魂の舞
「さあ…昨年の学生杯の準優勝…ミキ選手の登場です!こちらの情報では前年度の大会の後、怪我をしてしばらく休養していたそうですがブランクは埋められるのか?注目です!」星間放送の実況をネットワークで中継しているのが会場内モニターにも映し出されている…
そこには緊張も無ければ奢りもない…ただ、自分の戦場にどん底から這い上がって戻って来たミキの姿があった…
ミキはスタート地点に立った。床と照明の色が変わり、彼女は炎の中に包まれて消えてしまった…
静寂の中燃えさかる巨大な炎から飛び出した小さな炎…やがてその小さな炎は不死鳥へと姿を変える…
「ミキ…」小さい頃からお転婆で我儘で…でも人の痛みをその倍感じられる女の子…
リカが同じ道を歩んだ事でしばらく離れていた君がどんなに歯をくいしばって…どんなに心に傷を追いながらアルタイル のスケートを支えて来たのか僕は知った…
自分の足が動かなくなったらサークルの為にプライドをかなぐり捨ててリカを指導して…そして今度は自身が不死鳥のように蘇った…
この〝不死鳥伝説〟の演技は彼女だから…いや、彼女しかこの演技で観客を魅了することは出来ないかもしれない…
ミキは先日の水泳の時から上半身中心の加圧トレーニングメニューを積極的にこなしていた…
「私のボロボロだった下半身はバイオツリーシステムのおかげで生まれ変わった…でも強力過ぎる筋力を得たおかげで上半身とのバランスが悪くなっている…それとスタミナの消費が激しいわ…最後まで持たせるにはバランス良く前半から繋げないと…」
手術後の下半身は何処かから借りて来たような感覚だった…車椅子に乗ってリハビリを克服してそしてここに立っている…
今、出来うる最高のパフォーマンスを発揮する事…それだけを彼女は考えていた。
ライバル達に勝つ為には減点される事は即ちレースから脱落していく事と同じ…纏めないといけない…でも!
怖気付いた自分を見せる事はそれ以上に彼女達の頭の中から自分の存在を消すことになる…刻み付けるんだ!
理屈よりも意地で…魂で地面を思い切り蹴ってミキは宙を舞う…
一度は炎に焼かれ…その焼け跡から光輝く羽根を広げて彼女は四回転した…そして身を翻して前を向いて加速した…
美しい鳳凰の舞に観客席は静寂に包まれ、そして次に歓喜の渦が会場を包む…
「よ、四回転ルッツ!回転も十分!今大会初めての四回転ジャンプを成功させたのはミキ選手でした!」
それまで虚ろだったリカの目に映ったミキの姿がいつもの自分を取り戻させた…
「ミキさん…すごい!」
ミヤもミキの演技に釘付けになっていた…
「最初からMAXってことね…面白いわ…
でも私は負けない…あなたが強くなればなる程ね…」




