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第五十二話、そうして遂に、この夢現の世界の目玉へと足を踏み入れる



「おーい、みんなーっ! こっちにも地図があったよ!」


狭い中である意味わやくちゃなやり取りをしている間。

いつの間にやら蚊帳の外というか間を取って参加していなかった理くんから遠目の声がかかる。


どうやら今いる場所は、区画された碁盤の目のような通路になっていたらしく、どん詰まりがいくつもあってそこかしこに宝箱が点在していて。

理くんと愛敬さんが見つけた宝箱にも、地図が入っていたらしい。



今現在晶さんもつけているうさ耳ならぬオブシディちゃんのつけ耳バンドと同じように、地図にもダブりがあるのだろうか。

そう思いつつ呼ばれるがままにユーキたちとともに理くんの元へと駆けつける。




「……よくよく見ると違う地図ね。アトラクションの配置が違うみたい」


結局響さんが持ってきた地図を受け取り、新たに見つけた地図と早速見比べてみる愛敬さん。



「本当だ。配置が違うね。これってなにか意味があるのかな」

「というか、どっちが正しいんだろ。地味に分からないぞ」


空間把握能力が足りないというか、苦手なオレには地図の違いは分かっても、現状と照らし合わせるのは難しそうだった。

思わず理くんと首をひねっていると、同じように地図を覗き込んでいた晶さんが、あっと声を上げた。



「……待って。ここ、展望塔? バンジーができたりするのかな。これだけ同じ場所にない?」


厳密に言えば外周をぐるりと周るゴーカートのコースなどには変化はないのだが。

確かにアトラクション一つで考えると、晶さんの言う蝋燭の燭台のごときタワーめいたものが、微動だにしていないのが分かる。



「ほほーぅ。あきちゃんよく気づいたねぇ」


考えるべきなのは、何故それだけ変わっていないのか、なのだが。

それに気づけたのはお手柄ではあるので、オレも響さんに続き、当然のごとく褒めそやす。


「いや、凄いよ。実際お手柄だよ。オレ気づけなかったし、きっとここに行けば何かあるんじゃないかな」

「……ふふん」


最早胸すら逸らさん勢いの晶さん。

前世界の癖で何だか太鼓持ちみたいな言い方になってしまったけど、それは掛け値なしの本音である。

マジで驚いたっていうか、こういう事得意そうには見えなかったからさ。



「そうなると、うん。やっぱりあのお化け屋敷? は通らないと駄目みたいだね」

「他に道はないと言うか、通り道を塞いでいるわけだものね、仕方ないか」

「あれ? あさっち、おばけ屋敷苦手だっけ?」

「別にそんな事言ってないけれど」

「おでこに皺寄ってるよ?」

「……っ」

「でゅうっ!?」



理くんや響さんに誘導されるようにしておでこに手をやり、はっとなって顔を赤くする愛敬さん。

誘導された事に気づいたのか、すぐに響さんに食ってかかっていて。

(その長く細い手先で響さんの小さな首周りをきゅっとしていたが、理くんの方は恥ずかしいのか見ようともしないところがポイントである)

 

実際のところ言うほど皺が寄っていたわけでもないのだが。

そう指摘されてもおかしくないくたい、愛敬さんは表情も態度もどこか硬かったのは確かだった。

 

そんな愛敬さんを見ていると。

お化け屋敷的なものにトラウマめいたものが何かあって、故にどこか怯え、警戒しているからこそ、表情が硬いのだろう、なんて気はする。

 

多分それはきっと、理くんには言えない事なんだろう。

その大切な人には言えない事、ぽっと出のオレなら引き出せるだろうか。

うまく都合よく、一対一で会話できる機会があればいいんだけど。

 


晶さんや理くんとちょっとだけでも離れる方法。

そんな機会、そうそう転がってるものじゃないよなぁと。

半ば諦めかけていたオレだったけれど。

 

……存外、この夢の如き世界はオレに都合よくまわってくれるらしい。

 




「ほう。入館料は取られないみたいだけど、どうやら二手に別れないと通れない仕組みのようだぞ」


目的の展望タワーに行くためには、地図を見る限りどうしても通らなければならない場所にある、晶さんの言う所のお化け屋敷のようなもの。

それは、雨の守りオブシディちゃんの館と言う名前のようで。

 

その入口に門番のように立っている、毛量の多い黒うさぎの人型みたいなオブシディちゃんに見守られつつ中に入ると。

さながらエントランスホールのごとく広くなっているのが分かる。


対面には何やら最初に見たのと同じような看板と、ユーキの言うように、太い竹を斜めに切ったみたいな円形の柱が二本でんと置いてあって。

その切り口には、二つの手のひらの跡のようなものが明滅しているのが見えて。


二手に別れなくてはいけないだろうとすぐに分かったのは。

それらに加えて、ここに来て先客があって。

何やら相談し、じゃんけんした後、見たまんま二手に分かれ手のひらの跡に触れたかと思うと、それぞれが瞬間、霞のように消えていったからに他ならない。



どうやらここから先は、異世の中に創られた、もう一つの異世らしい。

ハイテクと言うかファンタジーと言うか、やっぱりこの世界の曲法なる力って、世のため人のために色々便利に使えるなってしみじみ思うオレである。

 


しかし実際の所この場所を使っている人たちはあくまで戦闘訓練、体験の一貫として考えているようで。


あまりそういった発想にはならないらしく。


ちょっともったいないよなぁ、なんて思わずにはいられないオレがそこにいて……。




      (第53話につづく)








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