車椅子に乗ったエース
「…すみません。彼女を…リカをよろしくお願いします…」僕はリカをミドリコーチに任せて隣のリンクのミキの元へと歩み寄った…
「もっと腰を落としてブレードの角度を考えなさいよ…あーっ!もう…」
ミキは後輩の女子選手にだろうか?ゲキを飛ばしていた…
「ミキ…」僕は彼女の車椅子の背後に立った…彼女は僕の呼びかけに対してこちらを見る訳でもなく一言呟いた…
「何よ…笑いに来たの?」誰にでもぶっきらぼうにものを言うその態度は変わらないが、幼い頃から彼女と接してきた僕にとっては
その声はどこか寂しそうな声に聞こえた…
「僕とリカ…スケートサークルに入部する事にしたよ…これからよろしく!」
「そう…でも、私には関係の無い事よ…私は
私でやらなくちゃいけない事があるから…
どうぞ…彼女と仲良くやってよね…」
それ以上彼女は何も言わなかった…
僕はもう一度コーチとリカの所へと戻った…
コーチはリンクにリカを降ろして指導していた…「じゃあ…向こうから左足で滑ってきて
右足の爪先で踏み切ってみて…」
リカは頷いてコーチの指示に従った。
スピードに乗って彼女は右足の爪先で踏み切ってジャンプした…
彼女の笑顔が弾けて僕にはスローモーションのように二回転して着地した彼女が輝いて見えた…
ミドリはメガホンを握る手に力が入った…
「やっぱりこの子…本物だわ…サルコウもルッツも…あとは表現力…ジャンプは凄く嬉しそうに跳ぶんだけど…どこか感情の波を感じられない所があるわ…そう…まるで人形のような…喜怒哀楽を表現する演技力をつけささないと…難しいわね…」
「あの…コーチ…」呼びかけた僕の方に振り返ったコーチは「何かしら?」とビックリした様子だった…何か考え事をしていたのかな?
「とりあえず…サークルの規模が大きくなったらスクール側も対応を考えてくれるでしょうか?」「ええ…それはね。私や他のコーチも掛け合ってみようと思うわ…」
「じゃあ…僕にちょっと考えがあるんで任せて貰えませんか…?必ず部員を増やして見せますよ!」