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第八十二話、アナザーストーリーを探し求めて、もぐらになる



かつて、もっともっと小さくて。

正に子供らしい子供だった頃は。

分からない事から始まって、きっと『彼女』に負けないくらいには、オヤジとも言葉のやり取りを交わしていたものだった。

勉強などの話し合いになると、エスカレートしてこっちがもういいよってなるくらい、オヤジの方がヒートアップしていた事を不意に思い出して。

 


今となっては、そんなオヤジの熱意すら郷愁を誘うものになっている。


一度死んだ人間が、生き返って元の場所に戻れるはずなんてないだろう。

異世界転移して新しい人生を送れているだけで、えこひいきに過ぎるというか、大概甘いのに。


甘えるなと、そんな意思表示をされているかのように、今はオヤジが出てくる夢を見る事はなくて。

 


それでもオレは、もはやオレの手から飛び出した物語をなんとはなしになぞりながら。

この世界が夢でも何でもない証拠と言ってもいい、唯一残されたオヤジのノートに、何か新しい文言が書かれていないか、確認しては更新されていないのを見て、落胆する日々が続いた。

 


『曲法』といった、不思議で超常な力はあるけれど。

オヤジ達の青春時代が今なわけで。

このままこの世界のオヤジ……セイトとして生きても、そりゃあ波乱万丈で楽しくて幸せな日々が送れることだろう。

 

だけど、オレの身に余る能力によって、そんな敷かれたレールに、何憂いなく進むこと以外の選択肢……『もう一つの物語』の可能性に気づかされてしまった。

こんな世界も含めていくつも拙くも妄想するだけあって、レールのない空に飛び出すかのような冒険を渇望してしまう自分がいる。

 


前にも述べたけれど。

その先には、望む結果が待つことはないのかもしれない。

故にオヤジは、何もアドバイスをくれることなく見守っていてくれているのかもしれない。

 

でも、望んでいる答えがないとも限らないだろう?

オレが考えた世界は、それこそ限りがあるかもしれないけれど。

きっと、そのレールの外れた先には無限の可能性が広がっているはずだから。




そんな風に自分に言い聞かせて、思い立って。

早速三輪のおじいさんからの情報である、異世界転移の力を持っているであろう、この世界ものがたり界隈の管理者のところに向かうことにしたわけだけど。

 


実の所、この世界、時代から幾十数年たった時分であるならば、オレには確かにそんないかにも神様っぽい管理者の存在のことを知ってはいた。

裏でイロイロ動く人物と見せかけて、ほぼほぼレギュラーな感じで物語に顔を出していたからだ。


しかし、ここはその過去の世界。

そんな彼も、未だ管理者としての自覚も命も与えられてはいないだろう。

恐らくもう生まれてはいるのだろうが、間違いなく晶さんたち世代と比べたら年下なのだから。


となると、三輪のおじいさんが言う管理者とは少なくともオレの知らない人物であって。

どうやら学園内のどこかにいるのは確かなようなんだけど、思った以上に広すぎて。

しかもありがちな生徒が入れない秘密の場所(その辺の設定、考えた覚えないんだけど)も多くて。

思い立ったはいいけれど、いざもう一つの世界ものがたりへ、という展開には中々なっていないのが実情であった。



結果、特に時間に追われているわけでもなかったから。

オレはじっくり腰を据えてゆっくり作戦を練りつつ刺激的な日々を過ごしながら、そのどこにいるかも誰かもわからない管理者を探すことにした。


この世界の、一番オヤジに似ているだろう17番目なオレとの別れは、そんなわけで後回しとなった。

無事に管理者が見つかって、いざ新たな異世界へ、といった時分ギリギリでいいだろうと判断したからだ。


あ、ちなみにこの世界の晶さんを含めたみんなに異世界に冒険に行くから、なんて言うつもりはないよ。

これは、なんといってもオレのわがままであるし、オレは分かたれてもオレ同士の情報は共有できるからね。





そんなわけで、夏前の中途半端な気がしなくもない、今時はそうでもないのか、信更安庭学園での初めての文化祭の準備期間に入って。

三輪ランドのアトラクションにならって、『お化け屋敷』なるものをやることになった我がクラスの忙しい準備の間隙をぬって、オレは遅々として進まない学園の未開の地を攻める冒険に勤しんでいた。



それは、文化祭まで後1週間と迫ったある日のお昼休み。

女性陣にはお昼は野郎どもと食べるからと誤魔化しつつ、男衆には最近付き合いが悪いぞ、などとグチグチ言われつつ。

今回向かったのは、職員室や保健室や学園長室。

いわゆる先生たちのスペース、その地下を目指していた。


それは、未来の出しゃばりでピカピカな管理者が、いつもはモグラのように地中深くで過ごしていたのを思い出したのもあった。

おんなじ人物ではないのは分かっているけれど、管理者が血筋などで引き継がれる可能性を考慮したのだ。


もしかしたら、同じような行動原理で、地下で日々を過ごしているのかもしれない。

幸い、比較的新しい建物である学園……その廊下には、大通りの共同溝のごとく、それなりに深い地下スペースがあることを前世の仕事の経験などもあって把握していて。


一度大雨が降って水に浸かってしまって、水抜きするのも大変だったなぁ、なんてひとりごちつつ。

オレは、周りに誰もいないのを確認すると、如何にも慣れてますなって勢いで金属の取っ手を回転させて。

さっと持ち上げると、迷うことなく地下へと降下していって……。




     (第83話につづく)







次回は、10月19日更新予定です。

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