第十一話、ヒロインの周りを固める友人は、やっぱり半端ない
ぶっちゃけると魔法使いどころか魔王に向かってまっしぐら爆走中だったオレにとって。
十数年ぶりというか、まさか再び学校に通う事になるなんて思いもよらなかったわけだが。
世界が変わり、『曲法』を学ぶといった普通でない特別な学校だったせいか、プラス十数年のギャップを感じずにいたのも束の間。
担任と名乗る女性(オレにとってみれば少女にしか見えないほどには若い)を見て、自身が年を食った事をおおいに自覚させられてしまった。
小柴見泉さん。
先生だけど間違いなく年下の女性。
しかも生まれてこの方女教師が担任になった事など一度たりともなかったので、緊張感は増すばかり。
思い描いたテンプレそのままに泉先生が一足先に教室へ入り、しばらく間を置いて教室へ入って、晒される不特定多数の好奇な瞳。
ぱっと見渡しただけで分かる、美男美女の若者たち。
芸術の才能=『曲法』の才能と言うのは聞いていたが、もしかしたらその才能には見た目なども含まれているのかもしれない。
少なくとも、おじさんが直視できないオーラのようなものが、クラスじゅうに漂っている。
そんな中、贔屓目に見なくても一際輝き目立っている晶……さんが、机に手のひらを立てるようにしてこっそりと手を振ってくれた。
どう返すべきか一瞬迷ったけど、彼女に見られていると思ったら自然と応えるように大きく頷いて笑みを浮かべていた。
そのまま、さっきまでの緊張もどこへやら、無難に名前と趣味などを口にし、泉先生の指示を仰ぎつつ宛てがわれた席へと向かう。
話は通っていたのか、その席は晶さんの左隣。
ひと仕事終わって少しだけ余裕のできたオレは、転入生としての自分の立ち位置は如何なものかと周りを観察してみる。
まず気づいたのは、思っていたより男子が少ないと言う事だった。
割合で言うと、3対7くらいだろうか。
晶さんの隣に半ば強引に座った事で風当たりが強そうだが、趣味の読書に対し言葉通りの意味で反応してくれる子もいたし、そこはおおいに期待したい。
一方、女子の反応は薄かったと言わざるを得ない。
興味がないと言うより、言いたい事があるのに口にしないといった感覚。
中には睨んでくる子もいて、おじさん地味に凹みます。
恐らく、簡単に入れるような学校じゃないし競争もあるだろうから、今更転入生面倒臭いとか思われてるんだろう。
……いきなりオレ自身が嫌われてるとは思いたくないよね。悲しくなるから。
目まぐるしく色々考えつつもいざ自分の席へ。
「よろしくお願いします」
「……うん。よろしく」
やっぱり未だ距離感を掴みかねてる、そんなやりとり。
はたして、彼女に慣れる時は来るのだろうかと自問自答しつつ。
泉先生の話、今日一日の予定を耳にして。
そう言えば、クラスメイトの自己紹介とかってこの場合ないのかな、なんて思っていると。
一時限の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
辺りを見回すと、皆がそれぞれに動き出し、新人をみんなで囲み迎え入れ歓迎しよう、と言う雰囲気はない。
ああ、こう言うものなのかと自分を納得させていると。
それでも全く気にならないわけじゃないのか、こちらに注目してくれる男子生徒が何人かいた。
転入生の方から声を掛けるのはナンセンスなのかもしれない。
だがオレにとって、これはチャンスなのだ。
その場限りの、例えば学校なら卒業してしまえば音沙汰がなくなってしまうような関係ばかり、主に自分の怠慢によって作ってしまった事は記憶に新しい。
友達百人と歌えるほどにはなれないかもしれないが、その為の努力はしたかった。
故に晶さんには一言断って、数少ない男子の元へと向かおうとしたわけだが。
結果的に、オレはその行動を取る事はできなかった。
実の所、気恥ずかしくてどう対応していいか分からなかったから意図的に避けていたのだが。
晶さんの隣に座ってからずっとこちらを注目していた女子のグループが立ち上がろうとするオレより早くこちらへ向かってきたからである。
その時、ちょっと面倒だな、なんて考えていた出会いが大きく広がってずっとずっと続くような関係になるなどと、これっぽっちも思っていなかったわけだが。
観念してというか、進行方向にいるのだから目線が合うのはしょうがないよな、なんて自分を誤魔化して顔を上げると、そこには三人の少女がいた。
「やぁ、はじめましてっ。晶の友人そのいちの、我屋響だよ」
「その2、鳥海春恵です。よろしく」
「……その3、愛敬麻子です」
やけに友人の所を強調してきたのが気にはなったけど。
正直、前世で会ったのならば自分が申し訳なくて逃げ出したくなるくらいの色を持った美少女達である。
何て言うか、晶さんにしてこの友達あり、といった感じ。
精神年齢とか前世とか、改めて気づかされる役立たずを身に染みつつ、それでも何とか返事を返した。
「よ、よろしくです。改めて、万年政智です」
油断するとどもりそうになるのをなんとか誤魔化し、面白みのない繰り返しの自己紹介で精一杯。
それを、どう受け取ってくれたのかは正直よく分からなかったけど。
響と名乗った雰囲気から出るとこ出てるところまで大人なのに口調は子供っぽい、ひまわり色の髪(だけど前髪の毛先だけ黒色をしている)少女が、引き続き声をかけてきた。
「ふふ。何だか凄く真面目っぽいカンジだね。アキちゃんのぼでぃーがーどするんだって? ごくろーさま。この子、ふわふわしてるからねぇ。しっかり見ててやってよ」
「ひびき……一言余計」
すぐに気安い距離まで近づき肩を叩きながらとても楽しそうに笑い、顔を赤くし言葉少なに食ってかかろうとする晶さんをあしらう響ちゃん。
よくよく見ると、黒色に見えた大きな瞳には朱が混じっている。
不思議な色合いだと思う暇もあらばこそ、晶さんとは違う「うっ」ってなるくらい女の子らしい香水? の香りに、引けそうになる腰をギリギリでこらえる。
「いやいや、そんな大層なものじゃないんですって。むしろこっちがお世話になってるくらいで」
そもそも、この世界においてボディガードあるいは護衛とはどんな業務なのか、散々ばら勝手が分からないと口にしたが、一応沢田家にやって来てから入学式までの間に、ユーキとも擦り合わせをしていた。
だが、どうもオレの知るボディガードとは訳が違うらしい。
それでも気楽と言うか気負ってないように見えるのは、ユーキにお前は規格外だから魔王に襲われても大丈夫、なんてちょっとアレな評価をいただいたせいもある。
何と言うか、実際やってみないと分からないというのが正しいだろう。
今日の栄えある護衛一日目も、運転に緊張はしたけど何が起こるわけでもなかったし。
……まぁ、へりくだって下手に出ているように見えるのはそれらとは関係なく彼女らに緊張してるだけなんだけど。
(第12話につづく)