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第十五話、オレチートすぎて広がるはずの話が広がらない




もはや神様そのものな親父の言葉だったから大丈夫だろうとは思っていたが。

案の定数秒のズレがあったかどうかの勢いで、思ったよりも軽快に自分の元から離れていく晶さんの姿が見える。


すぐに駆け出したい所だったけど、予想通り……あるいはそれ以上に時間のかかったマンツーマン指導のせいで、心身ともにヘトヘトになってしまっているオレがいた。

 


体力だけが取り柄のオレに対してここまで疲弊させるとは流石親父。

オレをどう鍛えればマシになるのか、実によく分かっていらっしゃる。


おかげで、この世界の超常という名の常識も身体で理解できたし、それなりにやっていけそうな充足感と満足感がそこにある。

逆に指導されてなかったら、何度となくやらかしてしまっただろう事は明白だ。



本当に、このタイミングの指導に感謝である。

いつでも親父の裁量で呼び出されるのかと考えると、大分億劫な事ではあったが。

 


それも、こちらを振り向く事なく駆け出していく黒髪制服美少女の後ろ姿でチャラかな。

歌にもあったけど、後ろ姿をこうして見守るってのもロマンだよなぁ。

短めの白いソックスの辺りをウロウロしている、多分てんとう虫にも気にならないと言うか、心穏やかな気持ちでいられるってもんだ。

 

しかし、うむ。

校内でみだりに『曲法』と言う名の超常の力を使ってはいけない……そんな結界がこの敷地には貼られていると聞いていたけど、あれだけ小さかったりすると、能力を使っても気づかれたりしないらしい。

 

針の穴を通す勢いで『曲法』の力を見る修行のおかげか、そのてんとう虫が何者かの『曲法』……ファミリアに分類されるものだと気づく事ができた。

偵察とかに使えそうな、実に有用な能力と言えよう。


当然、オレに気づかれてしまった時点で、そんなスカートの中側をモンスター求めて探検するだなんてけしからん真似はさせませんけど。

 


いやぁしかし、何度も言うけどナイスなタイミングな指導だったよ。

その虫自体に気付かなかった可能性もあるし、気づいても『曲法』を使った事がバレたりと、やらかして面倒な事になっていただろうと思うと、ほんとそう思う。


例えば、怒りに任せて踏み潰したりなんかしちゃったりしたら、そのダメージが使役者に返ったりするらしいのだ。

ある意味勇気あるその生き様に、過剰な折檻をせずに済んだのは行幸と言えよう。

 

……ああ、勿論オレの大切なレイディに対して失礼かましてくれちゃってるんだから、それ相応のバツは与えちゃってるけど。

今頃きっと、命かけて見ようとしたものがこの世のものとは思えないトラウマを刺激する悲惨なむご映像に切り替わっているのだ。

心中お察しする、というやつだろう。 


そんな事が出来るのは、しかしまさにおあつらえ向きにオレの能力(こういう言い方、一度してみたかったんだよなぁ)のおかげである。

 

【博中夢幻】と呼ばれる能力は、先にも述べたとおり三つのやばい効果を発揮するチートなものだが、オレが何よりやばいと感じたのは、その発動の速さとコストのかからなさだった。


『曲法』を使う場合、MPと呼ぶべきなのか、生命力と呼べばいいのか分からないが、そう言ったものを消費し、使いすぎると疲れて動けなくなったり、やりすぎると命の危機だったりするらしいのだが。


オレの場合それを消費してる気配がないというか、底抜けらしいのだ。

マンツーマン指導で減ったのは気疲れ的な何かくらいか。

いや、身体はへたれてるし、完全無欠な万能ってわけでもないんだろうけど。

 

神様(親父)補正のチート万歳、と言うやつである。

その理由もしっかりあるらしいけど、何だか余計に修行が長くなりそうだったので割愛させてもらっている。

まぁ、目に映る登場人物のすべてを守ってみせよ、などと言うくらいなのだから、これくらいは許してもらいたいよね。

 

……そんな風に修行とその結果を回想していると、玲ちゃんとの待ち合わせ場所にやってきたらしい。

玲ちゃんとその護衛の鳥海慧ちゃん。

小さな二人に隠れようとしてできないでいる晶さんの姿が見える。

 

オレが何かしでかしたと思ったのだろう。

慧ちゃんは、きりっとした(それでもきつくはならない)眼差しを向け、玲ちゃんはむしろその意気や良しとばかりにによによしている。


はてさて、どんな言い訳をしたらいいものかと。

そんな小狡い事を考えつつ、オレは手を挙げて駆け出すのだった。

 


前の世界のオレだったらまずあり得なかっただろう言動と行動。

そういう意味では、生まれ変わったもうひとつの人生を、物語を描く決心がついたのだと、自覚しながら……。



    (第16話につづく)







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