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フルングニル星域会戦ー10

 ダニエル・ストリウス大将は、旗艦ベレジナの戦闘指揮所で今にも小躍りしそうになっていた。

 偵察に向かった航空隊は待ち構えていた『共和国』軍機の攻撃を受けて相当数の機体を失ったが、バラグーダの一部は迎撃網を突破して撮影に成功した。

 その結果、小惑星帯内部から出現した『共和国』軍艦隊は、多数の高速輸送艦を含んでいることが判明したのだ。



 この戦争において、高速輸送艦はある意味戦艦や空母よりも重要な艦種だ。いくら戦闘艦艇があっても、それらに物資を供給する輸送艦が無ければ艦隊は敵地で行動できない。そして現在の前線は、『共和国』軍策源地の惑星ファブニルから遠く離れている。

 ここで輸送艦多数を撃沈すれば、それはそのまま『共和国』軍が前線に送り込める戦力の削減に直結するのだ。


 (しかし、何故そのような愚行を)


 一方、ストリウスは喜びと同時に強烈な不安を感じもした。輸送艦をこちらの艦隊の近くに突っ込ませるなど、敵の指揮官は余程無能だとしか思えない。

 だが敵のこれまでの戦いぶりは堅実なものであり、そのような愚策を弄する人物が『共和国』軍の指揮を執っているとは思えないのだ。



 「何かの罠でしょうか」


 リッター作戦参謀も、『共和国』軍の行動に困惑の表情を浮かべていた。目の前に差し出された餌はあまりに美味であるが故に、それに飛びついた瞬間に何らかの仕掛けが作動するのではないかという疑いを禁じ得ない。


 例えば考えられるのは、小惑星帯内部に第3の部隊が伏せてある可能性だ。こちらが輸送艦を攻撃しようとした瞬間、その部隊が奇襲をかけてくるのではないだろうか。




 ストリウスは小さく唸った。この状況で真っ先に考え付くのは小部隊を送って様子を見ることだが、それは典型的な兵力の逐次投入だ。やるとすれば大部隊を差し向けるか、全く差し向けないかのどちらかである。



 (やるか)


 数秒間黙考した後、ストリウスは攻撃を決意した。敵の罠によって被害を受ける可能性はあるが、輸送艦150隻前後という獲物はあまりにも魅力的だ。

 それだけの輸送艦があれば、約1個艦隊半を遠距離で行動させることができる。逆に言えば、輸送艦をここで全滅させれば敵1個艦隊半を無力化したも同然である。


 それにストリウスには、敵の罠を回避する自信があった。相手が何を企んでいるのであれ、「それ」は小惑星帯内部から行われるはずだ。

 現在交戦中の第二十五艦隊に合流する形で敵全体を小惑星帯内部に押し込むように動けば、罠を不発に終わらせることは十分に可能なはずだった。




 攻撃命令を受けたストリウスの直率部隊、第二十三艦隊は迅速に動いた。戦闘による消耗及び他の宙域での戦闘に1個分艦隊を引き抜かれたため、第二十三艦隊の現戦力は130隻程度だが、それでも旧来の軍なら鈍い機動しか出来ない規模だ。

 それが熟練の集団が行うマスゲームのように滑らかに隊列を整え、発見された『共和国』軍艦隊に向かって進んでいく。ファブニル以来、『連合』軍が確実に進歩してきたことを鮮明に示す動きだった。




 







「第二十五艦隊と交戦中の敵部隊、後退を開始しました!」


 第二十三艦隊が戦場に到着しようとする直前、索敵科から緊急信が来た。今まで数的劣勢にも関わらず奮戦していた敵だが、流石に300隻の『連合』軍艦を相手にしたのでは勝ち目が無いと判断したのだろう。


 「いいぞ」


 第二十五艦隊及び第二十三艦隊は、当然そのまま敵を追撃する。その様子を見てストリウスは勝利を確信した。

 両艦隊は敵が上下左右に逃れることを許さず、一直線に進ませることに成功している。そして敵が進む先には、例の輸送艦部隊がいるのだ。



 このまま行けば最初に現れた敵艦100隻は、自軍の輸送艦部隊目がけて突っ込む形になる。そうなれば『共和国』側の隊列は完全に崩壊し、統制の取れた行動は全く不可能になる。

 『連合』側としては輸送艦とともに、半個艦隊分以上の軍艦を沈める好機だった。


 「我々も進歩しているのだ。『共和国』軍」


 隣ではリッター作戦参謀も勝ち誇った表情でモニターを見ていた。旧来の『連合』軍艦隊であれば、このような追撃戦は不可能だっただろう。各艦の機動力も低ければ分艦隊以上のレベルにおける統制も取れていなかったので、高速の『共和国』軍艦隊に逃げられてしまったはずだ。


 しかし第二十三、第二十五の両艦隊は、旧来とは一線を画した部隊だ。高速の新鋭艦で構成され、各艦には新型の通信システムが取り付けられている。過去には見られた司令部同士の軋轢とも無縁だ。

 それらの進歩が相まって、『連合』軍が『共和国』軍を追撃戦で追いつめるという、開戦以来の快挙が実現されていた。




 「敵の両部隊、もうすぐ合流します」


 索敵科員が歓声を上げた。しぶとく逃げていた『共和国』軍だがこれで終わりだ。衝突事故を防ぐためには各艦が速力を落とさざるを得ず、互いに正面から突っ込む形になるので隊列も崩壊する。

 『連合』側にとっては、射撃演習同然の気軽さで敵を殲滅出来ることになる。


 「危ない所でしたが、我々の勝ちですね」


 報告を聞いたリッターが、慎重さの中にも喜びを隠しきれていない口調で言った。実際ストリウスたちの心眼には既に、『連合』軍の砲火を浴びて爆散していく『共和国』軍艦の姿が見えていた。


 そしてそれは、単なる1つの戦果に留まるものではない。会戦自体の勝利にも繋がる。輸送艦のついでに100隻以上の『共和国』軍艦を撃沈すれば、この場の戦力比は圧倒的に『連合』側優位になるからだ。

 その状態で敵が戦闘続行を選択すれば、『共和国』の国力にとって許容できない程の損害を与える自信がストリウスにはあった。


 またこの場の敵が撤退を選べば、第一統合艦隊と合流して敵の残り1隊を攻撃すればいい。どちらにせよ、『連合』軍は『共和国』軍をフルングニル前面で追い返すことが出来る。戦術、戦略両面で文句無しの勝利だ。




 そしてフルングニルにおける勝利はそのまま、戦争それ自体の勝利に繋がっていく。敗退した『共和国』軍が再びフルングニルに来寇するころには、『連合』宇宙軍は十分な戦力を蓄えているからだ。

 再建された軍は『共和国』の攻勢を食い止めるどころか、逆に反撃に出ることさえ可能だ。

 『共和国』による次の攻勢を撃退した後にまずはスレイブニル、続いてはファブニルを奪還し、国土奪還を完了する。この戦いに勝利した場合の『連合』の戦略はそうなっていた。





 (流石に先走りすぎか)


 ストリウスは苦笑した。失った領土の奪還は必ず行わなければならないが、それはまだ遠い将来の話だ。まずは目の前の戦いに勝利し、あるべき未来を掴むための足掛かりとしなければならない。


 不意に、強烈な不安が差し込んできたのはその時だった。あまりにもうまく行き過ぎているせいだろうかとストリウスは思った。

 輸送艦と戦闘艦艇で団子になった敵を射的屋の的のように撃てる機会等、滅多に巡ってくるものではない。あまりにも珍しい出来事が起きているせいで、恐怖にも似た気分を感じるのか。



 気分を変えようと、ストリウスは再びモニターで両軍の動きを見据えた。

『共和国』側は現在、大幅に動きが鈍っている。合計300隻がほぼ正対しながら衝突を回避するという難易度の高い機動を行っているにしては素早いとも言えるが、いずれにせよもうすぐ射程内に入る『連合』軍の攻撃は回避できないだろう。


 


 全てが順調に進んでいる。状況はそう見えた。不安材料は『連合』側の隊列が、密集した『共和国』軍艦に集中砲火を浴びせるために、やはり密集状態になっていること位だろうか。

 密集した隊列は敵の反撃に対して脆いが、『共和国』側の反撃など不可能である以上、何も問題は無いはずだ。


 だがストリウスは唐突に気付いた。今の状況は確かに「うまく行き過ぎている」。『連合』軍は『共和国』軍を追い込んだかのように見える。しかし実際は、ここに誘い出されたのではないか。




 「周囲の偵察機を全て飛ばして敵の様子を探れ、大至急だ! また全部隊、いったん敵と距離をとれ!」


 ストリウスは殆ど絶叫するように命令した。


「か、閣下、何故ですか!?」


 リッターが心底混乱したような口調で言った。偵察機はともかく、敵といったん離れるのは、千載一遇の機会を棒に振るようなものだ。リッターには、ストリウスが血迷ったように見えるのだろう。


 「罠だ」


 ストリウスは短く言った。全てを説明している時間は無い。とにかく今すぐに、ここから離れなければならない。


 「通信科より司令官。各隊の司令官から意見具申。内容はいずれも『攻撃を続行せられたし』、と」

 「無視しろ。とにかく命令に従わせるんだ!」


 ストリウスは殆ど怒鳴り返すように言った。出来ればこのような態度は取りたくないが、状況が状況だ。敵から離れなければ、2個艦隊が罠に銜え込まれてしまう。




 「偵察機隊からの映像、届きました」


 殺気立つ戦闘指揮所に、通信科から別の報告が来る。その映像をストリウスは見据えた。

 一見団子状態に見える隊列の中に、秩序だってこちらに進んでくるものが見える。多数の駆逐艦だ。輸送艦に混ざっていた艦に加え、最初の100隻に所属していた部隊も向かってきているようだ。

 駆逐艦、特に『共和国』軍駆逐艦は小型で機動性が高いため、あのような機動が可能なのだろう。

 よく見ると、駆逐艦の他にも前進してきている敵がいる。数百機の航空機だ。動きから見て、恐らく対艦ミサイルを抱えている。


 「これは…」


 リッターが愕然とした表情を浮かべた。ストリウスが言った「罠」の意味を、彼も理解したらしい。


 (間に合わない…)


 ストリウスは心臓に激痛を感じた。各艦は一斉回頭によって『共和国』軍小型艦の群れから離れようとしているが、何分密集隊形を取っているために動きが鈍い。

 ミサイルに頭から突っ込むという最悪の展開は避けられそうだが、代わりに横腹に撃ち込まれるのは避けられないだろう。



 「敵艦及び航空機、一斉にミサイルを発射しました!」


 索敵科員が絶望的な口調で叫び、ストリウスはモニターを睨み据えた。駆逐艦と航空機、それに少数の巡洋艦が一斉に光の矢を放っている。

 その中で取り分け多くのミサイルを放っている部隊、やや小型の巡洋艦で形成された集団がストリウスの目を射た。正確にはその旗艦と思しき艦の姿が。


 「あいつは…」


 リッター作戦参謀も、後部に巨大な格納庫と通信装置を持つその艦の姿に呻き声を上げていた。オルトロス星域会戦において、ストリウスの第二十三艦隊を執拗に苦しめた部隊がいた。その部隊の旗艦と、今目の前に映っている艦の姿は酷似していたのだ。

 無論同型の別の艦という可能性もあるが、ストリウスは両者が同一の艦であると直感していた。



 「ミサイル、わが艦隊に到達します!」


 ストリウスが顔を見たこともない敵将に対して思いを馳せる中、報告と言うよりは悲鳴と化した絶叫が戦闘指揮所に響く。そして、ストリウスがその生涯で初めて経験する大惨事が幕を開けた。




 まず被弾したのは巡洋艦群だった。本来の隊形では駆逐艦が最前列にいるのだが、第二十三、第二十五の両艦隊は現在後方に向けて一斉回頭中だ。

 そして俊敏な駆逐艦が一足先に回頭を終えて『共和国』軍から遠ざかったため、巡洋艦が最前列でミサイルの雨を浴びることになったのだ。


 回頭中のコロプナ級、カラコルム級、エルブルス級の各艦の横腹に青白い光が吸い込まれ、直後に灼熱した無数の破片が焼け焦げた人体の欠片とともに被弾箇所から吐き出される。

 これらの艦は巡洋艦としては強靭な装甲を持つが、世界最強の威力を誇るという『共和国』のASM-15対艦ミサイルに対しては、全くの無力だった。


 それでも被弾が1発か2発に止まった艦はそのまま回頭を続けることが出来る場合もあったが、3発以上のミサイルを被弾した艦は救いようが無かった。

 大規模な破壊が各所で発生し、応急科も対応しきれないまま拡大を続ける。反応炉周辺にまで被害が及んだ何隻かはそのまま爆発四散し、残りも操縦系統を破壊されて停止した。その様子はどこか、複数の銃弾を受けた獣が力尽きる光景を思わせた。


 


 巡洋艦群の隙間を通過したミサイルは、そのまま後方にいた戦艦、及び後退中の駆逐艦に到達した。巡洋艦に比べて遥かに脆弱な駆逐艦は次々と四散し、戦艦ですら時には致命傷を受ける。

 隊列は櫛の歯が欠けるように崩壊し、後には僚艦の爆沈によって通信系統に被害を受けた残存艦が虚しくばら撒く通信波の洪水が残された。






 「これは…」


 ミサイルの雨が通過した後に残された光景に、ストリウスは呻き声を上げた。旗艦ベレジナは後方にいたため被害を受けていないが、両艦隊の前方は沈没艦の残骸と損傷艦が無秩序に散在するガラクタ置き場と化している。

 被害自体は第一統合艦隊が敵の急襲戦術によって受けたものより数的に小さいが、第二十三、第二十五の両艦隊は『連合』新政府軍肝いりの精鋭部隊だ。新鋭艦を中心に編成され、乗員も貴重な熟練兵が多い。それを考えると、実質的な被害はより深刻かもしれなかった。


 「艦隊ごとミサイルに突っ込んで全滅しなかっただけ、良かったとすべきかと」


 リッターが被害に青ざめながらも言った。後退命令が遅れていれば、両艦隊はそのままミサイルの中に突っ込んでいた。そうなっていれば更に大きな被害を受けていたと言いたいらしい。


 「あまり慰めにはならんな」


 ストリウスは憮然として答えた。リッターは彼なりに敗北の衝撃を和らげようとしているのだろうが、水が全て零れたコップを見ながら、底に水滴が残されていることに喜びを見出そうとしているようにしか見えない。


 「とにかく、これからのことを考えよう」


 ストリウスは戦闘指揮所の全員に言い聞かせるように言った。いや、本当は自分に言い聞かせたのかもしれない。

 さっきまで目前に見えていた勝利という甘い夢は、敵の罠にかかっての敗北という苦い現実に姿を変えた。現実を潔く飲み込んだうえで、これ以上の被害を出さないように努力する。ストリウスたちが出来ることはそれしかなかった。






















 リコリスは複雑な表情を浮かべていた。敵を罠に嵌めることが出来たという喜びはあるが、最後の最後で気づかれたという悔しさの方が強い。敵司令官の能力は、リコリスの予想を僅かだが超えていたのだ。


 「艦隊ごと潰してやるつもりだったのに…」


 リコリスは眉を顰めながら状況を総括した。艦隊群全体を用いた壮大な罠が、現在閉じようとしている。

 本来なら敵の予備部隊を全滅させて一気に戦況を逆転させるはずだったが、敵司令官の迅速な判断により、そこまでの戦果は望めそうにない。罠は閉じたが相手を完全に銜え込む所までは行かず、せいぜい重傷を負わせる程度に止まったのだ。


 



 「ミサイル、敵艦隊に突入しました。敵艦100隻以上に命中と推定!」


 リコリスの複雑な感情を余所に、索敵科が有頂天口調で報告を送ってきた。索敵科員たちは細かい作戦内容を知らないため、本来の狙いがその程度の戦果では無いこともまた知らないのだ。


 「それでも大戦果だし、戦況を逆転させたのは確かです。そこまで深刻な顔をしなくてもいいんじゃないですか?」

 「まあ、失敗する可能性もあったからね。一応敵艦を沈められた分、良しとしましょうか」


 隣のリーズが宥めるように言い、リコリスは不承不承ながら頷いた。

 敵司令官がもっと有能だったり、逆に驚くほど無能だったりすれば、罠は完全に空振りに終わっていた。発案者としては、一応の戦果を上げたことを喜ぶべきなのだろう。




 リコリスが仕掛けた罠は、戦術ミスを偽装することで『連合』軍の突撃を誘い、その鼻先に大量の対艦ミサイルを撃ち込んで全滅させるというものだった。

 そのために活用されるのがコヴァレフスキーの司令部直轄部隊、及びリコリスが全体指揮を執る(と言ってもオルレアンの回線数では個別に指揮は出来ない。あくまで前進及び攻撃の開始を命令するのみ)高速輸送艦と駆逐艦である。


 まず艦隊群司令部直轄部隊の役割は、『連合』軍予備隊の一部を小惑星帯周辺での戦闘に誘うことだ。 そのような場所で戦闘を挑まれたとき、大抵の指揮官は小惑星帯内部からの奇襲を警戒する。よって『連合』軍は恐らく、この時点では小惑星帯に近づこうとしない。


 そこで登場するのが2つ目の罠、輸送艦部隊である。これを再び、小惑星帯内部から出撃させる。敵を惑わせるため、航空機多数の護衛を付けてだ。

 敵が新たに出現した部隊の正体を見破るか、或いは馬鹿正直に戦闘艦艇と誤認するかは分からない。しかしいずれにせよ、敵は司令部直轄部隊と交戦中の部隊と合流、こちらを小惑星帯に押し込むように動くはずだ。

 そうすれば撤退する司令部直轄部隊は輸送艦部隊に突っ込む形となり、『共和国』側の隊列が大混乱に陥る。『連合』軍にとっては濡れ手で粟の勝利を掴み取る好機である。




 しかしここで、リコリスが仕掛けた罠が作動する。輸送艦部隊の前方にはリコリスの第66巡洋艦戦隊、及び4個ミサイル戦闘群が隠れている。さらに約400機の航空機も、対艦ミサイルを装備した状態で周囲に展開する。

 これらの中小型艦及び航空機は運動性が高いため、100隻以上の集団同士が正面から交差する状況でも、統制のとれた攻撃が可能だ。

 つまり合計すると1000発以上のミサイルが、司令部直轄部隊を追ってくる敵の鼻先に向けて、一斉に発射できる態勢になっている。



 リコリスの当初の目論見では、『連合』軍が司令部直轄部隊を射程に収める直前、ミサイルの一斉発射命令を出すことにしていた。

 その距離まで近づけば密集した敵は回避運動をとれず、ミサイルは4割から5割の命中率を得られる。合計400発以上のミサイルが命中すれば、2個艦隊を完全に機能停止させることが可能だ。




 だが最後の最後で、敵将はリコリスの企みを察知して部隊を後退させた。やむなく予定より遠距離から発射されたミサイルはそれなりの戦果を上げたが、複数の敵艦隊を破壊するには程遠い。


 (どうするかな、敵は?)


 リコリスはモニターを眺めながら考え込んだ。罠は完全には機能しなかったが、敵艦50隻前後を撃沈ないし航行不能にすることは出来たようだ。第3艦隊群としては、劣勢だった彼我の損失比を互角ないしやや優勢にした計算になる。

 この状態で敵は交戦を続けるだろうか。或いは、別の行動を取るのだろうか。


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