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第四十四話、世界ごと違うように見えるけれど、絶妙なところで理解しあえる




「……おぉっ!?」


調子に乗って開け放ったせいか、結構いい音がして両側に分かたれる物置の扉。

瞬間、当たり前に目に入ったのは、それぞれの春の装い、薄手の上着などだったわけだが。



思わずオレは、何とも言えない声を上げてしまった。

そこにいた『当の本人』は、それでも必死に縮こまって隠れているつもりだったんだろう。


木製のティッシュ入れや、各々のお風呂道具、浴衣などに埋もれ隠れているようでいて、まったくもってそのひまわり色のもふもふのまんまる体型が存在を主張しすぎている……テンジクネズミ(モルモット)と称するにはキャラクター性が強すぎる気がしなくもない、小さな小さなマスコットがそこにいた。



言わずもがな、ついさっき今日一日のハイライトとして皆に噂されていたであろう、可愛いテンジクネズミの姿をした我屋響さんである。



実を言われなくてもそう言うのが大好きなオレは。

ほとんど無意識の条件反射で、手を伸ばしもふもふを堪能せんと手のひらをわきわきさせたわけだが。

そうはさせるかとばかりにユーキが、オレを制するかのように割り込んできたではないか。



「響? お前こんなとこで何してんだ? ついさっき暴走したばっかなんだから、大人しくしてなきゃダメだろ」

 

大切な人……あるいは小さな妹を心配する兄のような、ユーキの声色。

実際に前世界でも下の兄弟がいたから別におかしくない行動ではあるんだけど。


そんな優しくも気遣い、厳しい声色は何だか新鮮で。

そのまま抱き抱え引き寄せてぎゅっとするのは、妬ましくも自然の流れと思われたが。


我屋さんは、一声ちゅうと鳴いた後、正しくも小動物なしなやかさを見せて、するりとユーキの手から逃れて物置から飛び出してゆくではないか。




「お、おいっ。ちょっと待て! 勝手に人の部屋に入り込んでおいて知らんぷりかよっ」

「ちゅ、ちゅう~」


あまりにも可愛い仕草ばかりするので失念していたが、言われてみれば確かに。

どうして我屋さんは、こんな所にいたんだろう?

ネズミ語で誤魔化している所を見るに、遊んでいたらいつの間にか、と言うわけじゃなさそうだ。



女の子の部屋に忍び込むならともかくとして。

ヤローどもの会話なんて聞き耳立てて何が面白いんだろうか。

……いや、事実現在進行形でやましい作戦会議をしていたわけだし、それを他の女子に知られるとマズイのは確かなわけで。


オレは、そのまま逃げようとする我屋さんの首根っこ後ろ……所謂親猫が子猫を運ぶ時にも使う咥えポイントにさっと手を伸ばし、ヒョイっと彼女をつまみ上げた。

何気に前世で飼育小屋から抜け出すうさぎたちを捕まえていた経験が役に立ったぞ。

 


事実、捕まえられる瞬間こそ、ちゅうっ、なんて声を上げていたけど。

そのまま流れで抱え込むと覿面に大人しく……どうやら諦めたらしい。

オレが、すごい顔をしているユーキを見ないようにして、最初の目的も忘れて思う存分もふもふしていると、ややあってそのふかふかの背中を震わせて言葉を発する我屋さん。




「きみたちの悪だくみは、しっかりボクの耳に入ってるんだからねっ。はるさんやあさっちにちくっちゃうもん!」


見た目のせいなのか、より一層幼げでマスコットっぽい我屋さんの突然の叫び。

先生にではなく、真っ先に春恵さんや恐らく愛敬さんの名前が出てくるあたり、彼女らのスクールカーストの高さをひしひしと感じるよね。

このカースト云々って話題も、前世界ではなにそれおいしいの? 状態だったから個人的にはおぉ、青春だなぁって感じだったけれど。



「そっ、それはぁっ。それだけはご勘弁をっ!」


案の定、さっきまでの勇気ある発言はどこへいってしまったのやら。

ザ・卑屈を体現しつつ、すんごく似合う手もみなんぞしてみせる剛司。



「ふうん。……つまり我屋さんと鳥海さんたちは、剛司の行動なんかお見通しだったってことなのかな」


さりげなく悪巧みをしていたのはこうちゃんだけなんだよとアピールしている理くん。


「お、おめっ、ずるいぞっ」


当然剛司も慌てふためくが、何故か我屋さんの方も、何だか慌てていて。

 


「そ、そうだよっ。きみたちの行動などおみとおしなのだっ。だまってほしいのなら、ボクたちのいうことをきかないとっ」



さも、今考えました、といった風の我屋さん。

もふもふに触れていたからなのか、そんな言葉を発した事で逆に忍び込んでいた理由が他にもあったのかと勘ぐってしまいそうになる。

 

こうちゃんの悪事を暴く以外に何かあるんだろうか。

そんな疑問と上から目線の可愛さに思わずもふもふの力も入ろうと言うもので。


 

「ぴゃうっ!?」


改めて自らの状況に気づかされたのか、何とも嗜虐心を唆るそんな声。

そのせいで我を忘れて調子に乗ろうとした所で、鬼気迫る勢いでユーキにかっさわれる。

と言うか、噛み付かん勢いだったから、思わず手を放してしまったよ。



この世界ではともかく、前世界では10年以上親友やってたからなぁ。

踏み込んではいけないラインが分かるというか、喧嘩するほど仲がいいの真逆というか。

仲がいいからこそ喧嘩などまったくしないを地でいっていたからね。

これ以上からかうのもよくないだろう。


そんなわけでお手上げ状態で我屋さんを大事そうに抱え込んだユーキを生暖かく見守っていると。

はっと我に返ったかのような表情を見せて。

 

誰に向かってかは定かではないが。

ユーキが、初めて見るような気がしなくもない、誤魔化し笑顔を浮かべているのが印象的で……。



       (第45話につづく)







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