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第七話、洒落にならないフラグが立っていない事を真に願う




「……それで? 俺は何をすればいいわけ?」


本題。

今際の際の事を思えば、『彼女』を理解してほしいとか好きになって欲しいとか、そんな所だろう。

別に、嫌いなわけじゃないし理解も他人よりはしてるだろうと言う自負もある。

故に、そう聞いておきながら何かを期待していたわけでもなかったのだが。


 

「何、好きに生きればいい。ゼロ歳からやり直すのは面倒だろうから、17歳からにしてやったぞ。更にサービスでお前の好みに合わせておいた」



喜べ、とばかりになんとなくドヤ顔を向けてくる親父。

普段見る事のない姿のはずなのに、思ったより違和感なかったのは、酔った時の親父に近いからなんだろう。


だが待って欲しい。

言うに事欠いてオレの好みだと?

 

 

「いやいやいやっ。あれはどうみたって親父の好みだろ。……そこまでまっすぐに母さんが好きだってのは凄い事だと思うけど」

 

まぁ確かに、若い頃の姿を見れば、戻りたいと思う気持ちは分からなくもない……なんて思っていると。

それこそ酔っ払いが人を馬鹿にしてるが如き笑みを見せて。



「いやぁ、俺はファンタジーな世界観の事を言いたかったんだけどねぇ? 愛されてるねぇ、母さんも」

「なぁっ……」


騙され……いや、嵌められたっ。

無意識のうちに出てしまったコンプレックスに、頭を抱えて悶える事しかできない。

そんなオレが、余程に痛快だったんだろう。

ひとしきり笑い倒した後、いつもの仏頂面で付け加える。

 


「言っておくが、どんなに似ていようがそれは別人だからな。本物はこちらで生きている。間違ってもコンプレックスをこじらせて襲いかかったりしないように」

「だっ、誰がするかそんな事っ」


オレは、さも心外だとばかりに否定してみせたけど、そんな親父の言葉に、目からウロコが落ちる思いだった。


もしそれに気づかせてくれなかったら、積年の恨みを、とばかりにこっちの彼女に辛くあたっていたかもしれない。

今までオレが受けてきた精神的圧迫は、決して彼女からもたらされたものではないのに関わらず。


……まぁ、ヘタレなもので実際に行動に起こしていたかは疑問だが、態度に出るだろう事は間違いなかっただろう。

 



「でだ。ここからが本題なんだが」

 

ひどく面倒くさそうに、だけどオレの尊敬する相貌に変わる親父。

真っ向からそれを受け、少したじろいでいると、親父はオレが見て見ぬ振りをしていた事を口にした。

 

 

「このままの方が静かでいいんだけどな。お前がこちらに来ている事、母さんに話そうと思うんだ」

「あ……うん。信じるとは思えないけど。むしろ滅茶苦茶怒られそうじゃない?」


何せ、コテコテの現実主義者で、非常識大嫌いなのだから。

激高するのが目に浮かぶようだったけど。



「怒る気力が湧いてくるだけましだな。確かに面倒臭くてしんどいが、なんとかするさ」

「……ごめん」


苦労をかける事よりも、一足先に逃げ出してしまった自分に。

咄嗟に頭を下げると、それこそ親父はそんなオレを笑い飛ばしてみせて。

 


「何、心配するな。そっちに乗り込む事だけは阻止してやるから」

「わ、笑えねぇ……」


フラグが立ったみたいで嫌すぎるんですけど。

……でもそのおかげで、暗い気持ちも少し晴れて。


 

「さて。言いたい事も言えたしひとまずはこんな所かな。新しい世界、まずは自分で学びつつ、頑張って生きてみろ」

「ああ、一旦教え出したら長くなるもんなぁ」

 


勉強とか教えてもらうと、いつもそうだったっけ。

必要なことだけでいいのに、気づけば勉強を独り占めされている感じ。

それをしないってことは、もうあまり時間がないんだろう。

 


「じゃ、またな」

「……うん」


『また』はすぐにやってくるのか。

それとも来世って意味なのか。



何ともふわっとした別れの挨拶をして、それからすぐの事だった。


視界がぼやけ、お約束の夢のような現実へと帰る瞬間がやってきたのは……。




    (第8話につづく)







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