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第十四話、一度始まれば終わらない教えが、懐かしくも哀しい



「……っ!」

 


それとともに、感じるのはざわりと全身を撫でられ包まれるような、あまりよろしくない感覚。

オレはそれが何であるのか、つい最近学習していたこともあって、すぐさま理解する。


この現代っぽいけど、ファンタジーな世界で暮らす異能を持つ者達が相対し、その力を披露しあうと言う専用の場所に入り込んだのだろう。

 

『異世』、なんていうそのまんまの名前。

ここに連れてこられる理由など様々あれど、晶さんの姿が見えなくなったと言う事はその世界に取り込まれたのはオレの方なのだろう。


一度入ってしまうとその世界を、あるいは連れ込んだ能力者自身をどうにかしないと脱出することはできないと言われている。

これが、オレだけを狙っているなら、特に焦る事もないのだが……。

 


(おいおい。この学校セキュリティ万全じゃなかったのかよ)

 

『曲法』、『異世』などと言う異能においても警備保障は万全だと聞かされていたから軽い気持ちでいたのに。

こりゃどういう事かとオレの事より晶さんや玲ちゃん達が心配でパニックになりかけたのは確かで。

 


「……なっ!?」


それを悟ったかのようにオレの目前に現れた、所謂ゲームで言うメッセージウィンドウに思わずびっくりしてから脱力するハメになる。

 


『調子はどうかね! 息子よ!!』

「……って、当分会えないような雰囲気出しておいてこれかよ!」

『いやぁ、しばらくはこっそり見届けるつもりだったんだけどな。その世界の生き方と言うか、戦い方を改めてレクチャーしておこうと思ってな』


独り言のぼやきだったのだが、会話するかのごとく帰ってくる親父の音声付きメッセージ。

 


「今更? ……ま、いいけど」


見届ける、なんて聞き捨てならないセリフもあったが、親父の立ち位置を考えるとありえそうだし、頑固でわからず屋な『彼女』にオレの死を納得させるには「それ」くらいしなくちゃダメだろうな、という気もしていたのだ。

 

オレ自身、この身に余る『博中夢幻デイドリーファントム』なんて呼ばれる能力を試したかったのも確かだし、一度何か教えを請えば教える側の親父が納得するまで付き合わなくちゃならない事はよくわかっていたので、オレは一つため息をつくと、改めて親父のありがたい教えを聞く体勢を取る。

 



『なんとなく気づいているかもしれないが、今のお前はイレギュラーだ。この世界が物語であるならば、この学校に通う事もなかったし、登場ももっと後になるはずだった』



そして、早くも微妙に話がずれ始め長くなる予感。

その辺りは神様? になっても全く変わってないんだなぁって思わず苦笑してしまう。



「イレギュラーか。そういや初めて出会ったのって社会人になってからだっけ?」

『……まぁ、そうだが。こちらの世界とイコールではないと言ったろう』

「はい。分かってまーす」


お見合いだったって聞いてるしな。

まぁ、ちょっとした意趣返しみたいなものだ。

 


『で、それを踏まえてだ。同じ歴史を辿る事はないと前にも言ったが、こちらとあちらが連動しているのは確かなのだ。こちらの通り【彼女】と結婚しろ、とまでは言わない。その代わり、彼女を中心とした物語の登場人物、その全てを守り抜け。この命の軽い世界でな。そのために万能……チートな力をお前に与えたのだからな』

「そうは言うけど、誰が誰だか……」

『うむ。その辺りはぬかりないぞ。ノートに書いてある』


……言われてみればそうだった、のか?

あまりに中二すぎて隅々までは確認してなかったな、気をつけよう。


しかし、全てを守れとか無茶言うよなぁ。

オレがそう言うの好みだって把握されてるんだろうなぁ、きっと。



『しかし、強すぎるが故に扱いが難しい。今までよく何事もなかったなと思うぞ。まぁ、だからこうしてこの場を設けたわけだが……』

「つまり、【博中夢幻】って能力を、ここで慣れさせろと」

『ああ、そう言う事になるな』



マンツーマンの実践と解説。

こちらからお願いしておきながら当時はだんだんと面倒になってもういいよ、なんて口にした事もあったっけ。


それが随分と懐かしく思えて、寂しくもあって。



「まぁ教わるのはいいんだけどさ。晶さん達に一言言っておかないと」

『なに、そこの所も抜かりないわ。ここは外界と完全に乖離したとっておきの異世だからな。時間の経過は気にしなくていい』

「あ、そうなん? そりゃいいや」



時の止まった修行の間、みたいなものか。

改めて親父からそんなファンタジーなセリフを聞く事になるとは。

それが意外と違和感ないんだよなぁ。


千回遊べるダンジョンゲーとか、奇抜な楽譜の設計図みたいなバイクゲーとか、親父と一緒になってやり込んだ記憶が蘇り、さっきとは少し違う笑みも浮かぶというもので。

 

 

『それでは手始めに、手加減の練習だな。一定の感覚で一体一体倒して見せろ』

 


そんないきなり投げっぱなしなセリフがウィンドウに刻まれ、すぐにウィンドウが霞み消えた瞬間。

それまでウィンドウ以外、特に何もなかった世界が、血のように赤い粘土のような身体を持つ無数の人形のグラデーションへと変化する。


それこそ、芋を洗うほどの雑多で。



「いきなり問答無用でコレかよ」



まだ、能力をどう扱ったらいいかもはっきりしてないってのに。

相変わらず期待……じゃなくて、買い被られてんなぁと一人ごちつつ。

それでもその期待に応えたいと思うのが、もう一つのコンプレックスに浸されたモノの宿命みたいなもので。



「いっちょ、やってみますかぁっ」


もしかしたら、最後かもしれない(二度目)親父とのマンツーマン授業が、始まった……。




      (第15話につづく)








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