第三十八話、なまじよく知りすぎているからこそ、進化のポイントもわかっちゃう
その後、玲ちゃんだけでなく晶さんからも泊まっていけばいいのに、なんて言われて。
大分迷っていた慧さんだったけれど。
お姉さん……春恵さんとオレがどんな話をしたのか聞く事が今回家まで付いてきた理由だったらしく。
またそのうちの約束をして、オレは慧さんを送るためにと再度車を出す事になった。
なるほど、確かにそれなら特に怪しまれずに二人きりで話ができるなと感心したものだけど。
お泊りできなかった事に心底残念そうな顔をしていた慧さんを見ていると。
こうして場を設けてもらっても、納得いくことを口にできない自分が申し訳なくて仕方がなかった。
何もせず見守ってくれればいい。
簡単に言えば、春恵さんのオレ達に対する反応はそんな所で。
当然、慧さんがそれではいそうですかと頷けるわけもなく。
災厄を御するのは、戦い滅する事ではなく愛を持って接するのだと、遠回しに説明するのには随分と骨が折れた。
まぁ、お姉さんの言うほどに、天使(慧さん)が愛というものについて理解できないってわけじゃなかったのは救いだろうか。
っていうか、オレ自身が生まれてこの方しっかり理解できているとは言い難いので、オレが言うなって感じなんだけどさ。
それでも、前世のなけなしとしか言いようのない人生経験を駆使し、色んなものにたとえて話したことで何とか伝わったようで。
最終的には何があってもオレがなんとかするから、なんて自意識過剰甚だしい一言で、何とか頷いてくれたわけで、オレ自身のプレッシャーは増すばかりだったけど。
それから、前世の感覚で言うと、春の遠足、社会見学的行事とも言える郊外実地体験学習までは。
特に何か大きな事が起きるわけでもなく、平和に楽しく過ごせていたと思う。
敢えて思い出に残った事を一つ上げるとするなら。
やっぱり慧さんとの仲で、晶さんの心のどこかに火がついてしまったらしく、郊外実地体験学習の、それこそ前日までみっちり曲法についてパートリーダーになるための訓練につきあった事だろう。
―――『どんくさいお前にそんな事なんてできるわけがない』
好きだった人、気になっていた人、あるいは仲のいい友達か。結局ただのクラスメイトか。
そんな事を言われたからこそ奮起して、自分が変わるきっかけになった。
おとなしくて引っ込み思案だったのが、明るく強気になった。
それが、何度も前世において『彼女』に聞かされ続けていた、『彼女』の始まりのきっかけだ。
その間に挟むようにその頃、昔は可愛かった(祖母談)などと耳にしていたわけだけど。
オレが気づける限りでは、今の所この世界においてそんな事を言う人物が出てくる事もなく。
それでも確かに晶さんは日に日に変わっていったと思う。
性格云々ではなく、『曲法』を扱うものとしての才能が開花していったのだ。
前世と違うのは、何だかんだ言って世界そのものが違うからなのか。
もっと出番が先のはずの今世の『オレ』というイレギュラーがいたからなのか。
多分きっとそれは両方だったんだと思う。
きっかけはオレ自身の自業自得というか、些細なものだった。
晶さんが『彼女』と同じ道に進む……モンスターと化す事だけをとにかく回避したかったオレは。
前世のオレ達兄弟の血筋が、歌が好きである程度は歌える事が分かっていたのもあって、この際ドラムじゃなくてボーカルのパートリーダーを目指せばいいのではとある意味うっかり口を滑らせたのが原因だった。
元々ボーカルのリーダーというか、スタメンには、既に鉄板とも言える我屋さんがいたし、道を変えたいが故の言葉だったと思う。
それを、どこで勘違いしたのか、ドラムをやりながらのサブボーカルポジションにばっちりはまってしまったのだ。
口を滑らせたオレがびっくりするくらい、曲法の力も分散したからなのか暴走する事なく安定しだし、かつ前より強力なものになっていて。
不器用だ、だなんて前世でも今世でも自分自身に対しての評価を耳にしてはいたけど、ある意味凡人とは一線を画していたと言えるのかもしれない。
気づけば晶さんの『曲法』は、火や炎の雰囲気さえあれば(教えるオレが調子に乗ったのもあるだろうが)何でもできるんじゃないかって境地にまで達していて……。
(第39話につづく)




