死屍誄々
結局、敵兵に向かって刀を振るうことのなかった戦場に背を向け、重い荷を背負ったまま雪道を行く。これ以上雪が積もれば身動きがとりづらくなる。それに、夜になれば、翌朝には凍死体の完成だ。早く屋根と壁があるところにたどり着かなければ。
夕暮れ時、ある廃村にたどり着いた。見たところ開拓用の村だったようだが、開墾の途中で放棄されたように見える。私だけならばそのあたりの廃屋でいいのだが、荷物のことも考えるのならば米倉のほうがよいだろう。
高床式の倉を覗くと、大きな損傷は無かったようだが、入り口付近には血痕が付着しているが中には藁しかないようだった。まぁ、藁があるだけマシだろう。
荷物……上官殿の骸を置くために藁を集め、雪をはらった着物で覆い、それに骸を横たえると、日が落ちきる前に刀の点検をする。幸い、錆びついていることも、凍っていることも無かった。ここは廃村、夜に出歩くのは危険だ。つっかえ棒をして、私も眠ることにした。
目を覚ました。幸い腐臭はしない。外では雪が降っている。ここまでくるまで苦労した事を解決できる道具を探しに身一つと刀を差して廃屋をあさり、鉈を二振りと、野菜を少々頂戴してきた。その日は、野菜をかじりながら、藁で笠を三つほど作り、眠りについた。
目を覚ました。まだ腐臭はしてこないが、たしかそろそろ内臓が腐り始めてくる頃合いだろう。
昨日作った笠のうち、二つを靴に括り付けた。これで、雪にかかる体重を分散させて、動きやすくなったはずだ。一つ余ってしまったが、どこかで役立つこともあるだろう。
街道を進んでいくと、滅んだ村ばかりが点々としていた。そのすべてに血痕がこびりついていた。建物についた刀傷から、落伍した兵士たちが落ち武者となり働いたもだろう。
今、私がいる廃村には、酸化した血で黒くなった軍神の像が立っていた。私とて、修羅の国にて生きながらえるもの。どうやら、余っていた笠は、ここで主を得ることになりそうだ。
その日の日暮れ、私の目にはいい知らせとわるい知らせが同時に入ってきた。いい知らせは、私の背にある上官殿の骸を任せられそうな町が見えてきたこと。
わるい知らせは、その町が落ち武者たちに包囲されていたことだ。