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第二十四話、擦り合せのつもりが、結局馬脚の後ろで茶を飲んだだけ




そんなこんなでその日の授業の半分が終わって昼休み。

晶さんまなみゆコンビと、初めての実践訓練の打ち上げというか、反省会という名の食事会をした後。


女の子たちで食後のおしゃべりが盛り上がっていたのをいいことに、一人抜け出して(当然声はかけたし、離れるにあたって保険はかけておいた)校内を散策していた。


目的は犯人探しといきたいところだったが、まずは一応同じ護衛という立場であり、友人兼相棒だとオレの中で自己完結している雄輝ユーキに会いに行こうと思ったからだ。




オレの故郷でいうと高校というより大学に近く、お昼の時間がずれることなどザラではあるが。

一応学年が変わってからの初回ということで、ユーキ達も今はお昼休みであるからして、すぐに捕まるだろうとは思っていたんだけど。



「やっほいー、政智くん! どうしたの、ひとりぃ?」

「お、なんだ。ついに愛想でもつかされたのか?」


開口一番、ニヤニヤと下世話な感じに畳かけてきたのは当のユーキと、よくよく見ればつかず離れずにいる我屋響がや・ひびきさんだった。

なんというか似た者同士過ぎて苦笑しか浮かばないし、なんだか逆に煽りたくなってくる光景で。



そう言えばユーキの護衛対象って我屋さんだったっけ。

沢田家と同じで能力者達が集まる派閥における、かなり偉い人を親に持つらしい。

人の事は言えないが、護衛と護衛対象の間柄にあまり見えないのは我屋さんがそう望んだから、だとか。



「いや、女の子達でわいわいやってるのに混ざるのも何だと思ってさ、抜けてきたんだ。ユーキにちょっと用があって」


君たちこそ、なんていうかすごく仲良さそうに見えるけど。

そんなからかいが頭の中に浮かんだが、それでこじれてなかったものがこじれるのも嫌だったので口にはしない。

下世話じゃない自分クールだぜ、的な?

 


……自分で考えてアホかと自分にツッコミを入れていると、ユーキは頷き我屋さんに視線を向ける。

オレとしてはてっきりちょっと外してくれ、的なアイコンタクトかと思ったんだけど。



「何かかわし方もクールだねぇ。護衛の仕事の話? そういうのっていつもどんなやりとりしてるの? おねーさん気になるわ~」


初めて会った時は元気ではつらつして見えて、みんなの中心にいるタイプだと思ったけど、こんなに気安いというか子供っぽい一面もあるんだなと感心する。

ちなみに、そんな雰囲気のせいか年上発言は大概外してたけど。



「仕事の話……って言えばそうなんだけど」


恐らくはオレを狙った、試験中のイレギュラー。

あれは先生のものではなく、だけど先生も何故か黙認しているフシがある。

そうやって勝手に決めつけて考えていると、随分とまぁ陰謀めいているような気がして。


『どうにかしてくれ』とユーキに視線送るも、『無理だ』と返されたような気がしたから。

それならばと、二人に対し自分勝手な事情聴取に切り替えることにする。




「まずは、ここの安全性を聞こうと思って。校内に不審者は入れないって聞いたけど、何か許可があれば入れたりするの?」


立ち話もなんなので、中庭のサロン(こんなこ洒落たものがあるなんて知らなかったけど、どうやら我屋さんのお気に入りの場所のひとつらしい)へ向かい、食後のお茶なんて頼みつつ早速本題に入る。



「ああ。確かに学校であるからしていろんな業者が出入りしてるよな。この前パン屋さんが入ってくるのを見たぜ」

「あ、ボクもあのパン屋さん好きだよ。ケチャップたっぷりウィンナーパンおいしいし」



話が弾みやすくてそれやすい。

二人でいると延々とそうなるんだろうなってよくわかるやり取りである。


「そういう業者は何か許可を?」

「うん。確か、つい最近だけど年度の初めに来たい業者さんが集まってちょーせー会議ってのをやるみたい。武道館とか、体育館を借りたい人にも同じ会議があるいみたいだよ。事務の先生からきいたけど」

「そう言えば無駄に入り浸ってたなぁ、事務室」

「無駄じゃないよ。先生いい人だからお菓子くれるもん」



おお、今度の『もん』は似合ってるぞ。

というか、話しているうちにますます子供っぽくなってくるのは、それが彼女の素だからなのだろうか。


なるほど面白い。

だからユーキもきっと憎からずに思っているんだろうなぁ。


心中の半分では流されたのかそんな益体のない事を考えつつも、一方で聞いた話は有意義だったと言ってもいいだろう。

少なくとも、その最近あったという会議に出れば入校が許可される、との事なのだから。



(オレが沢田家についたのを、敵対組織が知って、同じように人員を送り込んだ……なんて可能性もあるわけだ)


なんてありがちな事を考え、ベタすぎるだろ、なんて苦笑いしていた時だった。



「ところで、政智くんはなんでそんなこと、知りたいって思ったの?」


つい今までオレを置き去りに事務室のおばちゃんの話題で盛り上がっていたのに。

唐突に我屋さんがそんな事を聞いてくるものだから、咄嗟に気の利いた事も浮かばなくて。



「あ、ああ。一応護衛としては気になるだろ。そういった外部からの侵入者がいるかもしれないし」


それでもかろうじてオレを狙う奴らが校内にいるかもしれない。

なんて中二病めいた勝手な妄想を口にせずすんだわけだが。



「おぉ、そういうことかぁ。政智くん仕事熱心なんだねぇ。いるだけの雄輝とは大違いだね」

「失敬な。俺だっていつも神経尖らせて護衛してるっつの。何せ護衛対象サマが目を離すと何をしでかすか分かったモンじゃないからな」

「な、なにお~っ」

「お、怒るって事は自覚あったんだな。何しでかすか分からないって」


かと思えば、再びわいわいギャーギャーと戯れあう二人。

……凄く仲が良さそうです。

オレや晶さんたちみたいに護衛につく時が初対面じゃなかったのかな。


いい加減流すのも馬鹿らしくなってきて、生暖かく二人を紅茶をすすりつつ見守っていると。

そんなオレに気づいたのかバツが悪そうにわざとらしく咳なんか一つしてみせて、ユーキが話を戻すとばかりに口を開く。


「出入りしている業者なら心配はないと思うぜ。一応みんな非能力者だったはずだから。学園関係者でない能力者が学園に入るのには別の手続きがいるみたいだしな」

「そんな事いって、ふつーの殺し屋さんとかだったら、どうするのさー」

「いや、普通って。揚げ足取るなよ。そんなんどこだって危険だろ」

「どうするのさー。眉毛の太いスナイパーさんみたいのがいたら」

「流石にそこまで特徴的ならいいんだけどな。……まぁ、身体張らせてもらいますよ」

「だめっ。そーゆー時は逃げなさいっ」

「あん? 何言ってけつかるっ。仕事になんねーだろがいっ」



お、これはほっとくといつまでも二人の世界が続きそうだな。

別に邪魔してるわけでもないが、馬に蹴飛ばされるのも勘弁だ。

いろんな意味でヒートアップしだした二人に一言残し、オレはさりげなく席を立つ。



そして、晶さんたちのいる所に戻りつつも、おかげさまで自分勝手な妄想はひとつの答えに辿り着いていた。


二人のやりとりをまとめると、外部の侵入者の線は薄いだろう。

これはやはり内部の犯行……オレ、あるいは晶さんのことを知っている誰か、ということになりそうで。



(身内、友人でないことを祈りたいものだな……)


結果だけ見れば別に命を狙われたわけでもなし、だからどうだということもないのだが。

オレはそんな事を考えつつ、お次はどこの登場人物……出会った知り合い達に声をかけてみようか、なんて考えていて……。




     (第25話につづく)







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