表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/89

第三十九話、うさぎもこぶなもおいしい故郷への凱旋



晶さんの凄すぎる才能に、かえって不安になりつつも。

迎えた春の遠足……もとい、郊外実地体験学習当日がやってきた。


まずは学園へ集合(ほとんどの人が学園の寮暮らしなので、ちょっと意味合いが違うかもしれないが)という事で、いつものように沢田姉妹を愛車に乗せて学園へと向かう。

 



「いやぁ、でも楽しみだなぁ。何度も言うけど実地体験学習の場所、セイトお兄ちゃんの生まれ故郷だって言うんだからさ」

「決めたひと、ぐっじょぶ」

「う~む。言うほどでもないと思うけどなぁ。目玉の観光地も、この時期あるようなないようなだし」



―――N県N市。


それが、はるばる都心を離れて学園一塊で向かう実地体験の場所だ。

 

厳密に言うと、前世ではそのすぐ下の市が幼き日々からこちらに来るまで過ごした町であり、生まれはそもそも東京だったりするのだが。

ややこしくなるので、地元に対してのテンプレな言葉を吐いてみる。


桜の時期にはちょっと遅いし、何年か一度にあるお祭りの年でもないし、田舎の代名詞みたいなノリのくせに、渋滞と人ごみを見に行くようなものだとは、ふたりの夢を壊す訳にもいかず口にしない。



「そう言うのじゃないんだって。ねぇ、お姉ちゃん?」

「うん。……例えるなら、あいさつ?」


オレが生まれてきてくれてありがとう……ってか。

いやいやいや、自分で言っててむちゃくちゃ恥ずかしいよ。

オレはそんな二人のやり取りに対してこれ以上突っ込むのも野暮な気がして、オレは話題を逸らす。


 

「そうは言ってもなぁ。故郷って感じあんまりしないんだよな」


あんまり話逸れてないけど、両親(この場合オレにとってもう一組……父方のお爺ちゃんお婆ちゃんになるわけだが)は、どうやらこの世界ではもう他界しているようなのだ。


裏話的には、オレがここに来るにあたってのオヤジの分身が今の姿であるからして、親なんてそもそもいないのか……あるいは、何か面倒になったんだろうな、なんて睨んでいる。



オヤジの兄弟もいたはずなのに、その気配もないしな。

まぁ、身寄りのないものとして『青空の家』に入り、『曲法』の使い手として鍛え上げるのには、その方が都合が良かったのかもしれないけれど。

 


「そんな事言ってぇ、私達と初めて会った場所だよ。大事じゃん、けっこう」

「……あのころのせぇちゃんかわいかった。わたしもよく覚えてる」

「ああ、うん。何てコメントしたらいいのかね」



小さい頃からの知り合いであった事は聞いていたけど。

どうやらそれは、これから向かう、一応故郷のとある山に作られた公園での出会いが最初だったらしい。


今回の郊外実地体験学習の開催地の一つであるその場所は、山の頂上付近に別荘地があり、沢田家はそこに別邸があったため、避暑に来ていたとの事。



冬には寒く夏には暑い、山やごく一部を除いてはあまり避暑地には向いていない場所だと記憶してはいるが、そこでどんな出会いをし、過ごしたのか。


流石にオヤジのノートにも書いてなかったので、忘れたフリして曖昧に誤魔化す事しかできないのが辛い所だったけど。



羨ましいな、おい。

前世でも小さい頃は転校が結構多かったんだけど、大きくなっても続いている関係なんてほぼないに等しかったぞ。


しかもこんな美少女姉妹に。

晶さんの言葉じゃないけど、それこそちっちゃい頃も可愛かったんだろうなぁ。

覚えてないの、二重の意味で悔しいぜ。



「あ、そうだ。せっかくだし寄れるチャンスがあったら、別荘に寄ってみようよ。みんなで泊まれれば楽しいだろうねぇ」

「うん。そう思っていちおう鍵はもってきてる」

「さっすが、やるじゃんお姉ちゃん」


簡単に言うけど今日は麓にある合宿所で、みんなで過ごす決まりになってるんですけどね。

料理とかもしなくちゃいけないし、さらりとスマートに出るお嬢様方の我が儘発言にびっくりするわ。


それが、特に問題なく叶ってしまいそうなところがまたなんともはやって感じだけど。

それは確かにまぁ、楽しそうではあるので、それこそ野暮な事は言わない事にする。





そんなやりとりをしつつ、もれなく辿り着いた集合場所である学園。

幸いにも今日まで知り合った人達、役者は勢ぞろいといった感じで。

これはある意味最初の日常の大きな変化……絶対に何か劇的な事が起こるんだろうなぁと。

もはや確信しているオレがいて……。





             ※      ※      ※




春の遠足なんて言ったけど。

現地までの移動は新幹線やバスで、やはり社会見学の方が近いのかもしれない。


なんて思いつつ学園から三時間あまりで辿り着いたのは。

さっきも上げた山を丸々切り開いたような公園、橙杵山公園と呼ばれる場所だった。


前世ではなさそうで結構色んな所にあるらしい、『恐竜公園』なんて通称があったのだけど。

今世では恐竜の代わりに、恐竜並に大きい様々な、大昔のファミリアの模型が点在していて。

そのまんま『ファミリア公園』などと呼ばれていた。



公園には自然にできたのか、誰かが拵えたのか、天然物? な異世も点在していて。

それを使って実地体験学習を行うようだ。


まぁ、この山はあくまで合宿所のある拠点であって、少し離れたほかの観光地……もとい異世のある修練場に向かうらしいけど。

遠目から懐かしいようで目新しい模型達を見ていると、今にも動き出すんじゃないかって気がしてならなかった。



(しかし、こんなデカイ合宿所がこっちにはあるんだな。モノレールも繋がってるし、まさに夢の世界だな)



実はこの場所、地元の小学生達に呼びかけて、自由に『夢と理想』の恐竜公園を描いてもらう企画が催されたのだ。

その中で諸々良さげなものを実現するという話で、意味があるようなないような、距離の短いモノレールができていたっけ。


しかし、こちらの世界ではこの合宿所と天頂付近にある別荘地により人がたくさん集まってくるせいなのか、小型ながらもモノレールが山を一周出来るくらいには網羅されていた。


合宿所も、学園内の訓練施設と同程度のものが揃っているようで、なるほどわざわざ長い時間移動して合宿するわけだと納得してしまう。




そんなこんなで。

まずはまずは荷物をあてがわれた部屋(流石に男女それぞれ四人一組の部屋だったけど)の置き、合宿所の所長さん等の挨拶、入所式みたいなものがあった後、その日は施設に慣れるための自由行動……と相成ったわけだが。



護衛の関係上、沢田姉妹+慧さんとともに。


結局のところ完全に遠足気分で。

まずは山の中腹にある橙杵山動物園(という名の人に慣れたファミリア園)へと向かうのだった……。




       (第40話につづく)








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ