マジックコイン狂想曲
シルバーハイブ亭へ常連のレイダーマが息子を伴ってやってきた。
「トゥラム、実は、今日は助言が欲しくてね」
「助言?」
店のマスターでもあるエルフのトゥラムが、ウィスキーを出しながら聞いた。
「せがれがマジックコインとか言うものに投資しろって言うんだよ。
私は魔法関係はからっきしだから、専門家の意見が聞きたいんだ」
「マジックコイン?」
レイダーマjrが目をキラキラさせながら熱っぽく語り始めた。
「これからは、魔力のない人間も魔法を使う時代。
そのために必要なのがこのマジックコインなんだ」
懐から取り出したコインをテーブルの上に置いた。
艷やかに蒼銀に光る手のひらサイズの小さなコイン。
それは確かに濃縮された魔力を放っていた。
「凄いもんだ」
「でしょ!」
通常、魔道具を使うには魔力が必要だが、魔力を濃縮し凝固させたマジックコインを使うことにより、魔力がない人間でも魔道具を使用できるようになるらしい。
まだ研究段階、これから伸びてく分野、まちがいない。絶対に儲かる!
レイダーマjrは興奮気味にまくしたてた。
「それで、更に魔力を蓄えられる改良版が出たら、今のマジックコインの価値はどうなるんだい?」
「え?」
「このコイン、常に魔力を放っている。私の見立てでは、あと半年でただのコインになってしまうね。今のままじゃ長期保存ができなし、一日ごとに資産価値が目減りしているけれど、そこらへんのことはちゃんと説明を受けたのかい?」
「え? え? でも、これから伸びていく分野、先行投資、魔道具技術を育てるって意味合いもあるって言ってたし・・・」
先程までの興奮は嘘のようにシドロモドロになるレイダーマjr
「つまりはアレか? 詐欺なのか?」
レイダーマが心配そうに息子を見やる。
「ユーメリップの花は知っているね」
「オーランズの特産品だろ」
「そう。今でこそ色とりどりの花が咲いてオーランズの観光資源となっているけれど、かつては赤い花しかなかった」
「知っとるぞ。青いユーメリップが開発され、これは儲かると球根を買い求める人々が殺到して大騒ぎ。結局、その他の色の花も開発されて価値が大暴落したんじゃ。曾祖父さんがコレに手を出して大変だったのを子供心に覚えておるわい」
「そのとき儲けたのは、どんな人か分かるかい?」
「球根を売りつけてた奴らだろ?」
なげやり気味にレイダーマjrが答えた。
「それもあるけどね、それ以上に儲けたのはユーメリップの品種改良に投資して、その販売権を得た人々だったんだよ」
「・・・」
レイダーマjrは目を白黒させた。
「きっと君に話を持ちかけてきた輩は、同じことをしているのじゃないかな」
「あっぶね。トゥラム、あんたに相談してよかった。危うく詐欺に引っかかるとこだったぜ」
「クッソ、あの野郎」
怒髪天の親子。対してトゥラムはあくまで冷静だ。
「言っておくけど、これはあくまで私個人の見解だからね。
それに勘違いしてはいけない。
魔道具の技術はこれからも伸びていくだろう。
しかし、
技術の将来性と投機の信頼度はイコールではないのだよ」