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第三十五話、思えば最初からバレバレだったけど、嘘は言ってないんだから



鳥海春恵さんの『曲法』による能力、【ブラッド・ギター】。

及ぶ効果は単純明快で。

音が空気を震わし大気切り裂く波動となって、対象に襲いかかるものらしい。



流石に憂さ晴らしの折檻であるからして、必殺の威力があったとは思いたくないが。

少なくともオヤジとの訓練……異世に取り込まれた時に、無意識でも自身の能力を発動させる、なんてことを身につけていなかったら、気力をごっそり持って行かれて現実の世界でも寝込むような状況に陥っていたかもしれない。


咄嗟に発動したのは、もちろん夢の住人になる力、【摺り抜ける電線】。



繰り出す大きなビームタイプの必殺技が、夢ではあまりダメージが通らないのがお約束であると前にも述べたが、それは相手の攻撃にも適用される。


ただ、ノーダメージと言うより、相手の攻撃を受け流すといった表現の方が正しいだろうか。

受け流したダメージは、ダメージの代わりに、勢いとなってオレの体をそれはもう盛大に吹き飛ばす。



あれだな。変則格闘ゲームのイメージが夢として定着しちゃてるんだろう。

よって、オレは相手から見ると大層大げさに吹っ飛ばされて、離れていってしまうわけだが。






「……見た目ほどには堪えていないみたいね」

「うっ。バレてーら」


めちゃめちゃ吹き飛ばされてダメージ負ってるふりして、慈悲をいただいているうちに、なんて思ってたが、そうは問屋が卸さないらしい。

怖さ満載のニコニコ笑顔のまま、あっさり間合いを詰められてしまう。



……もうこうなったら諦めて、いわれなき暴力を一身に受けるのみか。

そう思いつつ恐る恐る様子を伺うと、相変わらずコワい笑顔のままでありながらも、その攻撃一辺倒な雰囲気漂うギターはどこかに消えていて。




「ちょっとばかりオハナシしようと思ってこの場を設けさせてもらったのだけど、いい加減怯えすぎじゃない? まさか本当にうちの妹まで手を……狙ってるわけじゃないんでしょう?」


オレ的には自己犠牲と本能に溢れていたはずなのに。

慧さんとのただならぬ関係を匂わせる嘘は、何だかバレてしまっているようだ。

何だかんだ言って、経験のなさ故にぼろが出ていたんだろうか。

 



「……オレを想ってくれる可愛い娘達みんなに囲まれて暮らしたい気持ちは嘘じゃないんだけどなぁ」



春恵さんを煽ると分かっていても、そんな自分にだけは嘘吐きたくないから、きっぱりはっきりそう言ってみる。



「ふーん、そう。本気なの?」

「もちのろん、ですよ」


ふざけているわけでもなかったけど、咄嗟に出てしまったそんな言葉に、春恵さんの額に青筋が浮くのが分かる。

こうなったら気が済むまでポリシーとロマンを押し通すか、なんて思っていると。

春恵さんは自分を落ち着かせるみたいに深く息を吐いて。




「本人が……慧がそれで幸せなら私が口を挟むところじゃないわね。……私は絶対許さないけど、あの娘が誰かを好きになるっ……それは、素敵な事だと思うから」


血を吐くかのような、正にそんな雰囲気で振り上げた拳を止め、妥協したような気がしなくもない春恵さん。

その真剣な様子に流石にいたたまれなくなっていると。

春恵さんはしかしそれはそれとばかりに顔を上げる。



「単刀直入に言うわ。万年くん。あなた、慧に秘密にしておいて欲しいって言われた事、あるでしょう?」

「ああ、うん。暴力に屈して今話しちゃったけど」



ここで流石に再度バレテーラとは言えない。

おそらく、妹……慧さんの隠しきれないたどたどしい態度を見て、シスコンなお姉さんは、オレとのロマンス以外の秘密に気づいてしまっているんだろう。


そんなに長い付き合いどころかまだ会ったばかりだけど、慧さんっていかにも嘘がつけなさそうな、正に天使って感じだからなぁ。

 

もうこうなったら、とことんとぼけてやるぞ。

そう思い構えていると、そのネタはもういいわよ、とばかりに言葉を続ける。




「いいわ。ここで約束を違えなさいって言ってるわけじゃないの。これは慧にも言った事だけど、私の事は私でなんとかするから、今はちょっと見守って欲しいのよ」



それは、正直判断に迷う言葉だった。

仮に春恵さん自身が災厄に憑かれ、とらわれているのならば、鵜呑みにすると大変な事になってしまうだろう。

最も、その大変な事すらよく分かっていないのだから、もっと災厄の事についてしっかり調べる必要があるわけだが。



そんな事を考えつつもオレが答えに窮していると。

それも分かっているとばかりに話は続く……。



 

      (第36話につづく)








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