第八十三話、バッドエンドで終わらせる作り手など、いない方がまし
「お? 思ってた以上に広いな。これは当たりかな」
比較的新しめの学校施設にある、地下のインフラ用共同溝である事に間違いはなかったけれど。
勢い込んで飛び込んだ先は思ったより深くて、前世の感覚が抜けてないオレは、かつて共同溝に入ろうとして足を滑らせて落っこちた時の記憶を思い出し、ひとりで背中に氷のような冷や水を落としていたが。
色々な配管などが廊下に沿って伸びていく中、すぐに気づかされたのは。
この場所を作ってからほとんど利用することがないだろう場所にある、空気の淀みのようなものがない、と言うことであった。
鍵がかかってなかったからもしやとは思ったけれど、どうやらこの地下は、頻繁に誰かが利用している可能性を示唆していて。
ドキドキを抑えるように一息ついて。
そんな事を呟きつつ、オレは明かりのない暗闇の中。
複雑に絡む配管などに足を引っ掛けないようにして慎重に進んでいく。
本来なら明かりが必須なのだろうが、オレは既にここへ飛び降りるタイミングで能力、【博中夢幻】を発動していた。
二番目の力、『潜り抜ける電線』。
落下ダメージ等も受けない一番目、『ハッピー・プレイス』の力でも良かったんだけど。二番目の力は夢の住人になれるもの……色々とご都合主義で暗視などもお手の物で、落下の速度を緩めるのもお手の物な、もうこの力だけでいいんじゃないかなって力だったから。
お日様の下ほどではないけれど、明かりが常備してるタイプのダンジョンくらいには快適に進むことができて。
(しかし、これでここに陣取ってる人が管理者と関係なかったらどうしようか)
立ち入り禁止とは書いてなかったが、どう考えても不法侵入なのでよくよく考えれば問題行動であろう。
色々な意味でレールから逸れることがなかったのが唯一の取り柄ではあるので、そう思い始めたらすぐに気になってしまって。
オレは、2番目の能力から派生される、気配を消す、透明になっちゃう力を引き続き発動することにした。
あれだ、夢見るとよくあるでしょ、そう言うシチュエーション。
ただ、オレの場合使えることができても怖いのから逃げたり隠れたりするくらいで、一番下世話な、らしい使いかたは思えばしたことなかった。
まぁ、興奮しちゃえば目が覚めちゃうししょうがないよね、なんて自身の言い訳しつつ。
今度は別種のドキドキを胸に、先へ先へと進む。
感覚としては、入ってきた棟からは既に飛び出している頃合だろうか。
もしかしたらここの地下は、学校の建物の全てにあるのかもしれない。
たまに方向音痴になったりもするので確証はないけれど、恐らく現在頭上には何故かそれだけ離れにある、理事長室のあたりまでやってきているはずで。
そこは居住区も付随されている場所で、当然ただのいち生徒には入れない場所だ。
まさに、目をつけていた場所の最たるもので。
(うん、そうだな、ここに何もなかったとしても、理事長さんに話を……って、そうか。この場所、知っているじゃないか)
文字通りここを管理している人なのだから、この世界の管理の兼任をしていてもおかしくないわけだけど。
そう言えば理事長さんが、天使な鳥海姉妹のお母さんだったのを思い出す。
この学園に来る時に挨拶したのに、すっかり忘れていた。
この場所が、いずれ来る未来にて、この学園の理事長に就任した春恵さんが、その翼に世界を滅ぼしかねない闇色を封ぜられていた場所であることを。
「……っ、嫌なこと思い出しちゃったな、もう」
晶さんたちを含めたみんなの未来。
自分が考えたなんて言えば烏滸がましいけれど。
『彼女』と同じ年頃になればもうこの世にいない人も多くて。
春恵さんの場合は。
この先この場所で生を全うする、そんなやり切れない結果がそこにあった。
いや、そんなやさしい表現で誤魔化すのもあれだろう。
遠くない未来、この先で、春恵さんは命を落とすのだ。
しかし、それを知り得ているのならば。
今からでもそれを阻止するために動くのも遅くはないだろう。
ただ、それにより本来あるはずであった世界が破綻して、下手すればより多くの命が失われてしまうかもしれないだけで。
「本当に、なんつーか、人でなしだわ」
創造する存在の、無慈悲さ残酷さを今更ながら思い知らされてしまって。
だけど気づいてしまった以上、どうにかしなくちゃいけないのは確かで。
もう、オレがこうして介入している時点で物語は元より破綻しているのだから。
そのために暗躍してでも、『もう一人の自分』を増やす必要があるだろう。
それで、誰もが幸せになれるかどうかは分からないけれど。
そのための努力を惜しまないのが。
そんなひとでなしの、せめてもの罪滅ぼしなのかもしれなくて……。
(第84話につづく)
次回は、10月22日更新予定です。




