第八話、行方の気になるマル秘厨二ノートを思い浮かべて
「せぇちゃん、だいじょうぶっ?」
「……ぅどわっ」
親父とのさいごの別れ。
テンプレな隔離された世界に飛ばされてから、あまり時間が経ってなかったらしく、ほとんど首下から見上げるような状態で親父の愛称を呼ぶ『彼女』……じゃない、よく似た少女の声が聞こえてくる。
そう呼ばれたからなのか、知らないこともない美少女の香り届くくらい至近距離で対面していたからなのか、あからさまにびくりとなって変な声まで上げてしまった。
それに対し、こんな事態を作り出した張本人である玲ちゃんが、ニヤニヤとしてやったりな笑みを浮かべている。
実の所今すぐに逃げ出したかったのに、後ろにはソファがあって、どうしようもなくオロオロしているオレの様がきっと楽しくてしょうがないんだろう。
クールで優しそうな女の人といった過去のイメージは早くも捨て置いた方が良さそうである。
「だ、大丈夫。それよりさわ……じゃなかった。頭から突っ込んでたみたいだけど平気だった?」
沢田さんと呼ぼうとして、それは玲ちゃんにも当てはまるから駄目じゃんと即座に判断。
かと言って昔からちゃん付けで呼んでいた玲ちゃんとは違い、名前を呼ぶ習慣がなかったので困ってしまった。
別人だと分かっても、そもそもが女性と触れ合った事など皆無なわけで。
混乱の極みにあったオレは、結局名前を呼ばずに逃げを打ったわけだが。
「わ、わたしはへいき。頑丈なのがとりえ……って、ごごごめんなさいっ」
オレの、これ以上このままではヤヴァイからアピールが伝わったのだろうか。
白すぎる二の腕で力こぶを作りかけたかと思ったら我に返り、慌てて離れていく。
それに、ちっとヘタレを罵るご褒美……じゃなかった、舌打ちが聞こえてきたが華麗にスルー。
話題を逸らす形で、オレは改めて挨拶をと座り直した。
「え、ええと。おじさんおばさんから聞いていると思うけど、改めまして。これからお世話になります」
そして、言葉のままに頭を下げる。
これはけじめだ。
勘違いしていた自分をリセットするための。
まぁ、オレのコンプレックスは相当なものなので、前途多難ではあるのだけど。
「……こ、こちらこそ」
「よろしくお願いします、お兄ちゃんっ!」
故に、オレはその時気付けなかった。
元々素養のあった新たなコンプレックスが、芽吹き始めている事など。
……なんて、真面目に言うことでもないんだけどさ。
それから。
変わってしまったことでぎこちなさはあったものの、引っ込み思案な晶さんと、既にフレンドリーな玲ちゃん姉妹の絶妙なバランスもあって、なんとかやり取りしながら自室として宛てがわれた部屋へと戻ってきて。
ただ今、予め送ってあった荷物整理の時間である。
あまり得意ではないそれは、オレの現状、この世界の事、通う学校の事など、いろいろ知るための時間でもある。
学園の事は玲ちゃんにもらったパンフレットである程度の予測はつくが。
問題と言うか驚きわくわくなのはこの世界と、前に自分がいた世界との違いであった。
親父が、オレの好きそうな世界だと言っていたのに、どこにも剣と魔法のファンタジー要素ねえじゃねーかと憤慨していたのだが。
ユーキや玲ちゃんが『曲法』などと口にしたように、この世界には超のつく類の能力が跋扈しているらしい。
しかも、SFよりファンタジーに近い能力のようだ。
つまりこの世界は、現代異能ファンタジーの世界なのである。
それが、詳しく分かったのは親父が残してくれていたのか、手作りの黒歴史……じゃなかった、マル秘ノートに書かれていたからだ。
そう言えばマイノートはどこに置いてきたっけ……事故の証拠品になってたらやだな、なんて思いつつ熟読したノートによると。
何度も耳にした『曲法』なる芸術の才能をもとにした力は、元の世界以上に頻繁に天変地異が発生し、人間以外の意志ある敵対存在まで現れるようになったこの世界に対し、人間が生き残るために生み出した進化の証、との事で。
芸術の才能に長けるほ強力な力を持ち、人の想像できる事ならどんなものでも発現する可能性があると言われるくらい種類があるそうだが、テンプレな異世界トリッパーなオレは、何やらチートな能力を持っているようだ。
『博中夢幻』なんて呼ばれるそれは、この世界に暮らす能力者のうち、3パーセント程しかいないと言われるAAAの能力らしい。
Gから始まってA、AAときて、トップに来るのがAAAで、Aの数が増えるほどその能力の及ぼす効果の数が増える、とのこと。
つまりオレは、一つの能力で効果の異なる三つの力が使える、と言う事になる。
一つ目は、その名も『ハッピープレイス』。
自分のイメージした『部屋(異世と言うらしい)』を作り出す『フィールド』と呼ばれるタイプの力で。
オレの感覚からすると、お手製のおばけやしきみたいなものを作り出す事ができるらしい。
ただ、範囲が決まっていたり、作るのに結構時間がかかったり、相手の能力の方が強かったり、幻を打ち破る能力だったりすると、効果がない、なんて弱点があったりする。
二つ目は、『摺り抜ける電線』。
タイプは基本なものには属さない、という意味の『レアロ』。
一言で言えば夢の住人になれる効果がある。
オレの場合夢ってやつが、だいたい電線をすり抜けて街中……空を飛ぶか、車の運転をしているかなので、そのどちらかな感じなんだろう。
自分でそんな事は出来ないと思えば何もできないのが難点か。
これはちょっと怖いけど、試してみる必要がありそうだ。
学園とかで、そう言う修練場みたいのがあればいいんだけど。
そして、三つ目は『ドッペル・ヒィロ』。
一度に二人まで、自分の分身を作れる能力で。
分身した自分は、やっぱり夢の住人のように動けるが、本体が分身のコントロールで動けないといった使い勝手の悪さがあったりするが、これも珍しい『レアロ』タイプに属されるようだ。
ノートを見て判断している部分も多いので、話半分程度に受け取っているが、兎にも角にもオレの持つ『博中夢幻』って能力は、大分レアでやばい能力らしい。
どれくらい珍しいかというと、普段はB程度の能力者になりすまし、能力を制限しなくちゃいけないと、ノートに書いてあったくらいで。
そもそもオレが沢田家にいるのは、引き取るとか家族になるっていうのは、結構表向きな建前で。
能力者をまとめる、派閥の長である喜美照さんの、娘さん達を守る任務を、『青空の家』から任されているからに他ならない。
『青空の家』も、身寄りのない者達の暮らす家であることは確かなのだが。
特殊な訓練を受け、特殊な任務を受ける集団と言ってもいいだろう。
となると、ユーキはその集団における同僚と言う事なのだろう。
ユーキも何らかの力を持ち、守る対象がいて、オレ達と同じ能力者の卵を育てる学園に通う事になるのだ。
かつてのオレの学校生活と言えば、習い事や部活ばかりで。
得に女の子との触れ合いは皆無なのは前にも述べた通りだったが。
実際に能力がどんなものなのか確認したい、と言うのもあるが。
今度こそ、甘酸っぱい青春などと言えそうな学園生活を送りたいものである……。
(第9話につづく)