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残酷な神様

四回転を成功させたミキは勢いに乗る…


力強く…速いステップシークエンスからまたミキは右足で踏み切ってそらに駆け上がる…炎を纏い身体をひねり回転しながら大空を駆ける不死鳥は更に輝きを増した…


「は、速い!以前の技術、表現力に加えて抜群の身体能力に磨きをかけた!トリプルフリップ、トリプルトゥループのコンビネーションジャンプを成功させた!」


後、一つのコンビネーションジャンプを成功させれば表彰台の一番高い所へのチケットが手に届く!ミキが手ごたえを感じたその時だった…「ああっ!」




目の前の景色がボヤけて見える…自分の身長がいつもより高くなったような足元がフワフワした感覚に襲われた…「も、もう…?早すぎる…神様…もう少しだけ私に時間を…」


彼女はみんなが水泳や感触を確かめる為のスケーティングで調整を行っている間もいつも以上に過酷なトレーニングメニューを自分に課していて疲労のピークをとうに超えていた。


「はぁ…はぁ…私にこんな素晴らしいプレゼントを渡しておいて…神様ってホント、残酷よ…」彼女は与えられた強靭な下半身を燃料切れの状態で動かしていた。


「ねえ…ちょっと彼女…おかしくない?」

「うん…なんかスピードも無くなって…

あんなに燃え盛っていた炎もまるで風前の灯のように乏しくなって…」


スタンドの観客も明らかに変わったミキの様子にザワつく…


その時だった…「頑張れ!」「ミキちゃん!頑張って!」ミキへのエールが会場を包む…

僕は溢れてくる涙を拭う事無く一緒にミキへエールを送った…


手拍子に乗っておぼつかない足取りのステップでストレートに入る…後ろを向いて地面を蹴る足にもう力は残っていなかった…





観客はミキに惜しみない拍手を送る…

その目に涙を浮かべる人も少なくない…


笑顔無く観客に手を振りミキはミドリの元に帰って来た…俯き加減の彼女をミドリはありったけの愛情をこめた抱擁で迎えた。


「はぁ…はぁ…ゴメンなさい…コーチ!」

「何言ってんのよ…胸を張りなさい!」


鳴り止まない拍手の中、身体を引きずるようにロッカールームへ向かうミキの前にカオリとマイが現れた…

ミキを真正面から見つめるカオリ…


「何よ…また元エースって言いたいの…」

「そんな事…もう言えへんわ…」

カオリは目に涙を浮かべている…


「あんたは正真正銘のエースやった。エースっていうものはずっとミヤさんのような華麗に舞ってどんなに苦しくても涼しい顔して一位を取るもんやと思ってた…でも今日のアンタの滑りを見て思った…ウチが間違ってたわ…堪忍して…」

「な、何言ってんのよ…これじゃアンタの事悪く言えないじゃない…」

「ウチ…アンタの事…応援する!そやから明日絶対に優勝して!ホンマやったらミヤさんを応援しなアカンのかもしれん…そやけどな…ウチ…ウチ…アンタの事…」カオリは溢れてくる涙を止められない…


ミキは困った表情で笑った…そして黙って両手を広げた…


幼い頃…母親に全てを委ねて胸に飛び込んだ…あの時のようにカオリはミキの胸に抱かれた…


マイも天井を見上げて必死に涙を堪えたが熱い物が頬を伝っていくのを感じていた…


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