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第五話、生まれる前から耳にする声だから、きっと好きにきまっている



それから。

やはり懐かしき居間に通されたオレは、自身に恐れ多くも宛てがわれた部屋に荷物を置かせてもらった。


そこは、前世では叔父の部屋だった場所だ。

沢田夫妻に会って話を聞くうちに薄々気づいてはいたが、どうやら若かりし親父の姿を取る今のオレは、沢田家における叔父のポジションでもあるらしい。


この世界に叔父がいないと知ると、やっぱり異世界なのかと思ったりもするが。

つまるところ家族同然であるならば、玲ちゃんの親しさも伺えるというもの、だろう。



そんなオレは、現在。

玲ちゃんや『彼女』とともにオレ自身も通う学園について、のんびりと説明を受けていた。



―――信更安庭しんこうやすにわ学園。


西の若桜わかさ、北の紅葉台もみじだいとともに、日本における『曲法』能力者育成を専門に行う特区の一つに挙げられる……。



玲ちゃんが読み上げた集めの学園紹介パンフレットの一文。

ツッコミ所満載な気がしなくもないが、そんなツッコミ所の場所さえ探せそうにないオレは、『彼女』によって鍛えられたスキルの一つ、『聞き上手』を巧みに操りつつ、根本的な所から聞いてみる事にする。




「えっとさ。玲ちゃんはそこの新入生って事でいいんだよね?」

「うん。ぴっかぴっかだねぇ。ランドセルはないけどー」

「となると玲ちゃんも曲法を使えるって事でいいの?」


中学生位に見えるってまだ中学生なんだからそらそうだと自己完結しつつ。

この世界においては恐らく常識っぽいオレにとってのありえない『曲法』についての情報。


さり気なさを装って伺ってみるも、しかし少しばかり聞き方を失敗してしまったらしい。

そろそろシーズンも終わるみかんを一つ手にした玲ちゃんは、不思議そうな……質問の意図をはかるような顔をして。



「いやいやー。使えちゃうからいかなくちゃいけないんですよ。あ~あ。中学の友達一人もいないんだもの、まいっちゃうわ~」



言葉面ほど応えてはいない様子でそう返す。

……ふむ。どうやら『曲法』とやらはこの世界の誰も彼もが使える能力ではないらしい。


この世界の実家……『青空の家』では、みんながみんな使えるようだったから、そういうものだと勘違いしていたが、玲ちゃんの話ぶりから判断するに、『曲法』が使える事が必ずしも良いこととは限らないんだろう。

もしかしたら、使える人と使えない人を分けているのかもしれない。



「なるほど。でもオレも一年生みたいなものだし、お邪魔じゃなければいろいろ教えていただけると助かります」

「あ、また敬語~」

「すいません、じゃなかった。ゴメン。ついこう、玲ちゃんを称え敬う気持ちが自然と出ちゃうんだ」


癖のようなものなのか再び可愛らしく頬を膨らませる玲ちゃんに、本質を誤魔化しつつも嘘ではないそんなセリフがついて出る。



「も、もう。わたしなんておだてたって何も出ないよ……」


基本無口な親父は勿論の事、かつての自分ですらこんな気の利いたというか、クサイ台詞など発した事もなかったはずだが。

一度死んで? 悟りでも開いたのか、驚く程スマートに言葉がスラスラと出てくる。


それに玲ちゃんがあたふたして赤くなるものだから、なんていうか大変だった。

後にも先にも年下好きなオレに、どストライクな可愛い仕草だったのである。



(いや、確かに可愛いんだけども……)


オレにしてみれば彼女は若い頃の叔母なのだ。

昔から美人だとは思っていたが、これを素直に受け入れるのもちょっと抵抗があった。


『一度死んだのだから好きに生きるぜ』思考だと、ぎゅっとして抱きしめ持ち帰ってしまいそうだったので、オレはそんな思考を振り払い、家族……妹として彼女を見る事を決意したわけだが。


妹などいたことのないオレにとってみれば。

あまり危険度(彼女にとっての)は変わらない気がしなくもなかったが。





「……ただいま」


そんな横に逸れまくりの思考は。

何の前触れもなく玄関のドアを開ける音と。


思っていた以上に小さな。

だけど心に楔打つ『彼女』の声に、吹き飛ばされる事となる……。




       (第6話につづく)







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