですね。」


 「イレギュラーだからな。窓口で、その先生の先輩に連絡して、仲を継いでもらわないといけないから、先生も一緒に行くよ。」

 「わかりました。次の木曜日までに、乾いて持っていけるようにします。」

 「松本、頼んだよ!」


 顧問の教師は、そのまま、応接室を出ていった。

 松本も立ち上がり、応接室を出ていった。


 『受賞しなくても、飾ってもらえる機会ができただけでも良いか。』

 松本は、自分の絵を、誰かに見てもらえるという気持ちで、少し、ワクワクしてきた。


<~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~>


 松本が、色を塗っている時、美術部室のドアを叩く音がした。


 絵筆を置いて、ドアを開けると、そこには、水着姿にタオルを羽織って濡れたままの市川が立っていた。

 「濡れまま、どうしたの。」

 「うん、美術部室の窓が開いていたから、ちょっと教室行くって言って、上がってきちゃった。」


 市川は、松本の頭越しにキャンバスを見た。

 「・・・花の絵?水色の、朝顔?」

 「に、見えるか。まだ、形出来てない。」


 松本は、ごまかした。

 「てか、ここ来て、大丈夫なの?他の部員にバレてるんじゃ。」

 「今、回りに人いないから、ちょっと中に入れて。」

 

 市川は、松本を押すように、美術室に入った。

 松本は押し込まれるように、市川に圧され、とりあえず、左側から回り込むように、ドアを閉めた。

 市川は、ドアのガラス窓から見えないように、しゃがみこんだ。


 松本も、市川に目線を合わすためにしゃがみこんだ。

 ちょうど、しゃがみこんだ目の前に、水着の市川の胸が迫ってしまった。

 松本は、慌てて半歩後ろに飛び退いた。


 市川は、膝を抱え込むように、お尻を床に付けないようにしゃがんでいた。

 松本は一瞬、体重に押される市川の太ももとふくらはぎ、そして膝に押される胸に目を奪われた。

 松本は、しゃがむ足が耐えられなくなり、床にあぐらをかいて座った。


 松本の顔が、市川の顔よりもずっと下になってしまったので、市川の顔を見るために見上げた。

 市川は、外の様子を警戒するために、顔をドアの方に向けていたが、誰も来ないことを改めて確認して、顔を見るために、向きを下にむけた。


 「松本くん、首つらい?」

 「いや、大丈夫。」

 「ん・・・大きくてごめんね。」

 「ん?・・・気にしてない。」


 松本にそう言われ、市川は、照れくさそうに笑った。

 「で、どうしたの。上がってきて。」

 「夏休みに言ってた、水泳の大会の事、来れそう?」


 松本は、数秒思い出すために止まった。

 

 「うん、覚えてる。来月の月初めの日曜日だったけ。」

 「ううん、土曜日。」

 「土曜日・・・」


 松本は、ふと思い出した。

 「あ、市の美術コンテストと同じ日だ。」

 「え?松本くん、応募するの?」


 市川は、体を前のめりにし、床に膝と両手をついて、顔を松本に近づけた。

 松本は、急に近づいた市川の顔に驚き、心臓が飛び跳ねた気分になった。

 「・・・急に決まって。」


 「そっか、じゃあ、来れないんだ。」

 市川は、前のめりになった体を後ろに引いた。

 「じゃあ、アレを持っていくんだね。」


 市川は、松本の描きかけの絵を指差した。

 「うん。あれを仕上げて、持っていく。」

 「そっかぁ・・・」


 市川はすっと立ち上がった。

 「ふたりとも、頑張らないとね。」

 市川は、松本を見下ろしながら、にっこり笑った。


 松本は、市川を見上げながら、釣られて笑った。

 「じゃ、私、戻るね。ありがと。」

 市川は、外に他の生徒がいないことを確認して、外に出ていった。


 「市川、デカかったな・・・」

 松本の心臓が、全然収まる気配がなかった。


<~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~>


 松本は、荒描きに色を重ねていった。

 陰影や艶を付けて、より立体的に見せようと考えていた。


 コンテストで度肝を抜いてやりたかった。


 顧問の教師との話で、俄然、松本の心に火が点いた。

 可能な限り、鮮明なイメージをキャンバスに再現しようと考えた。

 陰影をつけるために、様々な濃淡の色を、パレットに作った。


 松本にとって、市川が部室に上がってきたことは想定外だった。

 次は、飛び込んだ時の足を描いていることがバレると、一瞬焦った。

 ただ、ドアの位置から、水色の朝顔のような花に見えたと答えた。


 松本は、安心した。

 多分、見る人を、一瞬立ち止まらせれると確信した。

 とりあえず、インパクトを与えれれば、満足だと考えた。


 そして、松本は、意図せずに、市川の足の艶を目の前で見ることになった。

 どぎまぎして、見たけど、目に焼き付いて離れないくらい、意識的に見ていた。

 もしかしたら、バレるかも、そんな想いを抱えながら、市川と話していた。


 松本は、あの至近距離で、市川の水着姿を目にするとは思わなかった。

 明らかに、あの絵で描いた体と違うものだった。

 松本は、あの絵を白で塗りつぶして正解だったと、確信した。


 今度は間違いなく、太ももに、ふくらはぎに、足首に、足の甲に、足の指に、力強さと扇情される艶を乗せられる。

 松本のテンションは、ますます上がった。


 少し塗っては離れ、少し塗っては離れ、と何回も繰り返した。

 松本のイメージに合うように、水しぶきも、足も、何度も加筆されていった。

 次第に、一色で塗りきられていた荒描きの絵が、だんだんと、質感と光沢が色で浮き上がってきた。


 松本は、筆を置いて、絵に向かって手を伸ばした。

 まだ、絵の具が乾いていないため、触れなかった。

 指先を見つめた位置と、その先の水しぶきの『先端』、そこから左右に広がる『奥行き』を確認した。


 そして、その水しぶきに囲われるように、すっと伸びた二本の両足が、触れれば凹むような質感で収まっていた。

 

 「よし、絶対に、コンテストに間に合う。」


 松本は確信した。

 今まで描いた絵の中で、一番、自分のイメージが投影できた絵になりそうだった。

 これで完成して、スマホで撮りたかった。


 でも、なにか物足りなさを感じた。

 あと一歩、なにか届いてない感じだった。


 松本は絵をドア側に向け、キャンバス側を頭にむけ寝転がり、いつもとは逆さまに絵を見上げた。

 水しぶきから、足が抜け降りてくるような構図に見えた。


 だが、どうしても、この違和感の原因がわからないでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ