門台停騎
長くできないか実験もしているので、読みにくかったらすみません。
♦村正
「村正殿、どうかなされたか?」
「ん?ああ、すまん、少しぼうっとしていた」
そろそろ日が沈み寒さも増してくるだろう時間。町の職人たちが自らの作品を持ち寄っては浪人に渡していた。たいして防寒もできているように見えないボロの装備から、革張りの笠に外套、細かな足運びの邪魔にならないようにと考えられた鉄歯のかんじきに刀を二振、片方には刀が抜けないように鍔と鞘とが紐で縛ってある。
「おっと、忘れるところだった。これも持ってけ」
俺は持ったままだった刀を二振渡す。数打の急造品だが、コイツが名刀でもこの浪人とっては同じことだろう。
浪人は刀を受け取り少し頭を下げると、門の前まで行き、門を開けようとしていた町人を止めると、その身丈の倍はあるはずの壁を軽々と飛び越えた。
「おいおい、魔力の使い方まで力業かよ……」
しばらくすると、多くの町人は家や作業部屋に戻っていった。とはいえ、彼らに場がないわけでは無い。彼らは戦闘のデータが必要ない装飾品などを作る職人や、彼の連れてきた骸をいれるための棺を作る職人だ。むしろ、彼に送るもののない職人は壁の内側で援護が行えるようにしている。
さて、門に近い矢間から覗いている石工が言うには、雑魚を五、六人斬って一本ダメにしたらしく、八本の刀を携えて門の前に仁王立ちしているという。
……遠くから轟音が響いてくる。本番は、これからだ。
♢
……遠くから轟音が聞こえてくる。雪崩かとも思ったが、音が大きくなるにつれて鋼の匂いが強く匂ってくるため、雪崩ではないんだろう。
左右に三振づつ、腰に二振の計八振の刀を確かめ、その轟音の主を待つ。
しばらくすると、鋼鉄の塊にまたがった人影と、多くの男たちが見えてきたが、ソリでもなく、鎖が巻いてあるわけでもないようで、何かに騎乗する利点であるはずの機動力が雪で死んでいる。周りの歩兵のほうが足が速いくらいだが、それでも鋼鉄の塊の騎手はかたくなに降りようとせず、なにか音を鳴らしているようだ。
さて、まず無いと思うが、礼儀として注意勧告はすべきだろう。
「この村、山賊、盗賊に襲われたとのこと。私はその旨を聞き門番を請け負いし無頼の者なり! 寄り付くならば、神仏、獄卒であれども斬り捨てる所存ゆえ、命惜しければ近寄らぬことを勧める!」
それでも、一行は前進を止めない。
「よろしい。ならば、その尽くを斬り捨てる。覚悟なされよ」
私の宣言を聞いたか、頭の遅々とした歩みに愛想をつかしたか、賊がこちらに駆けてきた。右斜め上段に構える狼咆から袈裟に一人殺し、刃を翻し左下段、大きく引く狼尾の構えから切り上げもう一人。切れ味が鈍ったので持っていた刀を三人目の首に突き刺し三人目から刀を奪う。錆びだらけだったので四人目の槍を半身になって躱し、その心臓に突き立てる。槍を中ほどで折り、五人目の一太刀を交差させ受け、力を削いだ後、穂先を眼球へ深く差し込み脳を破壊する。五人目ごと斬りに来た六人目の一撃を躱し、踏みつけその喉に石突を撃ち、抜き放った一振りでその首を刎ねる。これで左右と腰に二振づつ、手に一振の計七振となった。
「伝わっていないようなので再び言おう。寄らば斬る! 命惜しくば穴蔵に帰れ」
鉄塊が近づいてきた。凍える風に乗せてパラリラパラリラと楽器の音が聞こえてきていた。
「ちょっと~、なんか言われてるけどォ~?」
「ハッ、あんなのは俺様の敵じゃネーヨ」
煩い鉄塊には二人の人間が乗っているようだった。一人は髪が前方に突き出した男。サラシに見慣れない白装束を纏っている。もう一人は金髪の女だった。こちらは襟の大きな、やはり見慣れない服を着ていた。
「なるほど、見ればわかるとはこういうことか」
村正殿曰く、どちらかがトドロキで、もう片方がシトネなのだろう。何やら面妖な力を持っているらしいが、私がすることは何ら変わりない。
この町の平穏と上官殿の葬儀のため、その首、頂戴する。