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第六話、テンションのおかしいオヤジ様といきなり裏話



それは、確かに聞き覚えのある声だった。

まぁ、生まれてからずっと耳にしていた声だ。

今更間違えるはずもない。

 


―――小さい頃は守護霊交代したんじゃないかってくらい物静かで大人しくて引っ込み思案だった。


耳にタコができるくらいに、『昔の私』について聞かされていたから。

自身の知るものと勢いから声の高さまで違っていても。

あぁ、よくよく知っている声だと断じることができて。

色々な意味合いをもって、増していく鼓動。



「あ、お姉ちゃんおかえり~」

 

むしろ、嬉しそうに姉を迎えに行く玲ちゃんが新鮮に映る。

オレの記憶では、クールでしっかりしていて。

誰かに甘えるタイプには見えなかったからだ。


とは言えそんな曖昧な記憶を思い返してみると。

そもそもが、年齢の差異が多少なりともあったのだろう。

実際、沢田家の姉妹は、年子でなく、結構年が離れていたはずだったし。

まぁ、同一人物だと思ってる時点でどうかしてるんだけども……。



死後の醒めない夢なのか、あるいはテンプレートな異世界トリップなのか。

多少なりとも精神の安寧のために少しくらい詳しい説明が欲しかったと内心でぼやきつつ、無意識に居住まいを正していると。


仲良しなのがよく分かる、オレの人生にとんと縁がなかったかしましい声とともに『彼女』は現れ……。



「わ、わっ。玲ちゃんおさなっ……きゃあっ!」

「うおぉぅっ!?」

 

その瞬間、いたずら仕掛け人のしてやったりの笑顔が、はっきりと目に入った。

可愛らしくもいたずらっぽい笑顔である。

きっと間違いなく、玲ちゃんが『彼女』の背中を押したのだろう。


わざわざ買い物袋を受け取ってからの犯行。確信犯である。

あまり運動神経の良くない、所謂ドジっ娘属性のある『彼女』は、成す術もなく前のめりになって頭からオレの座るソファに突っ込んできた。

 

 

勘弁してくれぇ! 避けないと!

……そう思っても身体は動かなかった。

多分、この身体がオレのじゃないから、こんな咄嗟の行動に慣れていなかったんだろう(棒読みの言い訳)。

 


「おごぅっ!?」


みちりと、不安しかない擬音が頭に響いて。

髪のいい香りと、優しく懐かしい温もりを感じながら、それを凌駕する痛みについぞ上げた事のない声あげてオレの意識はブラックアウトしていく。 


とはいえこんな、よく見るようで古臭くご都合主義な場面転換の仕方を、自身で体験する羽目になるとは。

全くもって思ってもみなかったわけだが……。





             ※      ※      ※ 


 



「おお、息子よ! 死んでしまうとは情けない!」

「ん……んんっ?」


あまり冗談に聞こえない、やっぱり聞き覚えのある……だけど違和感バリバリなそんなセリフ。

ハッとなって起き上がると、案の定そこには親父の姿があった。


ただ、格好がおかしい。

仙人か魔法使いなどが着てそうなゆったりとした灰色のローブを着ている。

眼鏡と無表情にマッチしてなくはないが、オレのイメージする親父なら、頼まれたってする事のない格好と言えるだろう。


「起きたか息子よ! まさかこんなにも早く語らう時が来ようとは! 父さんびっくりだ!」

「……え?」


更に、表情はほとんど動かないのにやけにテンション高く話しかけてくる。

最早別人の領域。


それでもこれは親父だと何故か確信してしまっている自分に混乱していると、親父はそんな事お構いなしに語りだす。



「今回、お前をここに呼んだのは、いきなり転生して困っているだろうお前のために、サポートしてやろうと思ったからだ! 感謝したまえよ」


恐らく笑顔を浮かべているつもりなのだろう。

僅かに口角が上がりニヤリとする親父を見て、ああこれは今度こそ夢みたいなものかと自分を納得させる。

 

実際、辺りを見回すと、光源もないのに明るい四方八方白一色のどこまでも続いている世界がそこにある。

……いかにも、オレの夢が作り出しそうなロケーションだった。



「転生……さっきまでのは転生? 転生って赤ん坊から始まるんじゃあ」

「こまけぇこと気にするなっ! 赤ん坊から始まっていつまでたっても成長しない物語など読み飽きたわ! お前だってそうだろう?」


オブラートに包んではいたが、確かにオレ的にも似たような事は常常思っていた。

終始テンションの高いままで、オレが取っ付きやすそうな話題から入ってきたのは。

恐らくこれからデリケートな話題になるからと、親父なりに気を使ってくれていたのかもしれない。


それに気づく位には、混乱していた心が落ち着いたところで。

親父はオレに起きた事、現状を説明してくれた。

 



何でも、仕事は出来るが無口で『彼女』の我が儘の受け皿というか、第一被害者であった彼は。

数多の世界を股にかける、所謂『超越者』なる存在らしい。 

 

普通ならそんなカミングアウトに対しどう反応するのか。

フツーでなかったオレには判断できないが。

 

物心着いたときから妙に尊敬の念があったのは、『彼女』と結婚し浮気のうの字もないといった事だけでなく、オレ自身が夢見るファンタジーな存在だったからなのかと、すぐに納得したのを覚えている。




「……つまり、親父の超常パワーによって死にかけていたオレはこの世界に転生……トリップしてきたと」

「うむ。その通りだ。さすが、理解が早くて助かるぞ」



理解が早いと言うか、この展開で導き出される答えなんてそれくらいしかないだろう。

となると、当然浮かんでくるいくつかの疑問。


「いろいろ聞きたいんだけどさ。オレ、しっかりセイトって呼ばれてるんですけど、それまでいたはずのの『中の人』はどこいったんだ?」

「ほう。いきなりそれを訊くか。何、心配しなくていい。お前を含め子供達にもしもの事があった時のために作っておいたオレの分身だ。今お前に成り代わった事で、今ちゃんとここにいるよ」


親父は少しばかり笑みを深め、胸を叩いている。

……何と言うか、それは明らかに人から外れた力ではないか。

転生憑依異世界トリップ系に出てくる神様の如き所業である。



「まさか、オレが事故るのを予期していたとでも?」


あるいは、それこそよくあるように、転生させるために殺したのか。

自分で運転ミスっておいてひどい言い草だが、ついつい確認したくなってしまったのだから仕方がない。



「予期……とは少し違うな。前世と今世のように枝分かれした近似の世界は無数にあるのだ。可能性の一つとして、準備していたに過ぎんよ」

「死んでもコンテニューできるとか、えらく優遇されてるけど、こう言うコンテニューできる人ってたくさんいるのか?」

「いや、まさか。オレ達家族だけに決まってるだろ。他人なんて知らんわ」


がはは、と顔に似合わない傲慢以外の何物でもない笑い声を上げる親父。

でも、なんて言うか、そういう特別感嫌いじゃなかった。

 

この親にしてこの息子ありって感じだな。

まぁ、転生者が無数にいる系の話もあんまり好きじゃないから、それはそれでいいんだけど……。



 

      (第7話につづく)








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