あなたがいないと
「だからね!あの子がいたのよ…ヴェガのエリジブルの…ほら…」「そ、そうなんだ…」
僕がリンクに入るとミキが凄い剣幕で僕に迫って来た…「ねぇ…ダイちゃん!あなた…あの子見なかった?」「えっ?あっ…その…み、見てないよ…あはははは…」ミキはジッと僕を見つめる…「なんか…怪しいわね…?」昔から僕はミキにいつも心を見透かされてきた存在なのでこういう時の彼女には非常に弱い…
「まあ…いいわ…どっちみちヴェガにバレた所でクアドアクセルなんかリカさんの他に誰も跳べないでしょうからね…」「その通りよ…」「コーチ…」
銀河スケート連盟…通称GSUに星間学生杯のエントリーと説明会に出かけていたミドリコーチが帰って来た。
「星間学生杯は言わばアルタイル代表のナショナルチームを順位によって選考…いえ、決めると言っても過言ではないわ…今年はリカさんとミキさんがいるから…アルタイルスクールはダントツで優勝間違い無しだわ…あとは技の精度を上げるのと怪我をしないようにすること…いいわね!ダイスケくんとノブくんは自分の練習もあるけど二人のサポートもお願いするわね…!」「はい!」
つい最近、前キャプテンからその座を受け継いだノブ…新キャプテンとして僕だけじゃなくみんなが頼りにしている。何より彼は明るくて誰からも好かれる性格である…あの女王様のようなミキでさえノブには心を開いて何でも話している。幼馴染で気心が知れた二人がチームメイトにいるのは本当に有難い事である…
ずっと手にシズカさんから預かったリカの衣装を持ちっぱなしだったのに気が付いた僕は
自分のロッカーに衣装を片付けておくために
男子ロッカールームに入ろうとドアを開けた
瞬間、誰かに抱きつかれて僕はその場に倒れた…
「いてて…」僕の上に乗っかっているリカが目に飛び込んできた。彼女は目に涙を浮かべている…
「ダイスケさん…一体どこへ行ってたんですか?私…練習の間もずっと気になっていて…ヨガのトレーニングもMAYAさんに今日はトレーニングにならないわね…って怒られました…ママの用事はすぐに終わると思っていたので心配で…」
そうだった…今日はミヤさんに付き合っていてリカに付き添ってあげられなかったな…
それならそれでちゃんと連絡を入れるべきだった…「リカ…ごめんよ…その…知り合いと会っててさ…」「何ですか?これ?」僕が倒れた拍子に持っていたリカの衣装と練習着が床に投げ出されていた…
「あっちゃー!」やってしまった。折角、シズカさんが星間学生杯の直前のサプライズにするために僕に預けた衣装をリカに…
「実はね…リカ…」僕はシズカさんの想いをリカに伝えてどうかその想いに応えてあげて欲しいと伝えた。
リカはスパンコールの衣装を抱きしめて涙を流した…「ママ…ありがとう…」
僕はリカに練習着を渡して「それまでこれを着て頑張ってね…って…リカのママは世界で一番素敵なママだね!」「はい!」
涙を浮かべたまま、リカは笑顔を見せてくれた…「今日は本当にゴメンよ…今度からはちゃんと連絡するからね…」僕がリカに頭を下げると「いいえ…私こそ…ダイスケさんにも御用がありますよね…でもいつも側にいて下さるから私はきっと頑張れるんだと思うんです。ダイスケさんがいないと私…」「リカ…」
その時、女子のロッカールームからミキが出てきた…「はいはい!ラブロマンスはそこら辺でお終い!続きは自分達の部屋でね…!
ダイちゃん…リカさんはあなたがいないと本当にメンタルに影響を及ぼしかねないからちゃんと見ててあげたほうがいいわよ…ちなみに星間学生杯の優勝は私がもらうけどね…」
ミキは自信ありげにそう言うと荷物を持ってロッカールームを後にした…
手術直後はシステムの定着を気にして車椅子を使っていたのだろう…しかし、今の彼女には怪我をしていた面影さえも無い。
ミキも間違いなくリカの星間学生杯のライバルの一人だろう…
ミヤは帰りのシャトルの中で確信していた…
「やっぱり私の目に狂いは無かった…
リカさんの完璧なスケートの動画配信をコーディネートしたのはあの人だわ…私もあんな素敵なパートナーと一緒にスケートが出来たら…」
ミヤは自分の口唇を指でなぞる…「私…やっぱりダイスケさんの事…こんな私がいるなんて…」