素晴らしい演技
「ミヤ…ありがとう…」
涙を拭わずにジュンはミヤの首に金のメダルを掛けた。
「じゃあ…私…」「ええ…星間学生杯…優勝…連覇よ!」
ミヤはビックリしてみんなの顔を見回す…
「じゃ、じゃあ…表彰式は…?」
ジュンはみんなに申し訳無さそうに俯きながら答えた。「表彰式は…中止になったわ…」
「えっ?じゃあ…リカさんとミキさんは…」
不思議そうに尋ねるミヤにジュンはリカを見つめながら「実は…倒れたあなたをここまで運んでくれたのはリカさんとミキさんよ…」
「ええっ…」ミヤは目を丸くして二人を見つめた。困ったような笑顔を浮かべるリカと照れてソッポを向くミキ…
「何だか私…一生懸命スケートに打ち込んでいた気になってました…ミヤさんはもっともっとスケートを愛して青春を捧げていたんだなぁって…そう思ったら知らないうちに飛び出していました…」
「あ、あたしは別に人の事に首を突っ込むつもりは無いんだけど、三位の選手だけで表彰式って…なんかダメじゃない?それに横の人を見上げる表彰式なんて私には何の意味もないわ…次は一番高い所で表彰式をしたいわ…
その時はあなた達に横を飾ってもらうわ!よろしくね…」
ジュンが続けた…「リカさんとミキさんがあなたを医務室へ連れて行く時、あなたは知らないでしょうけど会場中がスタンディングオベーションで三人を送り出してくれたの…
その後、大会委員長からその拍手を表彰式の代わりにしますってアナウンスがあったわ…
誰も文句を言う人はいなかった…あなた達は
みんなに認められる演技をしたのよ…」
「…でもコーチ…正直言って今回は優勝だと
言われても納得行きません。だってリカさんのあの前人未到のアクセルジャンプ…悔しいですが技術的には彼女は遥かに私を超えています…彼女こそが…」
「それは違うわ…」ミヤの言葉を遮ったのはミドリだった…ミドリはリカと顔を見合わせて微笑んだ。そしてミヤの方に向き直った。
「私はフィギュアスケートに魅せられたのは
演技に対して成長も責任も楽しさも苦しみも全ては自分自身にあるという事…
確かに才能は人それぞれ差があるでしょう…
でもね…ミヤさん…あなたが優勝したのは
あなたがフィギュアに捧げてきた青春を全て出し切ったから…
フィギュアスケートは演技なのよ…!人間の熱い血が通ったものなの…私…リカさんの清々しい表情を見て思ったの…
私もリカさんもここにいるみんなも…あなたの演技を見た全ての人が心から拍手を送ったわ…それに…あなたの演技に特に脱帽した人がいるわよ!ね…!ダイスケ君?」
「なっ…?」「えっ…?」
「あらあら…ダイスケ君もミヤさんもそんなに赤くならないでいいわよ…うふふ…」
急に振られた僕は驚いて焦ってしまったが、
ミヤさんの方に向き直った。
「素晴らしかったです。僕はリカやミキの演技を少しでも後押し出来たら良いと思っていましたが…やはり装飾はホンモノの美しさには敵わないという事を思い知らされました…」
ミヤはダイスケの言葉を聞いて突然両手で顔を覆って泣き始めた…
「ありがとうございます…でも…今の私には
もう何も残っていない…ジュンコーチも勇退されるし…二度はコーディネート無しだなんていう作戦もみんなに受け入れてもらえない…私はこれからどうして良いのか…うううう…」
ジュンとミドリはお互いの顔を見て…そして笑いだした…
ミキは二人に対して少し怒った様子で「ちょっと!コーチ…それは無いんじゃない?彼女は真剣なのよ!」
ミドリは一生懸命笑いを堪えてバツの悪そうな表情で「ああ…ゴメンなさい…」とみんなに謝った。
「大丈夫…ミヤ…大丈夫よ…」
ジュンはミヤを抱きしめて呟いた。




