第十九話、目ざとく怒られる気がして、背筋も伸びきっちゃう
今回ガラクターズ班が踏み込んだ授業のための異世界……『異世』は。
所謂地下ダンジョンと言ってもいいような場所だった。
四角くくり抜かれた大きさが均一でないフロアがいくつもあるような、例えて言うなら人工のアリの巣のような、そんな場所で。
今回の授業は、先生たちが手づから作ったというこのダンジョンを攻略し、地上に帰るのが目的らしい。
【ファミリア】と呼ばれる能力から派生する敵性(役)や、【フィールド】と呼ばれる能力から生まれる罠などをかいくぐり、3~5階をパートごとに踏破せよ、との事で。
難易度は低く、異世というものがどんなものかを知るといった程度の肩慣らし的な授業、とのことだったのだが。
「愛華さん、美優さん。わたし、負けないから。ガラクターズのドラムは、わたしがやる。……せぇちゃんもだよ」
いつの間にやら濃紺の魔女ルック……に見える衣装に身を包んだ晶さんが、両手にカラフルなドラムスティックを握り締め、やる気みなぎる様子でそう宣言してきた。
本気度を表してでもいるのか、スティックの先端から小さな火の粉がほとばしっている。
何故、木っぽい材質なのに燃えないのかとか、短すぎるスカートから覗く眩しい太ももとか。
あげるべき点はいろいろあるが、どうやら異世とやらにやってくると、その人にあった衣装というか、武器防具が用意されるらしい。
沢田家に居候する事になって晶さんの私服、室内着等、色々拝見させてもらっているが。
こうしてあっさり彼女に萌えてしまう自分の手の返しっぷりというか、正直自分自身が信じられなくなってきているのは正直な所だった。
まぁ、別人だなんて大名義分を受け取ってしまったからしょうがないと、自分を納得させてはいるのだが……。
そんなオレは、なんというか着の身着のままの制服姿、武器防具なしの状態だった。
はりきってる彼女には申し訳ないが、一歩引いた護衛であるという事で勘弁してもらおう。
「いや、やるからには負けないよ」
とはいえ、彼女が未来モンスターになってしまうかもしれない、ドラムパートスタメンという位置を、そう簡単に譲るわけにもいかなかった。
着の身着のままで何を言うかと思われがちだが、オレの能力を考えるとこれがデフォなんだろう、きっと。
「あたしだって、勝負ごとなら本気だすぞ」
「みゆも、まけませんよー」
一方、晴れて同じパートメンバーとなったちみっこ二人組、黒姫愛華さんと、立花美優さん。
今更だけど、前世においても晶さん……『彼女』から二人の名を聞いていた事を思い出す。
「むむ……ほんとはわたしで決まってたのに」
パートのスタメン争いをしていた、なんてことまでは聞いてなかったが。
こんな関係がずっと続いていくんだなぁってしみじみ思う。
せめて、良好な関係になれるよう、間に入ったり入らなかったりしたいところで。
しかし、早くも弱気発言が晶さんから発せられたように、二人の姿というか佇まいは、まさに今ファンタジーに触れているんだな、という感想を持たざるを得なかった。
黒姫さんのカッコは、なんて言えばいいんだろう。
一言で言えばワイルド可愛い、だろうか。
一見すると白い着物姿なのだが、下履きは短パンみたいに短いし、腕周り首周りは、ズタズタというか、切り込みが入ってしまっている。
晶さん以上に、細っこい両手両足を惜しげもなく晒しているのだ。
全身に絡みつくように装備しているトゲトゲつきの鎖がなければ、ほいほいと……あ、いや。なんでもない。
一方の立花さんはゴスロリドレス猫耳と、実にあざとく分かりやすかった。
自分の似合う服を理解して着ていると言えばいいのか、ビスクドールさながらで、正にイエスロリータ! なんちゃらってやつで。
「せぇちゃん、行くよっ」
「……は、はぃっ」
条件反射と言うか、みんなの装いを解説していただけであって、それ以外に意図があったわけじゃないんだけど、思わず敬礼しかねない勢いで反応してしまう。
正直小っ恥ずかしいったらありゃしなかったけど。
晶さんも含めてみんな笑ってくれたから、まぁ良しとしよう。
(第20話につづく)