信頼
会場の歓声に押されるようにキスクラではミドリと一緒にリカがモニターを見つめていた…
モニターに映し出された得点は…152.00…!
合計得点は239.56であった…
ミドリは目を丸くして「リカさん…見て…学生杯で歴代最高得点よ…今までの誰よりも…こんな…ううう…」ミドリの目から熱いものが流れていく…リカは少し困ったような表情を見せたが自分の事にこれ程までに喜んでくれるコーチの背中を抱きしめた…
モニターに得点が映し出されて再び会場に歓喜の渦が巻き起こる…
「な……!スゴイわ…アルタイルのスケートは異次元のレベルまで到達している…とても私達では…」
ジュンの心はその歓声に打ちのめされていた。この大会が終わった後で自分はサークルの部員達に何て声をかけたら良いのだろう?
「自分のスケートはもう時代遅れでした…ゴメンなさい…!」そう言えば良いのだろうか?
ここ何年か、少しずつ明らかに若者からフィギュアスケート離れが起きている事実…自分が指導する昔のタイプのスケートが受け入れられないのか…ジュンは自分の指導スタイルに疑問を感じていた…
その時、近くでモニターを見つめていたミヤの体から穏やかな水面のようなアクアブルーのオーラが発せられているのをジュンは感じた…「ミヤ!」彼女に向かって名前を呼ぶとミヤはジュンに向かってニッコリと笑った…
その瞳は自分を極限まで追い込んでプレッシャーによってゾーン状態に変わるあのミヤのそれではなく、いつもの…強いて言うならジュンが初めてミヤと出会った頃…ジュニアクラスで仲間と一緒に技を磨いてそれが成功した時の嬉しそうな表情…その時の瞳にソックリだった。
「そうだわ…アルタイルのスケートがどうであろうとも私が彼女達を指導したからここにいるのでは無い…私達が彼女達の才能と努力にここに連れて来てもらったんだわ…信じよう…ミヤを…彼女達、ヴェガのスケートを!」
ジュンは今、まさにリンクに出ようとしているミヤの元に駆け寄り彼女を抱きしめた…
「ミヤ…信じてるわ…私もあなたと一緒に滑らせてね…」
ミヤはジュンの心からの信頼に少し目を潤ませて彼女を抱きしめ返した。
「コーチ…今までの私を全て出し切ります…
本当にありがとうございました…」
そう言うとミヤは一切の迷いや未練を振り切るように踵を返してリンクの中に入って行った…
何度かリンクの感触を確かめた後、中央のスタート地点に向かう…
「さあ…これが今年の星間学生杯…最終滑走になります…会場の興奮冷めやらぬ中、トリを飾るのは昨年の覇者…ミヤ選手!現在SPで二位につけていますが…連覇なるか…?」
すると会場の照明が明るく真っ白となり
リンクも白く輝き始めた…
キスクラから戻ったリカとミドリはミヤの演技を見にダイスケ達の元へと戻った。
みんながミヤの演技を見つめる…
「これは…」




