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第十三話

 小学校、中学校共に集団行動があまり得意で無かった僕だったが、高校では少しだけ何かに歩み寄ってみようと、そう思っていた。


 具体的に言えば何か部活を始めようと、そう思っていたのだ。

 だが僕は賑やかで華やかな場所はあまり得意では無い。そもそも人と関わり合うのが苦手なのだ。その条件を鑑みた上で僕に打って付けの部活動は無いかと探し回ってみた。


 放課後は方々の部活動が新入生を勧誘する為に熱心な活動を行っていた。僕は成る丈、華々しい勧誘活動をしていない部活動を探して校内を歩き回った。内向的な性格が災いしてか、馴れ馴れしく踏み込まれる事に途轍も無い嫌悪感を覚えるのだ。こればっかりは僕特有の価値観という事で勘弁して欲しい。


 そんな甘く短絡的な考えの元、僕に合った部活動なんて見つかるとはあまり思ってもいなかったのだが、今回ばかりはどうやら僕に運が向いていたようで、意外にもあっさりと入部したい部活動が見つかってしまった。


 その部活動とは何を隠そう文芸部である。

 校内の隅っこたる小さな中庭で縮こまるようにして机を並べているその小市民的な部活勧誘はいかにも僕にぴったりで、そして新入生なんて勧誘する気など更々ないとばかりに椅子に座ったまま本を読み続けるヤル気が一ミリも感じられない姿勢は素晴らしく肌に馴染んでいる、そう思った。


「あ、あのー……、すいません。ここは文芸部で間違いないでしょうか?」

 僕は机にセロハンテープによって貼り付けられ、垂れさがっている『文芸部』と書かれた紙を確認しながら、椅子に座ったまま本を読み続けている少女に話しかけてみた。



 少女は地味めな外見の少女だった。

 だが独特の凛とした雰囲気を持った少女で、髪型は黒髪のボブ。眼鏡を掛けた目がナイフ――とまではいかないまでも鋏くらいには鋭かった。背格好は平均よりやや高めの印象。呼んでいる本は重厚なハードカバーに包まれたいかにも文芸女子が好みそうなタイトルだ。


「……………………………………」

 宇宙の深淵でも覗きこむかのような深く暗い瞳で僕の言葉は無視された。

 聞こえなかったのだろうか、それとも単に形だけの部活勧誘をしているだけで実際は新入生などという邪魔者を勧誘する気は更々無いのだろうか――そう思ってしまうくらいには彼女はハードカバーの本に夢中だった。


「……すいません、入部希望なんですが」

 僕はもう一度、少女に向かって声を掛けてみた。無視されているのか、気付かないのか分からない以上、出来ればこちらにとって都合の良い事実だと思い込みたかった。だが、これで無視されれば踵を返して一目散に逃げ帰るだろう。そして返って布団に潜り込んで泣いてみる事だろう。それぐらい思春期の、それも内向的な男子にとって女子に無視されているという事実は重く圧し掛かる。


「……へ、あ、ん?」

 少女はどうやら僕の声に気付いていなかったらしく、変な声と共に視線を上げた。



「あ……い、いらっしゃいませ! な、何か御用でしょうか?」

「………………。コーヒー一つ」

「……へ?」

「あ、いや、ごめんなさい」

 いらっしゃいませ、と何だかよく分からない反応をされたので思わず言葉が口をついてしまった。僕は勢いで口にした妄言を悔やみ、顔を綺麗な夕闇色に火照らせた。


「すいません……こ、コーヒーは置いてません……」

「分かってます……ただの冗談です……」

 律儀に返してくれた少女に僕はもう一度謝った。


 居た堪れない空気を作ってしまった事を僕は心底後悔する。


「…………で、では……何の御用でしょうか?」

「あ、いや入部希望なんですけれど……」

 僕の言葉に少女は自身が部活勧誘を行っている事をようやく思い出したのか、柏手を打つ代わりにハードカバーをパタン、と綺麗な音を響かせて閉じた。


「す、すいません……気付かなくて……入部希望者さんですね」

 少女は机の中に本を仕舞いつつ、代わりに紙とペンを取り出す。


「わ、私はこの文芸部の部長で二年の武井たけい 藍香あいか……です。部員は私ともう一人の幽霊部員、そして貴方を合わせた計三名の寂しい部活ですけれど…………その、宜しく……お願いします…………」

 僕は桜色に頬が染まった武井部長から紙とペンを受け取ると、直ぐに名前を書いた。



 彼女は僕の入部届を嬉しそうな顔で受け取った。実に良い笑顔だった。

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