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第二十二話、デッドエンドに近しいフラグは、きっと回収される



なんて、自分の能力解説してる間に。


一体どこにそんな火種があったのかと言うくらい視界が赤橙……炎のカーテンで一杯になった。


どの辺りががつぶてなんでしょうか。

誇小広告もいいところだぜ。

何か、ジェットヒーター何台にも囲まれているみたいな凄い音してるし。



そこには、当然影のファミリアが二体いたはずだけど、それこそ影のシミすら残らなかったんじゃないのかな。

敵どころか晶さんより前方のフロアが真っ黒に煤けて色が変わっちゃってるし、確かめるまでもないってやつだ。


 

「まいったな、こりゃ勝てそうにないわー」

「うう~。みゆのぶんなくなっちゃったよぅ」


スタメン争い、早くもリタイア宣言しちゃう黒姫さんに、そう言えばそのつもりだったのにごめんなさいな立花さんの呟き。


一方、それらを背に受けた晶さんはと言うと……。



「…………きゅぅ」


本当にそんな声出すのねって感心するくらい自らのしでかした事にショックを受けたのか、立ったまま気絶していた。

と言うか、そのままぐらりと倒れそうになるので、慌てて抱きとめる。



「こりゃあ、まずは手加減の練習からだな」


はたしてそれはできるのか。

個人的には無理なんじゃねって予感がひしひしとしていたけど。

とりあえず今ここで決めた事は一つだった。


―――晶さんは、当分能力の発動を禁止します。






                   


異世での気絶ってのは能力者同士のどんぱちにおいて、リタイアを指すらしい。

おぶさってでもゴールを目指そうかと思っていたのだが、いきなり点滅したかと思うと霞のように消えてしまったのだからたまらない。


異世自体正味二度目だったオレにとって、ちょっと夢に見てしまうくらいびっくりする光景で。

どこからともなく先生からの、晶さんは途中リタイアで現実に戻ってる話を聞かされていなかったら、ぶっちゃけパニックになっていてもおかしくなかった。

事前情報として、異世で命を失ったら……生きて現実に戻されるも、記憶や才能や失われる可能性がある、なんて聞かされていたから余計に。



加えて上の学年に上がったばかりの、最初の授業でのリタイアだなんて、ドラムパートのスタメンどころか学校の成績にも響くらしく。

晶さんとしてはどちらかと言えばこっちの方が痛いかもしれない。

晶さんなりに可愛らしくも悔しがっているのが目に浮かんで、早く戻ってフォローしなくちゃな、なんて思って。



身内びいき……とは言えないかもしれないけど、さんざんばら聞かされた学生の頃の『彼女』のイメージとしては、勉強の成績、運動神経ともいいとは言えないが、あなたにはできないと言われた事を意地でもできるようになる努力の人、と言ってもよかった。

晶さんも、こんな逆境をしっかり乗り越えていくんだろう。


その時オレの出来ることとしては、その際守護霊交代しちゃうような何かがあって、文字通りモンスターなペアレントにならないように見守って行く事なんだろう。

止める方法が分からないので、ひょっとしたら無理難題なのかもしれないけれど。



その辺りの事はあまり考えないようにして、さくさくと残りの階層を突破してしまう事にする。

その際、黒姫さんには、

「晶ちゃん(先輩なのに当たり前のようにちゃん付け)がいなくなったとたん人が変わったね」

などと言われ。


立花さんには、

「お兄ちゃん、ほんとあきちゃん(同上)のこと、好きなんだねぇ」

なんてしみじみ言われてしまった。



そんなオレ急いでいたと言うか、態度に出てしまったのだろうか。

気をつけなくちゃな。

あくまで晶さんには家族的情が働いているのであって、かわいい二人を受け入れる場所は残ってるよ(ゲス的思考)、なんて事は当然口にしなかったけど。



……だがしかし、そう言う時に限って異世界人的メタな発言をすれば、物語の動くフラグが立ってしまうのだろう。


これも後々気付かされたことなのだが。

ドラムパートのオレ達以外には、先生達のファミリアしかいないはずの、言わばオレ達専用の異世なのに。

ゴールとなる地上への階段を塞ぐようにして第三者……得体の知れない何者かのファミリアが現れたのだ。




「おおぉぃ、ま、まじなの?」

「……こ、こわいよお兄ちゃんっ」


冗談やからかいでなく、それを目にした途端腰が引け、今にも泣きそうな声でオレの背中にしがみつく二人。

多分、二人にも本気で泣いて逃げ出したくなるようなトラウマを思い起こさせる『誰か』に見えていたのだろう。




「フラグ立てちゃったか。嫌な予感は確かにちょっとしてましたけども……」


目に入った瞬間は、人型の影のようなものだったのに。

気づけばそこには絶対に近寄りたくないモンスター化(比喩でなく)した、怒り心頭な『彼女』がいた。



背中から支えられているせいか、逃げ出すようなことにはならなかったが。

あの状態になった『彼女』に対してオレにできることは、ただただ受け止めストレス発散役に徹し、嵐が過ぎ去るのを待つのみだった。


参ったことにその撒き散らす怒りは、周りに他人がいようともおかまいなしだ。

前門のトラ、後門のなんちゃらで変な汗かいて半笑い浮かべる事しかできない。



音もなく近づいてきて、意味もなく振り上げられる拳。

その時、オレが動けたのはキセキと言う表現が心情的に相応しかったが。


目の前にいるモンスターが本物ではないと気づくことができたのは、偶然と言うかなんというか、予め発動しておいた能力のおかげだったのだろう。



二つセカンドの力、『摺り抜ける電線』、二回目。

夢の住人になれる能力。

先には述べなかったが、立花さん、黒姫さん達の能力をなんとなく把握してみせたのも、この力のご都合主義的な能力によるもので。



夢の中で、対面する人物の人となりを把握するのは結構難しく、逆にその人が夢に出たと判断すれば、その人の知らない事まで捏造してしまうというアレだ。

オレの場合、そこまでゲーム脳ではないはずなんだが、相手の情報が瞬時に青い透明なウィンドウで表示されたりする。




振り上げられた拳にされるがままになりつつも、目に入ったそれ。

ウィンドウには、???のファミリア、あるいは能力そのものとだけ表示されている。


肝心なところが分からないのが、いかにも夢っぽくはあったが。

オレとしては目の前のものが本物でないと解っただけで十分だった。




「……はぁぁっ、【線光】っ!!」


空を飛ぶ、車を運転する、何者かから逃げる。

オレの夢は、基本その三つだ。

空の散歩をしている際に、アンノウンの、だけど強くて怖いって知っている敵に襲われて、逃げる前に一応抵抗するんだけど、今口にしたのがそのお決まりのセリフだった。

他にもなくはないが、気に入って主にこればかり使っている。



それは、掛け声とともに発動すると何か白いオーラっぽいものが出て、それに敵が触れると相手がぶっ飛ばされる。

カウンターっぽく吹っ飛ぶだけで基本倒せないが、勢い任せな体当たりから入るそれは、もう夢の中でなら無意識に発動できるといっても過言ではなく。




自分でも惚れ惚れするくらいに、トラウマを刺激しまくる目の前のそれに炸裂した。

感覚的には、懐に潜り込んでのショルダータックルだろうか。

それが、いつものように全く効かず吹っ飛ぶだけなら、その後の事を考えて脱兎のごとく逃げ出したのだろうが。

夢のようでいてそうではない現実の異世では、結果が違っていた。




ドゴゥンッ! と、爽快なほどに派手な音をたて吹っ飛んでいく所までは同じだったのに。

壁にぶつかったと思ったらトラウマモンスター、略してとらもんだったそれは、瞬間形を崩し、闇色のもや、あるいは影のようになって……見た目よろしく煙のように姿を消してしまったのだ。



後には開かれた地上への階段と、急な展開にぽかんと立ち尽くすオレ達の姿があって。




「……フッ、主のもとに逃げたか」


内心ではやばかったと、ほっと一息ついたオレは、なんだかそんなそれっぽい呟きをもらしていた。

他愛もないとかで締めたかったけど、正直偽物とわかってても目の前にしただけで悪い意味で心臓バクバクで、愛すなんて到底口にはできなくて。



ほっとして飛びついてきて離れない立花さんに、何故かポカポカと叩いてくる黒姫さんも、九死に一生を得たかのような安堵ぶりであった。


詳しく聞こうとは思わなかったけど、さっきまでいたファミリアが人のトラウマを、それぞれ別の姿をとって想起させるものだったのだと、なんとなく予想がついて。



……問題なのはそれが一体しかいなかった、というところだろう。

この初級ダンジョンのルール……ひと部屋につき人数分の敵性というルールに反していたのだ。


それは逆に考えれば、先生たちが用意したものとは関係ない、別物の可能性もあるわけで。

一体誰がけしかけたのかと言う疑問は、いったい誰に対してのものだったのかと、繋がってくる。

立花さんや黒姫さんにはそれとなく聞いてみたが、心当たりはなさそうで。

十中八九、オレを狙ったものと考えていいのかもしれない。



それはもしかしなくても、オレのここまでの来歴を知っているのではないか、なんて懸念が浮かんで。

オレはその時、決意したのだった。


なんだか洒落じゃなく、本物の『彼女』がこっちに来そうなフラグが立ちそうだったから。


一刻も早く、その下手人を見つけなければならない、と言う事を……。




      (第23話に続く)






 


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