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第二十話、異世ダンジョン、ファーストバトルはあっさりと



さて、ここで栄えある部活動、第一回に挑戦する、『異世』によって作られたダンジョンについて解説してゆこう。


この学園謹製の初級ダンジョンは、全五階層……地下五階から始まり、それぞれのフロアに班(パート兼チーム)の人数ごとに配置された罠(フィールドタイプの曲法)や、敵性(モンスター役をしてくれている先生達のファミリア)を回避、あるいは撃破しつつ地上を目指すと言うものだ。



もちろん学園の課外活動、あるいは授業であるからして時間制限はあるわけだが。

フィールドに足を踏み入れる事もファミリア達と戦う事も経験=成長となるので、ただ時間内にクリアすればいいというわけでもない。


と言うより、初回のオレ達はむしろ、時間いっぱいまで曲法と異世を体験すべきなのだろう。

準備するための(罠やモンスターがいない)部屋を出てすぐ、黒姫さんと立花さんが並べばすれ違えないくらい狭い通路を抜け、一つ目の部屋に入ると、そこには前情報通り、パートの人数と同じ四体の魔物ファミリアがいるのが分かる。

同様に、フィールドも人数分仕掛けられているのだろう。




「配分はどうする? 一体一?」


敵は黒い透けた幽霊みたいなのが二体、やっぱり影みたいな犬型のものが一体。

そして、どう見ても色付きのゴブリンとしか言いようのないやつが一体。



鉄のとげとげ……モーニングスターを構える黒姫さんはやる気上々のよう。

どうやら、この世界特有の戦いをある程度したことがあるようで。

一応こちらを伺ってはいるけど、頷いた途端飛び出していきそうな雰囲気である。


一方、立花さんは緊張した面持ちながらもナイフをいかにも慣れた様子で構えていて、こちらもやってくれそうな気配であった。


問題なのは、むしろオレや晶さんかもしれない。

オレ自身、能力をどこまで使っていいものか、なんて悩みだけど。

ただのドラムスティックにしか見えないバチを強く握り締め、ぷるぷるしている晶さんは、さっきまでの高揚はどこへやら、大丈夫なのかと心配になってしまう。


例えばこれが体験型のゲームみたいなものだと判断しても、当然のように能力を扱い敵を打ち倒す『彼女』のイメージが全くもって沸かなかったからだ。

愛敬さんたちが、晶さんにドラムパートを任せきりでいられないのは、もしかしたらこの辺りに理由があるのかもしれなくて。



「いや、大雑把にでも前衛後衛に分かれてみんなで戦おう。相手も連携する気なさそうだし」


黒い影みたいなのは、ゆらゆら前後していてあまりこちらに近づいてくる気配はないし、黒い犬は警戒して唸り声を上げるばかり。

鈍重ながらも向かってきているのは本当にゴブリンにしか見えないやつばかりで。



「黒姫さんはそのままオレと前衛、立花さんと晶さんはオレ達の後ろを警戒してくれ」

「よっし、そうこなくっちゃ」

「……りょうかいー、です」

「う、うん」


本来なら、後衛の役割はそれだけじゃないのだが、テンパってる晶さんのフレンドリーファイアがおっかないし、立花さんはしっかり能力発動しない限り、射程の短いナイフじゃ相手の攻撃を受けてしまう可能性がある。

そうなると、中距離攻撃の見込める黒姫さんとオレが必然的に前衛になるわけで。



あれ? オレってば後ろで大人しくしてるつもりだったのに、なんで命令みたいなことしてるんだっけ?

なんて思う頃にはゴブリンが黒姫さんの射程に入っていた。



「ん~、ほいっと!」


気の抜けた……あるいは緊張感ゼロな様子で振りかぶり、トゲトゲの鉄球を投げる構え。

ガシャコンと景気のいい音がして、じゃらりと鎖が伸び、まっすぐ向かってきていたゴブリンに巻き付くよりも早くトゲが直撃。



「ゲギャッ!?」


そのまま、年季の入ったこんぼうを手放し、後ろに吹っ飛んでいくゴブリンみたいなやつ。

本来なら鎖で絡め取って動きを封じてトドメだったはずなんだけど、見た目以上の威力があったのか、そのまま点滅するみたいに消えてしまう。



「いよっし、やたっ」


そのセンスも、才能も十分。

学園での、初めての実戦としては素晴らしい結果と言えるだろう。

ただその攻撃に驚いて、間髪を置かず飛びかかってきている犬型のファミリアに気づくのが遅れたようだ。

それは油断していたと言うより、生来正々堂々を好むと言うか、黒姫さん自身が口にしていた一人一体と言うノルマをきっちり守っていた故なのかもしれない。



「いやぁ、黒姫さんやるなぁ。能力発動なしで一撃か」

「ぎゃん!」

「えー、ほんとに? こんなの序の口でしょ」


間に入り、カウンターぎみに犬型のファミリアに裏拳一発。

これだと、攻撃の感触がそうでもないし、咄嗟に使えるしいいんだよね。


主に頼まれたとはいえ、やられ役なんかやらされて身につまされる犬型のファミリアが吹っ飛んで消えていくのを眺めながら内心でご苦労様ですとひとりごちる。


黒姫さんは謙遜してると言うか何でもない風だったけど、能力の発動もなしに素でファミリア倒すのって、かなりすごいと思うんだけどな。


……オレなんて勿論能力発動してますから。

【博中夢幻】の二番目セカンド、『摺り抜ける電線』……オレの想像する夢の住人になれるこの能力は、いわゆる身体能力がすごくなる。


基本は空を飛ぶ事がメインだけど、通常攻撃がべらぼーだったり、いきなり声出して必殺技みたいなやつを繰り出す事ができるのだ。


ちなみに、通常攻撃は『でゅくし』だ。

なんでだろうな、これを口にするだけでダメージを与えたような気分になるのは。


オレが世間一般で言わなくてもおっさんだからだろうか。

それとも心だけは(今は肉体もそれくらいではあるが)15歳だからだろうか。



「びっくりした……すごいね、お兄ちゃん」

「おぉ、今の何? なんてわざ?」

「ふっ、名前も技もない、名も無き通常攻撃さ」


玲ちゃんもそうだけど、立花さんのお兄ちゃん呼びもいいね!

立花さん、いかにもザ、妹って感じだものな。


一方、わいるどな雰囲気の黒姫さんはこういったのがお好きらしい。

黒姫さんのモーニングスター捌きの方がよっぽどすごいよって言えば照れていたので、いろんな意味で素直なんだろうけど……って、まだ終わってなかったな。



先の二体とは違って一気には近づいてこない影のようなファミリアを警戒しながら。

オレは、ドラムスティックを持ったまま固まっている晶さんの方へと駆け寄っていって……。




       (第21話につづく)







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