遠潜視雪
今回の副題は父が案を出してくれました。
町を囲んでいる落ち武者たちは、しかしまぁ、部隊長位すらいない烏合の衆だが、いかんせん数が多い。私とて雑兵の一人でしかない。背中の荷があろうとなかろうと、刀三本鉈二振り身一つで町まで切り込むのは不可能だ。真っ向からなら、だが。
明日をも知れぬ傭兵稼業、死者への義理で命を賭けるのは馬鹿らしいが、私にとっては、わりといつものことだ。
勝負をかけるのは、日が沈んでからだ。
日が沈むと、ぽつりぽつりと点在する篝火の周りに数人ずつの人影が集まり出す。これが他の時期ならば松明を持って見回り出る者がいたりするものだが、この時期、雪は膝までつもり、寒さも氷点下に達する。余程生真面目なものでなければこんな状況で見回りなどしないし、そもそもそういったものは落ち武者にならず、戦場で自決するだろう。私とて、かぶっている着物が姫様用の綿の入ったものでなければあの輪の中に紛れ込むか、かまくらでも作らないと凍死することは間違いないだろう。
一度思考を整えるために大きく息を吸い込む。突き刺すような空気で眠気も雑念も吹き飛ばすと、私は町を閉ざす門に向かって駆けだした。
まず、右手に一つ目の篝火が見えてくると、その明かりの中に入らないうちに一振り目の鉈を投げつける。鉈は篝火を支える棒に当たり、篝火を崩した。周りの落ち武者たちはそちらに気を取られている。その間に横を抜けていく。もう一か所も同様に対処すると、門の前にたどり着いた。どうやら堀があったようだが、それも今は凍り付いてしまったらしい。
さて、どうしたものかと思い視点を少し下げて気が付いた。そうか、こういう時のための身分証明か。
「すまない、中に入れていただきたいのだが」
私は門から連なる塀にある矢間の正面に立ち、声をかけた。すると、
「この状態で、はいそうですかと入れるわけがないだろう。
よかった、人がいた。
「なら、私の背にあるものだけでも預かってくれ、重くてかなわん」
言いながら、脇差を矢間の中に放った。しばらくの沈黙のうち、四つほど左の矢間が開いた。
「早く入れ、外の奴らに見つかったらたまらん」
助かる。まさか、町の中だ外よりも寒いということは無いだろう。
説明が少なかったり、無かったりするのは、この話が番外編であることと、主人公視点なので、主人公が当たり前だと思っていることは表層意識に浮かんでこないためです。