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第四十一話、ラスボスっぽいのが好みなヒロインなのは流行りだから



「……万年さんっ」

「おお、任せとけ」


これでも前世の仕事じゃあ、時には動物の世話をするようなこともやっていたのだ。

脱走したうさぎを捕まえようとして噛まれる位の経験はあるつもりだ。




「ち゛ゅっ!?」

「おわっと」



前が見えていなかったのか。

あるいはもとよりこちらへ向かってきていたのか。

護衛として前に出ようとする慧さんを制し、仁王立ちとまではいかずとも、自慢になるかどうかは微妙である体格を生かし両手広げて立ちふさがろうとする。


そこで、前世のリバウンドと友達な体格と違って、いくら食べても太らない……やっぱり前世のオレがきーっと歯ぎしりするひょろ体格である自分に気づかされたわけだが。


取り敢えずもの凄く存在を主張している、黒いもやの立ち昇る黒い翼をむんずと掴む事で突進の勢いを殺す事ができた。



「ち゛ゅっ!?」

「わお、もふもふっ」


みぞおち辺りに感じるは、実は結構……いやかなり好きなもふもふでぬくい、ちょっと湿った感触。

思わず変な声が出る中、勢い余って掴む翼に力が入ってしまった。


といっても、春恵さんに話を訊いて、いたずらに撃退するものじゃないと分かっていたのでむしりとってやるなんて、気合が入っていたわけでもなかったんだけど……。




―――殺セッ!



触れた瞬間、聞こえてきたのは最早おなじみのそんな声。

改めてよくよく聞いてみると、これって女の子の声じゃね?


昔から女の人の年齢って分かりにくい方だったけど、声だけならティーンアイドルの歌で鍛えられていたので、若いな、とかそうじゃないとかなら、感覚でわかるようになっていたのだ。


薄々気づいていた……わけでもないんだけど、やっぱり災厄ってやつにも明確な意思みたいなものがあるのかもしれない。


しかし少なくとも、この新種ちゃん(なんかあれだから名前つけてあげたいな)は、可愛らしい(願望)女の子のようだ。



一旦そう考えてしまうと、そんな物騒めいたセリフもちょっとやんでるだけというか。

上から目線で強がっているだけというか、やむにやまれぬ理由とかあったるするんじゃないかって……そう思ったりして。




―――だが断るっ。


ならば逆にどこまでも生かし、愛してみせよう。

反射的に、心の中でついて出た言葉は。

そんな、シュールストレミングに届きそうな臭いセリフだった。


あまりにもあまりな臭さに自身で悶えてしまった。

その勢いでずるりという擬音が似合いそうな勢いで黒い翼が、テンジクネズミ……に化けた我屋さんから抜け出るのが分かる。



結果だけ見れば、むしりとってしまったも同然で。

我屋さんに、多少なりとも影響があったんだろう。

びくりとなって痛み……か何かに身悶える我屋さん。



やべ、やっちまったかと冷や汗ものだったんだけど。

抜けた翼が一度二度羽ばたいたかと思うと、ぬるぬるとオレの手のひらからその内側へと入り込んでいくではないか。




「……っ」


前世ならまぁお目にかかれないだろう摩訶不思議光景。

びっくりして声を上げかけたが、それで乗っ取られるとか痛みとか不快感とかがあったわけじゃなかったから、どうにか出そうになる声を飲み込み、それを受け入れることができた。



……こ、ころせっ。


ほら、何だか凄く戸惑っている。

しっかり受け入れるつもりでいたからなのか。

乗っ取り? の力が効かなかったからなのかは分からないけど。


初めての対応にどうしていいか分からないで、動けないでいる……

ちょっと拗ねた小さな女の子が、体の中で安定してわだかまっている感覚。


字面だけで見ると、すごく危ない感じだけれども。

オレはそれで災厄をかけらでも受け入れることが災厄を御すことなのだと。

感覚で理解してしまった。


今受け入れたものが、自分が仲良くできるかもと思ってすがろうとする(別に乗っ取りたいわけでもない)、いわゆる本体から派生した分身の一つであるということも。



(誰かまでははっきりしないか。……でもま、正体が女の子だとわかっただけでもよしとしようか)



何せ、愛をもって受け入れなくちゃならないわけだからな。

それは結構重要で、覆わず安堵のため息なんて吐いてしまうオレがそこにいて……。




     (第42話につづく)







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