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第十三話、コンプレックスが発動したけど、テンションがちょっとらしくない




ヒロインばかりと知り合って、これってどんなギャルゲーのオープニングだよと。

幸先の良さに浮かれつつもどこか客観的でいたオレは、それから帰るまでの時間、せっかくのファンタジーな高校生活三年間、気兼ねなしにつるめるような男友達との出会いに奔走していた。



結果、本日の成果。

音楽の趣味が合いそうなちゃら男風いい人の菅原剛司すがわら・こうじ君と友達になれた……と思う。

遠巻きに見ていたクラスメイトの一人で、ノリがよく、ユーキとも気が合いそうで。



そんな事も含めて。

オレにとって男友達がどれほど重要なのか、健全な意味で訴え続けているのですが。

 

『彼女』の特徴でもある天上天下唯我独尊な芽が出てきたのだとは思いたくはないが。

放課後玲ちゃんとの待ち合わせ場所にオレと一緒に向かう晶さんは、何と言うかあまり機嫌がよくなさそうだった。


どうやらあの後、お昼を一緒にというのを丁重にお断りし、校内案内を剛司君達にお願いしたのが我慢ならなかったのでしょう。



恥ずかしいんですよ、察してください。

そう思うも、敬語になっちゃうくらい不機嫌なオーラが漂っています。

モノホンの、ゲロ吐きたくなるのに比べたらまだまだ可愛いものだったけど。


これが続くと精神衛生上いただけません。

晶さんと『彼女』は違うのだとは分かってはいたけど。

『彼女』をなだめる事に関しては手馴れていたオレは、とりあえず同じ要領で恐る恐る声をかけた。




「晶さん。オレが悪かったですって。今度はお昼一緒にお願いしますから」

「……違う。そうじゃない」


身を縮こませて頭を下げるオレに、ムッとしたほっぺのまま首を振る晶さん。

 


「えっと? 違う、とは?」

「それ。その言葉使い。どうしてひびきや玲は名前で呼ぶのに、わたしにはその……よそよそしいの?」

「うっ」


どうやら、ご機嫌斜めな理由はハナから見当違いだったらしい。

しかも、他の子に比べても余所余所しくなっていたのを自身ではっきり自覚していたから余計に性質が悪かった。

思わず声に出して言葉を失うと言うベタなお約束をしつつ、どうすればいいのかと脳内会議する。

 



正直に、生まれてから死ぬまで、そして生まれ変わっても植えつけられたままでいる恐怖と言う名の支配によるものなんです、なんて言えればいいんだけど。


どうやら、今の所オレの近くにいる人達の中では前世と言うか前の生の記憶を持っている人はいなさそうだったので、晶さんは前世でぼっくんのお母さんでそれは厳しく躾けられたのです、なんて馬鹿な正直に解説するわけにもいかない。

となると、他の理由を挙げねばならないだろう。 



 

「ええと、なんて言えばいいのかな。ほら、昔のイメージと合わなくてさ。戸惑ってるんだ?」

「むかしの……イメージ?」

「うん。昔も可愛かったと思うんだけどさ、こんなオレなんかが近くにいてお話するのも申し訳ないって思うくらい美人さんになっちゃったから。美少女に耐性のないオレには大変なのです。タイプだから余計にね」


 

畏れの権化であった『彼女』が……本人からも若い頃はーなどと話半分に聞かされていたとはいえ。

こんな一線アイドル級の美少女になってしまうなどとどうして思うだろう。


なんていうか、戸惑いしかない。

親父の言では別人であるとの事だが、面影はしっかりあって関連付けて行動してしまうのは、もはや本能的行動なのだ。


今更ながら思い出したけど。

そう言えば親父、当時好きだったアイドルに似てた、なんて言ってた気もするしな。



玲ちゃんやクラスメイトの美少女達に対して、ここまであからさまにならないのは。

やっぱりコンプレックス的な意味ありありで、晶さんががタイプだからなんだと思う。


 

「……え。えっ? それってつまりわたしのことがすっ……~~っ!!」

「あ、ちょ、ちょっと!」


やれやれ系や鈍感男は性に合わない。

前世のオレならまだしも、ファンタジー世界に生まれ変わったオレは、イケイケなのである。

これなら嘘にもならないし、好みで告白したいのもぶっちゃければ本音だ。

……前世のことを考えさえしなければね。

 


是非、オレの一番目の嫁に!

なんて補足はゲスいので口にはしないが、おかげで彼女の反応は上々である。

なんとか、話題を逸らす事ができたぞ。

 

まぁ、もう一つ裏っかわには、今からしっかり手綱を引いて、畏れの権化になるのを阻止したいというのもあるのだが。



上々とは言え、いきなりはまずかったらしい。

赤くなって湯気上げて、逃げ出す晶さんを、オレは慌てて追いかける。

 


ボディガードと言う体なのだから、あんまり離れるわけにはいかないのだ。

たとえこんな状況であっても。

これから帰宅なのだし。



……うーむ。

異世界に来てテンションが上がって頭沸いてるな。

実際、こんな好意を簡単に口にできるタマじゃなかったはずなのに、少し落ち着けと自省。

 

ただ、晶さんの走った先には玲ちゃんとの待ち合わせ場所であるし、がっついていかなくても問題はない。

そう思い立ちつつ、歩を緩めた……その瞬間だった。



僅かに赤みがかかった黒髪はためく晶さんの後ろ姿が、忽然と消失したのは。



 

     (第14話につづく)







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