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第三十一話、だんだんと赤くなる空が当たり前の世界にいるのかもしれない




「……まぁ、オレの事はいいよ。結局災厄っていうのはオレ達を狙ってるって事でいいの?」

「厳密に言えば、慧たちも含めた人間さんたちですね。この前見たのは新種なので、どんな影響を受けるか分かりませんですけど」

「おいおい、結構ただごとじゃないじゃないの。周りのみんなが知らないのって、問題あるんじゃないか?」

「……知らない、という事ではないと思いますです。特に先生方は。だって、そもそも曲法は、人間さん同士が争うものではなく、災厄に抗うためのものなのですから」



そのサポートのために自分たちがいるのだと慧さんは言うが。

それはつまり熟練の者達は、陰日向災厄に対し戦っているが、守り教えられている生徒達にはまだ秘匿されている、とのことで。



「それじゃああの校内に入ってきた黒いの、先生達に報告しなくてよかったの?」

「政智さんが綺麗さっぱりやっつけてしまいましたからね。報告のしようがないというか、新たな災厄として生まれる前に消えてしまったのならいいのですが」

「……さっそくやらかしたな」



言ってから、苦笑いの慧さんとジト目のユーキに指摘され、あっとなる。


いやぁ、だってさぁ。慧さんは結構怖がってたし、あいつ大分物騒な事言ってたしさぁ。

手加減してたわけじゃないけど、オレの能力……夢の中での攻撃って、まともに敵を倒せた試しなかったしさぁ。

……すみません。今度はもっと慎重にクールに気をつけます。




今度はオレが、一にも二にも謝り倒す事になったわけだけど。

そんな風に落ちがあって、また出るような事があったら色々気を付けようかと話がまとまりかけた所で。


オレは慧さんが新種かもしれないと言った、黒い人型の災厄の事を、同じ天使なはずの春恵さん達に隠そうとしていた事を思い出した。



その場にオレがいた事もあって、なんだかおかしな方向に誤解されてるみたいだしさ。

特に春恵さんには。


まぁ、そんなんじゃねえよ。お宅の妹さんとはなんもねえよ。

なんて、実際そうでもあまり言いたくないのが男ってやつだよね。

というより、ぶっちゃけ天使可愛いよ天使。


更に玲ちゃんが煽るから、晶さんの機嫌も悪いんだけど。

誤解だよとか言いつつ、こういうのも悪くないと思っている自分がいるから、面倒なんだけど。




「……あ、そう言えばその新種の災厄に襲われた件、結局お姉さんとかには黙ってたけど、何かあるの? ほら、一応黙っておくにもすり合わせとかさ」


かと言って何も知らずに黙ってなさいってのもきつかったので、最後の締めとばかりにそう聞いてみる。

すると慧さんは、それこそが本題であったと言わんばかりに、はっとなって。




「そうなのですっ。それを話そうと思ってたのです。あの時は黙っててもらってすみませんでした」

「ああ、オレはいいんだけどさ。黙ってた理由聞かせてもらっても?」



ぺこぺこ恐縮しているのを見るに、お姉さんを疑っているような感情はなさそうに見えて。

あの時照れていたのはなんだったのかな、なんて思いつつ。

ユーキとオレはいいのかな、と言う気持ちで問うと、慧さんは改めてオレらを見渡し語りだす。




「これも曖昧な話で、だけど慧ががっこに来るために護衛についた理由でもあるのですけど……最近、お姉ちゃんの近くで災厄の気配がつきまとっているのです。それが、あの新種なのか、それ以外のものなのかはわかりませんが、どうしてもその正体を突き止めたかったのです」

「災厄の気配ねぇ。そんなものまで分かるのかい?」



見えもせず、そんな気配など分かりようもないユーキにしてみれば、話が逸れていっている感覚もあるのだろう。

それでもしっかり相槌を打っている辺りこの世界のユーキは違うなぁ、なんて改めて思っていたわけだが。



「はい。なんとなくですが、いやな感じというか、いやなにおいがするんです」

「うーん。しかしよく考えたら、慧さんが気づいてるんだったら、お姉さんも気づいているんじゃないの?」



相対すべきものでありながら、あそこまで萎縮していたくらいだ。

天使にその気配が分かるのならば、お姉さんももう少しリアクションがあってもよさそうなものだけど。


……そう思い訊いてみると。

どこか迷い、戸惑った様子ながら、それに答えてくれる慧さん。



「あまり考えたくないのですけど、理由は二つあります。一つは、災厄がそこにあっても気づかない状況にある、ということです」


どこか理解に難い、そんな言い回し。

それを慧さんも分かっていたんだろう。

引き続き説明してくれる。



「災厄の一つに、【フェアリー・テイル】というものがあります。自然災害のような、直接的に人に影響を与えるものとちがって、これは今までなかった幻想ものが、当たり前のものとして認識されるものなのです。この災厄に侵食されれば、たとえばすぐそこにほかの災厄があったとしても、気づけなくなるのです」


ああ、言われて見ればオヤジのノートにそんなの書いてあったような気がするな。

あれって災厄のことだったのか。


確か、空がいつの間にか血のような赤になったとしても、違和感がなくなってしまうもの、だったっけか。


それだとよく分かりづらいなら、例えば慧さんみたいな天使、オレらの使う魔法のような不思議な力……幻想ファンタジーに出てくる、魔物みたいなファミリア。

それらは全て、異世界から来たオレには新鮮ごとに映るが、みんな違和感なく受け入れてるのは、つまりはそういうことなのかもしれなくて。



そう考えると、何ともスケールの大きい話だが。

それなら黙っておいて欲しいという理由になるかは微妙ではある。


言っても多分信じないだけだろう。

となると、慧さん自身も原因はそれではなく、二つ目だと思っているという事で……。




    (第32話につづく)







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