第十七話、なんだかんだ言って、過去の良き古い時代なのかもしれない
「……今日はひびき一人? ええと、後ろの方たちは」
気になっていたのは、晶さんも同じだったらしい。
オレも知らない二人の美少女(やっぱり学校が学校なのか、どの娘もたまげるくらいにレベルが高いよ)達とも初対面らしく、我屋さんに紹介を求めているようで。
「うん。万年くんとおんなじだよ。四人とも我らがバンドチーム、『ガラクターズ』に入りたいんだってさ」
―――『ガラクターズ』。
やっぱりそのバンド名だったか。
世界どころか時代も違うってのに、そのバンド名はオレが『彼女』に聞かされていた名前そのものだった。
前世において『彼女』の青春時代、『~ズ』とつける名前が流行ってたみたいなんだが、この世界でも流行ってるんだろうか。
「で、でも。そんなにたくさんパートが空いてるわけじゃなかったと思うけど」
「だね。だから現メンバーと新メンバーで競い合ってスタメン決めよって、あさ姉いってたよ」
「……そっかぁ。あさこ、まだ認めてくれてなかったんだ」
後半は小さな声。
オレに聞こえるかどうかの呟きだった。
……ふむ、もしかすると彼女を劇的に変えてしまう『小生意気な奴』改めキーガールは、愛敬さんなのかもしれない。
大人しそうな娘に見えたけど、我屋さんや晶さんの態度を見るに、彼女たちのグループの頭脳的存在と言うか、意外と逆らえない存在なのかも、なんて思ったり。
「ま、クラブの班は10人までいけるからね。たくさんの方が楽しいし、中で二つバンド作ったっていいんだし、あまりめんどくさく考える事もないと思うよ。ほらほら、自己紹介、自己紹介」
あくまでもマイペースに、やっぱり楽しげに我屋さんが肩を叩いたのは。
橙色の髪を無造作にまとめた……何というか野性味があるというか、ロックンローラーっぽい少女だった。
「1-3、黒姫愛華だよ。和楽器なら触った事あるけど、んと、かっこいいバンドに憧れてました、よろしくっ」
しかし、一度しゃべりだした途端のギャップときたらもう、その名前らしく随分と幼く見える。
「うわっ、これまた強力なライバルだわ~」
ぼそっと、やっぱりオレだけに聞こえる声で玲ちゃんがそんな事を言っていたが。
オレの好みがバレてるわけでもなし、きっとオレには関係ないことだなぁとスルーしておく。
「一年三組、立花美優です。みゆ、たいこでリズムとるのは得意だよ。すためん目指してがんばります」
「……っ」
そしてもう一人。
未だにちょっと慣れない、目がチカチカするくらい目立つ、桜色ツインテールの少女……っていうか幼女?
黒姫さんとは違い、子供っぽい口調に反して、ほとんどお人形さんみたいに表情が動いていないのが、なんとも気になって仕方がない。
ストライクゾーンの広いオレにとってみれば、充分ゾーンに入ってるな。
そんな心情を読んだわけでもないだろうに、玲ちゃんからの視線がきつくなってるのが怖いんですけど。
……一方、晶さんは図らずも宣戦布告された事に息を呑んでいるようだった。
もしかすると、立花さんもキーガールなのかもしれない。
晶さんが目も当てられないくらい性格が変わってしまわないように、しっかり間に入らなくちゃな、うん。
「ええと。二年一組、転入生の万年政智です。ドラムも含めていろいろ挑戦したいと思ってます」
そんなわけで、すぐさま自己紹介。
それに、ギター志望らしいユーキや、ピアノが弾けるらしい慧ちゃんが続いて。
愛敬さんや天使姉な鳥海春恵さんとはまた紹介の場を設けるとのことで。
早速楽器に触ってみようかと我屋さんが声を上げた時だった。
今までどうしてか冷たいデザートのような視線をオレに向けてきていた玲ちゃんが口を開いたのは。
「あ、あの。私もガラクターズ班に入りますっ」
「ちょ、ちょっと玲っ。何言って……」
「あー、うん。ちょうど10人だし、いいんじゃない」
「やた。ありがとうございますっ。沢田玲です。ボーカルやってみたいですっ」
「も、もう……」
頬を膨らませている晶さんだったけど。
何となくそんな気はしてたんだろう。
仕方ないんだから、何て言いつつも嬉しそうな晶さんに、オレも楽しくなってくるというもので。
これから始まるクラブ活動は、前世ではありえなかった素敵な事がきっとあると。
確信めいたものを覚えるオレなのだった……。
(第18話につづく)