勤貫日職
しばらく待つと、大柄な男がやってきた。
「貴様が、将軍家の脇差を持って来た浪人か」
ほかの町衆の様子を見るに、この男がこの町の中でも上位に位置するものであろうことがうかがえる。まぁ、隠したところで私一人ではどうしようもないことであるし、この男にあとは丸投げでもいいだろう。
「私の上官である将軍家の姫君が戦死なされた。私以外の物は同様に戦死。骸を届けるべく、数日さまよっていた。可能ならば、棺と、城への連絡を頼みたい」
「質素なものになるが、手配しよう。だか、貴様が禿鷹でないという証明はできるのか?」
禿鷹……死体漁りなんかのことを指す言葉だったか。
「証明となるものなどない。必要ならば、この場で切り捨てていただいて構わない」
明日をも知れぬ傭兵の身、それに、今はもう、動けない。
「な、おいお前! ここで寝るな、死ぬぞ!」
視界は、雪と闇に閉ざされた。
目を開く。何一つ見慣れたモノのない場所だ。近くから金属を叩く音がしているが、戦場の剣戟音とは違うようだ。外は、相変わらずの雪空で、天には分厚い雲が蓋をしている。さてはこの数日のあれは夢かと思い上体を起こすと、見覚えのある着物がかかっていた。
「起きたかよ」
声がした方を見ると、青年のような、老人のような男が鎚を肩に担いで立っていた。体は若々しく、二十歳前後といったように見えるが、気配は老人か、仙人のようであった。
「よく死ななかったもんだ。それに、まさか半日で復活とはな。なんだ、お前は不死身かなんかか?」
大槌、小槌など、道具を改めながら男は私に話しかける。
「夜に運び込まれて、昼前に起き上がれるような状態じゃないぜ、普通」
「……運び込まれた?」
「ああ、そうだ。お前は町の連中にかつがれてここに来た。俺はそこに寝させた。そしたらお前は半日で起きた。まぁ、普通じゃねぇよな。心当たりは……ん、その刀は?」
男が指さしたのは、骸の身分証明のために持っていた将軍家の太刀だった。そのことを話すと、なんでも、偉いさんは刀、鎧などに回復効果のついた魔剣を帯びることが多いのだという。
「なあ、あんたは医者か何かなのか?」
結果としては刀の効果で助かったようだが、倒れた後ここに運び込まれたようだし、それならばここは医者の家か坊主の家かだろうと思い問うた。
「いいや、俺は鍛冶屋だ」