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第十六話、守護霊交代のごとき、変わり果てる瞬間を見逃さないために




オレが晶さんに対して一歩引いていた理由。

今のところシャイで引っ込み思案な性格の彼女は、幸いにもそれ以上突っ込んで来る事はなかった。



未だにあんな理想の美少女姉妹と一つ屋根の下のはどうにも慣れないが、一歩引いている理由が悪いものではないと感じ取ってくれたのだろう。

夢現ながら平穏無事に日々は過ぎていく。

 



そんな日々に変化があったのは、入学式があってから一週間後の事だった。

授業が一般的なものに変わり、体育が『曲法』についての実践授業である事以外、懐かしき学生生活にリアルの充実してる輩として過ごしていく中。


今日も今日とて家主である美少女姉妹の、学園までの送迎をこなし、学園ヘ辿り着いてすぐ。

玲ちゃんが今思い出しましたよ、とばかりに声をかけてくる。




「そう言えばお兄ちゃん、部活はどうするの?」

「……っ」


あからさまに何らかの狙いがあっての玲ちゃんの言葉。

ミラー越しに何だか狼狽えている風の晶さんの姿が見える。


確かにそれは教室でも話題に上っていたし、晶さんが慌てている理由がよく分からなかったが。

玲ちゃんの表情を伺い見るに、答えない理由はないだろう。

オレは頷き言葉を返す。



「部活って言うとあれだよね。どっちかって言うと大学のゼミっぽいやつ」



部活と銘打っているが、学校に通うものは参加必須であり、主に『曲法』のための実地訓練……校外に出て行ったりするらしく、大まかに言えばその班分けなのだ。


『曲法』を扱うここの人達は、音楽、芸術の才能に優れている。

あるいはそんな才能に秀でているからこそ、『曲法』が扱えると言えるのだが。


この学校には、所謂一般の学校にあるような運動部は存在しない。

吹奏楽部、合唱部、軽音部に演劇部などといったいかにもそれらしい文化部しか存在しないのだ。

 

ここの学生達は、これらの部から一つを選んでその中の一つのチーム……だいたい6人から10人くらいらしい……を組み、一年を過ごすのだそうだ。


その内容は、それぞれの部活動が半分、『曲法』の班として共に実地訓練を受けるのが半分といった頃合いで、強制的な上ぼっちになる事はないが、下手な班に入って仲がギスギスしたりしちゃっても、一年は変える事ができないという、学校生活における最も重要な選択の一つで。



転入生のオレも含め、メンバーを変えたい人は、今週までに決めなさいとのお達しもきている。

オレとしては、仕事的な理由と個人的希望により、晶さんのいる軽音部のチームに入るつもりでいるのだが。



「勿論、軽音部に入るよ。晶さんが良ければ同じ班にしたいんだけど」

「で、でも。わたしはドラム担当で空いてる班、ほかにあるのに……」


この通り、控えめながらまた完全にお許しがもらえていない状態なのである。



「何? よりにもよってお姉ちゃんと同じパート希望してるの? お兄ちゃんも好きだねぇ。女の子ばっかりの所に臆面もなく入る気でいるんだから」


そう言う玲ちゃんも軽音部で、他の班に所属しているわけだが。

オレが一にも二にも晶さんである事にちょっと不満を覚えているみたいだった。


掛け持ちできれば両方入るんだけどね、なんてのは実にもならないので置いておくとして。

晶さんが渋っているのは、女の子ばかりの班であるのもそうだけど、オレがドラムをやる、などと言い出したせいなのだろう。



昔取った杵柄で和太鼓そこそこいけるが、得意でもないドラムパートを所望するのには当然訳がある。

前世と今は別だとは分かっているのだが、前世の『彼女』が若い頃は、大人しくて引っ込み思案で泣き虫であったとはよく聞かされていて。 

 

その性格が激変したきっかけこそがドラムとの出会いであり。

『お前にはどうせできないだろう』と言われて発奮した結果だと言う事も耳タコで聞かされていた。



それを阻止するためにはドラムそのもののポジションを奪うか、そんな小生意気な発言をした何者かを止めるしかない、と考えたわけだ。


ガールズバンドに一人入り込んでウハウハだぜ、と思ったわけじゃないぞ、決して。

まぁ、前世で太鼓クラブに入った時は似たような状況で慣れていて気にならない、と言うのもあるが。




「ま、あくまでもオレの希望だよ。晶さんだけじゃなく、ほかの娘達にも承諾得なくちゃだし」


未だ確定ではないのは、結局そう言う事なのだ。

オレの中でも前世の結果にならうべきか反抗すべきか、決めかねていた所だったので、何が何でも、と言う訳ではないのだ。


下手に動くと、オレがその『小生意気なヤツ』と化し、彼女が性格を激変させるきっかけとなってしまう可能性だってあるのだから、


少なくともその最悪の結果だけは避けないと、なんて思っていると。

そんなやりとりに割って入る者がいた。

 


「ちょっとまったぁ! 万年くん! まさかボク達と同じ班に入るの!?」


バターン! と部室として宛てがわれているらしいドアを豪快に開け放ったかと思ったら、実に楽しそうに駆け寄ってきたのは我屋さんだった。


初対面の時はもう少し大人っぽく感じたけど、その何かを基本たくらんでますって感じの笑顔が、年相応の幼さを主張している。

 


「ああ、うん。できればだけど……っ」



この様子だと我屋さん本人は反対って雰囲気じゃなさそうだったけど。

それよりも彼女の後ろでこんな所で会うとは、なんて顔をしているユーキに加えて。

相変わらずバッチリ背中に羽を生やした天使妹な慧ちゃんだけでなく。


この前会った時にはいなかった二人の少女がどうにも気になって……。



    (第17話に続く)







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